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<番外編>マーカス家に嵐がやってきた⑧ side リリアン

 家に帰ってから、エリックにリリアンの服や髪飾りを取り上げた事や仕事を押し付けた

事をエイダはこってり怒られたらしい。


 翌日には、父上の仕事に着いて行こうとして、やんわり断られ、カリスタ姉さんの営むアクセサリーのお店に着いて行った。


 結果はリリアンにもわかるもので、宝飾品に興味があるというエイダに、彫金作業をやらせて、ほんの数分で音を上げさせたらしい。


「ほーんと、つまんない」

なぜか、夕食後にリリアンの部屋に突撃してきたエイダが我が物顔でソファでくつろぎ、愚痴をこぼす。


「マーカス家っていったら、名の通った商会だし、あそこの三兄弟って有名じゃん。カッコいいし、仕事もできるし、パパにも誰か捕まえて来たら、そこらへんの貴族に嫁ぐより安泰だぞって言われたのにさー。ぜんっぜん、なびいてくんないし。別に愛人でもいいのに。レジナルドさん、優しそうだし、奥さんに似てるって言われたことあるからいけると思ったのに、全然だし。あーあ、エリックさんならいけるかと思ったのに、超厳しいし」


「えっ? 愛人?」


「そーよ。だって、商会の奥さんって人づきあいとか仕事とか大変そうじゃーん。それなら、お金と愛だけもらって、悠々自適な暮らしをして、自分好みの愛人を囲ったほうがいいじゃん」


 リリアンは口をぽかーんと開けた。エイダの行動は不愉快なものだったけど、その思考もリリアンには全然理解できるものではなかった。


 「それが、あなたの夢なの?」

 「そーよー。私の武器はこの外見なんだから。それを最大限に生かすってわけ。まー、一番の理想はお金持ちでカッコよくて、私だけを愛してくれる人のお嫁さんになることだけど、多少の妥協はしてもいっかなーって思ってる」


 「それって、楽しいの?」


 「は? バカにしてんの? あんたこそ、埃と糸くずにまみれてあくせく働いてなにがうれしいの? ああ、あんた、マルティナの血のつながった妹なんだってね。姉妹して、そうやって男の気を惹いてんの? それがテクニック? それでブラッドリーさんとかエリックさんをたらしこんでんだから、有効なのかもねぇ」


 「でも、もしその男の人に見捨てられたらどうするの? 若さや美しさって、失われていくものだけど、それだけが武器で怖くないの? 本当にそんな生活でワクワクできるの?」


 リリアンには自分を馬鹿にされたことより、自分自身の夢を他人に託しているエイダに疑問が次々湧いてきて、そのまま問いかけてしまう。


 思えば、この国に来て出会った人はみな、自分の仕事に誇りや夢を持っていて、それが当たり前だと思っていた。だから、逆にエイダの存在にすごく違和感を抱いてしまう。


 「は? なによ、ちょっとエリックさんに気に入られてるからって、調子に乗ってんの?」


 エイダの吊り上がった目を見て、リリアンは自分が失言をしたことに気づいた。すごい勢いで迫ってきて、手をふりかぶってくるエイダに実の母親にぶたれた場面がフラッシュバックする。避けたり、顔をかばうと余計に怒られたので、リリアンは今までの癖で固く目を瞑り、ただ棒立ちになってその衝撃が来るのを待った。


 だが、その衝撃はいつまで経っても来なかった。恐る恐る目を開けると、いつの間に部屋に入って来たのか、エリックがいてエイダの腕を掴んでいる。


 「そこまでよ。明日、アナタのパパが迎えに来るわ。色々と言いたいことはあるけど、今日はおとなしく部屋に戻りなさい」

 リリアンの目の前にはエリックの背中がある。その背にかばわれていることに胸の奥がくすぐったくなった。


 「ふんっ。結局、アンタだって男頼みじゃない」

 エイダはエリックとリリアンをすごい目で睨みつけると、エリックの腕を振り払って部屋を出て行った。


 「ありがとう。エリック。私、ちょっと言い過ぎちゃったかも……」

 「そんなことないわよ。廊下中にあの子のキンキン声が響き渡ってたわよ。本当にマーカスの血縁なのかしらね? 十五歳で愛人志望って……終わってるわね」

 エリックはリリアンを気づかって、頭を撫でてくれる。


 「リリアンは大丈夫? 一人で眠れる? 添い寝しましょうか?」

 「だだだ大丈夫。眠れる眠れるから!」

 エリックがからかうように流し目で問いかけてくる。リリアンは昨日抱きしめられたことを思い出して、また顔を真っ赤にして断った。


 「ハイ、エリック回収―。やらしいから回収ー。リリアンはまだ十五歳なのよ!」

 「本当に我が弟ながら、油断も隙も無いわねー。接近禁止令出すわよー」

 エリックは、いつの間にか現れたカリスタとチェルシーに回収されていった。


 「エリックって、綺麗なだけじゃなくて、格好いいんだ……」

 エイダの衝撃的な発言もぶたれそうになったことも頭から吹き飛ぶくらい、かばってくれたエリックの後ろ姿や言葉でリリアンの頭の中は一杯になっていた。

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