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<番外編>自分の想いを知る時① side エリック

 「アタシ、一生恋愛しないで終わるって思ってたんだけどなぁ……」


 エリックの隣に立つ、白いドレスに身を包んだリリアンを見て、心の中でつぶやく。教会の祭壇の前で、神父様のありがたいお話を聞いている最中だ。そう、今日は待ちに待ったエリックとリリアンの結婚式だ。


 初めは、可哀そうな境遇にある才能のある女の子としか思っていなかった。


 そもそも、リリアンの祖国への留学だって、クラシカルなデザインや特産物である繊細なレース編みや銀細工に興味があったのもあるけど、一番の理由はブラッドリーと一緒にいることで色恋の面倒くささから逃れるためだった。当時は、少年から成長する段階で、中性的な美しさを持つエリックは、男女問わず惹きつけてしまうことを自覚していた。エリックの目論見は当たって、留学生であることと、男臭いブラッドリーといることで、周りは程よい距離感を保ってくれた。


 ブラッドリーがリリアンの姉であるマルティナに恋に落ちて、それに巻き込まれるうちにいつの間にかリリアンがいるのが当たり前になった。その頃も妹のような弟子のような気持ちで見守っていた。


 リリアンを実家から引きはがすのに奔走したのも、恋心ではなくて、デザインの天才的な才能を失うのが本気で勿体ないと思ったのと、同情心からだった。リリアンを養子にするにあたり、父上と母上からは恋愛感情の有無を再三、確認された。もし、エリックに恋心があるのなら、マーカス家に養子に入る方がよいと考えていたようだ。


 この国に来て、プレスコット家にリリアンが養子に入って、保護者がナディーンに移った時は正直な所、ほっとした。人の好き嫌いの激しいカリスタ姉さんやチェルシー姉さんもリリアンを一目で気に入って、リリアンと家族としての生活が始まった。


 それから数年は、留学で店を空けていた事と、リリアンにインスピレーションを受けてキッズラインを立ち上げたチェルシーに翻弄され、仕事に埋没した。リリアンは母上に付いて色々な所へ出かけ、色々な話を聞いて、生き生きとして過ごしている。そんな姿を見て、癒される日々が続いた。


 それまでも時折、チェルシーとエリックの営むお店に顔を出していたリリアンが、十五歳になる前くらいに仕事として毎日、工房に顔を出すようになった。デザインを描いたり、手先が器用なので、お針子の仕事や素材の仕分けなどの雑事を手伝っていた。


 一言で言ったら、ギャップに落ちたのかしらね?

 

 リリアンを好きだと思った瞬間を今でも覚えている。その時は、リリアンは、ビーズを縫い付ける作業をしていた。作業に入るとリリアンは周りの一切がシャットアウトされて、その対象物しか目に入らない。


 この子、いつの間にこんなにキレイになったのかしら?


 一心不乱に作業するリリアンの真剣な表情から目が離せない。出会った頃は無邪気で可愛い女の子だったのに、いつの間にか背も伸びて、顔立ちも可愛らしい雰囲気は残っているものの、無言でこうして作業に集中している時は美しい。


 この子がこうやって真剣に集中して、見つめる対象物に自分がなりたいって思った。リリアンと集中している対象物の間に割って入りたい、自分の方に注目を集めたい。


 この気持ちは……?


 そうして、可愛い弟子のように思っていたリリアンへの気持ちの方向性が変わったのが、自分でも分かった。気のせいかもしれない、とか、ただ美しいものを愛でているだけだとか、しばらくは自分の気持ちに自信が持てなかった。幼い頃に中年の女性に襲われかかった体験のせいもあって、恋愛感情を持ったことはないし、そういった事が苦手だった。


 それからは、もうリリアンの事を一人の女の子としてしか見られなかった。家族とか弟子とか同僚だと思っていた頃には戻れない。


 昔から、想い人が出来たら一途で、恋愛に翻弄されるマーカス三兄弟を見て、若干引いていたし、うらやましくもあった。ブラッドリーはこの国で一人、留学してからマルティナちゃんに会うまでに二人、相手から告白されてつきあったことがあるけど、どれもあっさりしたもので、短い期間で振られていた。そんなブラッドリーもマルティナちゃんと出会って、変わった。自分がどうなるのか怖くもある。


 でも、そう気持ちって止められないものなのかもしれないわね。

 リリアンを見ていたい、触れたい、自分を目に入れて欲しい。


 ブラッドリーがマルティナちゃん相手にヘタレて、尻ごんでいた気持ちが今になってわかる。リリアンは自分と同じように幼少期の体験から、男性が苦手だ。特に性的な目で見られることは嫌だろう。でも、自分を男として意識して欲しい。しばらくはどうしたらよいのか一人葛藤していた。


 でも、マーカス家とプレスコット家に、エイダというマーカス家の親戚の女の子が来たことで腹が決まった。リリアンの隣に立つのは自分でありたいし、自分の隣にいて欲しいのはリリアンだ。エリックやリリアンの容姿だったら、これからもコバエのように人が集まって来るだろう。リリアンの隣に堂々と立つために、すごく怖かったけど、アプローチをかけることにした。


 そうはいっても、これでいいのかとモダモダと悩む日々。しかも、エリックのアプローチに母や姉達からも妨害が入る。まぁ、多少、暴走している部分はあったけど、許容範囲よね?


 自分の事を何事も器用にそつなくこなす人間だと思ってたけど、ブラッドリーの兄のレジナルドの言う通り、恋愛だけはなかなか上手くいかない。ただ、エリックのアプローチにリリアンが嫌悪感を示す事はなくて、戸惑いながらも頬を赤らめてくれるのだけが救いだった。

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