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<番外編>マーカス家に嵐がやってきた⑩ side マルティナ

 プレスコット家に呼び出され、絶縁をナディーンに宣告されても、さすがエイダの父親だけあり、男爵はしつこかった。


 「そ、それでも、エイダはマーカスの血縁にあたる子ではないですか……うちの男爵家と縁を切ると言っても、エイダまで切り捨てるんですか?」


 エイダの父親は、ナディーンの怒気に当てられたのか、マーカス家の当主夫婦の方に縋るように目線を投げる。


 「本当に血縁ならね。エイダは、マーカス家の当主であるうちの父の従妹の子どもということだが……。亡くなった先妻である父の従妹との子どもではないですよね? 確かに、エイダの外見にはたまたま、マーカス家の特徴が出ている。でも、うちの国では珍しくない。ね、先妻が亡くなる前から不倫関係にあった愛人、そう今の奥さまとの間にできた子どもですよね? 父の従妹が嫁いでから、ほとんど交流がありませんでしたから、こちらを欺けると思っていましたか?」


 一歩前に出たフレドリックの説明に、ざぁっとエイダの父親の顔色が変わる。


 「え? え? パパ、どういうこと? え? アタシ死んだママの子じゃないの? 今のママの子なの? それがどうしてマーカスの血筋じゃないってことになるの?」


 「バカなお前にもわかりやすく説明すると、死んだママにはマーカスの血が流れていた。お前のパパはマーカスの血は流れていない。お前の今のママにもな。お前は死んだママとパパの子どもではなくて、今のパパとママの子なんだよ。だから、マーカスの血は一滴も流れていない」


 レジナルドがエイダを睨みつけながら、淡々と説明する。


 「そ、それは、そんなこと、どうやって証明するというんだ! 想像だけで、エイダを血縁ではないと切り捨てる気か!」


 なぜか、フレドリックには再び強気になってエイダの父親は噛みついた。


 「それがわかるんだよ。マーカス家に来た初日に健康状態を調べるって、ちょっと血液抜いただろ? 親と子の血液が揃えば、それで親子関係があるか調べられるんだ」


 「あの時の……!! 本人の許可もなく調べるなんて、そんなんダメでしょ!」


 「いーわよぉ。じゃ、あんたたちの無銭飲食にツケにした服飾費やアクセサリー代を請求するのに然るべきところに行きましょうか。ついでに、正式に血液検査もしてもらいましょう。それ、国にちゃんと認められている方法だから。それで、血縁じゃないのにそんな狼藉働いてたってなったら、もっと罪が重くなるかもねぇ……」


 ナディーンはにこやかな笑顔を向けて、えげつない提案をする。あれだけ威勢の良かった男爵は項垂れ、夫人は夫に縋っている。


 「え、私はどうなっちゃうの?」


 「お前は今までどーり、パパとママの本当の子どもとして、ぬくぬく暮らしていけばいいんじゃないか? 男爵家の血筋なのは間違いないんだろうし」

 縋るようにマーカス家やプレスコット家の面々を見るエイダに、レジナルドが冷たく告げる。


 「え、でもパパとママと一緒にいても、これから豪華な食事をしたり、可愛いアクセサリーや服を身に着けられないってことでしょ?」

 そういった方面の頭の回転はいいのか、エイダがどこまでも自分勝手なことを訴えてくる。


 「ソウカモネー。俺らの知ったこっちゃねーよ」

 レジナルドが吐き捨てる。


 「なら、なら、私もリリアンみたいにプレスコット家の養子にしてよ! その子だって、元貴族令嬢なんでしょう? その子だって、なんの苦労もなくぬくぬく暮らしていたんでしょ? 今だって、お人形みたいにちやほやされるだけで、なんの役にも立っていないじゃない!!」


 マルティナが矢面に立たされたリリアンの方を見ると、顔色は青白く、その目に表情はない。


 「うるさい。うるさい。リリアンは可愛いだけじゃなくって、いるだけで癒しの空気を放ってるんだから! あんたなんているだけで、人を嫌な気分にさせて、しかも香水つけすぎで臭いのよ! この悪臭製造機!!!」


 「そうよ。リリアンは……リリアンは、あんたと違って色々人生の辛さ味わってんのよ! それを感じさせないくらいに強いのよ! それに、手先も器用で、ドレス作りのどの工程でも任せられるし、デザインのセンスもすごいし、いるだけでデザイナーのインスピレーションを刺激するし、とにかくすごいのよ! あんたなんてうちにいらない!!!」


 ガタガタと椅子から立ち上がると、エリックと同じような綺麗な顔立ちから想像がつかないくらいの辛口の言葉がカリスタとチェルシーから放たれる。


 リリアンは、繋いでいたエリックの手をそっと放すと、椅子から立って、カリスタとチェルシーの前に立った。


 「カリスタ姉さん、チェルシー姉さん、ありがとう。私、あなたみたいな、どうでもいい人に何を言われてもかまわない。あなたの希望が通るかは、父上と母上が決めることだから。ただ、私はあなたが大嫌い」

 リリアンは青白い顔をしたまま、まっすぐにエイダを見て言った。


 「本当に生意気ね。私だってあんたなんて大っ嫌い。可愛いからってだけで、みんなにお姫様みたいにかばわれちゃって……」

 エイダはキリキリと歯ぎしりをしてリリアンを睨んだ。リリアンは静かに元の席に戻る。カリスタとチェルシーの陰で、崩れ落ちたリリアンをエリックがしっかりと抱き留めていた。


 「私だって、可愛い娘であるリリアンをいじめて、酷い事言うエイダのこと大っ嫌いよ。二度とうちの敷居を跨がせないわ。もちろん、養子入りなんて論外よ」

 「プレスコット家は男爵家と縁を切る。エイダがマーカス家と血縁があろうとなかろうと二度と関わりをもたない」

 ナディーンに続いて、今まで口を開かなかったプレスコット家の当主も言い切った。


 「そんな……」

 神経の太いエイダも涙目になる。


 「マーカス家も今後、男爵家と縁を切る。むしろ、先妻である従妹をないがしろにし、マーカス商会や関連の店、ひいては妻の血縁であるプレスコット家関連の店での迷惑行為、恨みしかないのだが……。そこは縁を切るというのなら、多少の情はかけてやる。ただし、うちもエイダを引き取ることはないし、二度と姿を現さないでほしい」


 静かに静観していたマーカス家当主も続けて宣告する。


 「エイダ、こっちの関係者の前に姿を現したり、ちょっかいかけたりしたら、初日に言ったお前の情報、ばらまくからな。お宅の父親はお前のことを極上とか言ってるけど、頭がからっぽで純潔じゃない貴族令嬢に価値なんてあんのかね」

 レジナルドが最後に釘を刺した。自分の娘がまだ小さいので念には念をいれておきたいのだろう。


 戦意をすっかり喪失した男爵夫婦は、弁済や絶縁を誓う書類に大人しくサインをすると泣きわめくエイダを引きずるように連れて帰って行った。

 

 こうして、ナディーンがマルティナに約束してくれた通り、エイダが来ることで嵐のように巻き起こった一連の騒動に幕が下りた。

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