<番外編>マーカス家でのたわいない雑談風景 その3 ~本編を振り返ってみよう!隣国の生活編~
マーカス家での雑談会、おしまい!
「そういえば、マルティナちゃんってうちの国に来てどう過ごしてたの? 半年ぐらい会ってない期間あったじゃない。のんびりしてたの? ブラッドリーは今は会わせられないの一点張りで、どうしてたのか知らないのよね」
「あーなんか、なんにもしてないっていうか……。ただ、食べて、家事とか仕事をして、寝てたみたいな」
「そうなの。せっかくブラッドリーと奇跡の再会☆したんでしょ? くっつくのにずいぶん時間かかったのね」
「うーん、なんでだろ? 燃え尽きちゃったっていうか、なにも気力がなくて。ただ、普通に生活を送るだけで精一杯だったんだよね。今思うと、ブラッドリーに申し訳ないなとか、もったいないことしたなって思うんだけど……会えない間、ブラッドリーに会いたいと思ってたし、ずっと恋しかったんだけどな……」
「なぁ、マルティナ。君はさっきもあの国での生活をなんでもないことのように言っていたね。本当はさ、家庭とか家族は安心できて支えてくれるはずの安全地帯のはずなんだよ。それが、地獄みたいな場所で、孤独に耐えなければならない。ブラッドリーやエリックに会って、一時的に緩和されたかもしれないけど。十七年間、ずっとその環境で生きて来たんだろ? そこからイキナリ解放されたんだ。ほっとするかもしれないけど、受け入れるのに時間がかかって当然だよ。ブラッドリーなんていくらでも待たせておけばいいんだよ」
「うう……レジナルドさんが優しいと泣ける……」
「兄さんの俺の扱いはさておき。その通りだよ。前も言ったけど、マルティナにとって必要な時間だったんだよ」
ブラッドリーがマルティナの頭を胸元に引き寄せてくれたので、それに甘えて胸元で泣かせてもらう。
「で、エミリーが空気を読まずにマルティナちゃんに突撃したってワケね」
エリックが空気を読まずに突っ込みを入れる。空気を読まないのが、この一族の特性なのかもしれない。
「ごめん、マルティナ。マルティナの状況や気持ちもよくわかってなかったのに。本当に失礼なことをしたわ。ごめんなさい」
「エミリー、もういいの。あの時も言ったけど、私情けない事に、自分の膠着した状況を打破するの苦手なの。あの時はちょうどいいタイミングだったの。……ただ、ブラッドリーの恋人かと思って、本当に怖かったんだけど」
マルティナは当時を思い出して、少し笑えてきて涙が引っ込む。
「ないない。ブラッドリーが恋人なんて吐き気がするわ。そもそもさー、ブラッドリーがマルティナに発破かければよかったんじゃない?」
エミリーが矛先を代えて、ブラッドリーに噛みつく。
「俺だってエミリーなんてお断りだよ。それに今思えば、そうなんだけど、出会った頃みたいにズケズケ踏み込めないよ。そうだよ。情けないけど、マルティナのこと好きになればなるほど、怖くて動けなくなってたんだよ」
「エミリー、そう言ってやるな。俺だってエミリーにプロポーズするのに一年かかったんだ」
「「「「ええーーー!!!」」」」
いつも悠然として余裕が感じられるレジナルドの意外な発言に皆から驚きの声があがる。
「裏で色々画策して、ウェディングドレスや腕輪を用意していたし、エミリーは俺の嫁になるって思っていたけど。それでも、いざとなるとヘタレてたんだよ、俺も。あの国の支店の引き上げとか、エミリーの店の立ち上げとか色々言い訳はあるけど。俺もブラッドリーのこと、笑えないな。恋するとみんなそんなもんじゃないのか? 仕事みたいに理論的に動けないよ」
「レジナルド……」
「情けないよなー。普段偉そうにお兄ちゃんぶってんのに」
「そんなことない。なんか一緒なんだなって思うとうれしい」
レジナルドの横ではにかむエミリーを優しく見つめるレジナルドを見て、マルティナも温かい気持ちになった。
「変なトコロ似た者兄弟なのねーやだわー」
「まーブラッドリーがうじうじしてるの見て、俺も踏ん切りついたし、結果良ければ全て良しだよ」
「確かに、自分ではなかなか動けなかったから、兄さんが背中を押してくれて感謝してるよ」
「ふふっ、私からもありがとー。ブラッドリーと結婚できて幸せ」
「マルティナちゃんが幸せだからいいけど、ブラッドリー。告白からプロポーズの流れ早すぎない? 即日ってなんなのよ?」
「だって、我慢できなくて……」
「そこだけ行動早いってどーなのよ? こっちもドレスの心積もりはしていて素材はあったし、マルティナちゃんがドレスにこだわりのあるタイプじゃないからよかったものの……。もーこーゆーのは今後勘弁してよ!」
「ごめんごめん。大丈夫だよ」
「あー……、でも、エリックまた忙しくなるかもな?」
レジナルドが意味ありげにつぶやく。
「えっ……なになに? 今度はなんなの?」
「まだ初期だけど、順調に育ったら……今度はお前の姉さんマタニティとかベビーライン作るって言うかもなー」
レジナルドがまんざらでもない顔で続ける。
「「「ええーーー!!!」」」
マルティナとブラッドリーとエリックの叫び声がマーカス家に響き渡る。
「おい、お前らうるさいぞ」
「わーエミリー、レジナルドさん!おめでとう。楽しみ~」
「もう赤ちゃんが……全力で囲い込んでるわね……めでたいことなんだけど……まだ、しばらく忙しいわね」
エリックのつぶやきが零れる。
「まぁ、エリックはしばらく仕事が恋人だな。せいぜい励めよ。じゃ、今日はこのへんで。エミリーが眠たそうだし、ブラッドリーとマルティナも深いところを話したり聞いたりで疲れただろう。エリックは仕事が控えているからな。解散」
こうして、いつもより早い時間にマーカス家の酒盛りは終幕となった。
◇◇
「マルティナ、大丈夫? 疲れてない?」
「ふふふ、ちょっと酔っ払っちゃってふわふわしてるけど、大丈夫ー」
部屋に戻ったけれど、自分の話をたくさんしたせいか、レジナルドの衝撃的な話のせいか、興奮して眠れない。ブラッドリーと二人、バルコニーのベンチで一緒に毛布にくるまり、星空を眺めている。年中温暖な気候な国だが、この季節の夜は少し肌寒い。マルティナは隣にブラッドリーのぬくもりを感じて、さらに毛布に包まれて、ぬくぬくした心地よさを味わう。
「レジナルドさんって、あんなキャラだったんだねー。あんまりゆっくり話したことなかったから、びっくりしたな」
「兄さんは外で見せる顔と身内に見せる顔が全然違うからなー。特に俺には辛辣だし」
「ふふっ。なんかじゃれあってるみたいで可愛かったよ」
「口は悪いし偉そうだけど、自分の懐に入れた人にはとんでもなく優しいし、どんな手を使っても守ってくれるから、味方にしたらこれほど心強い人はいないと思うよ」
「そうだね。あんな風に言ってもらえて、うれしかったなー。私より私の事理解してるんじゃないかな?」
「うーー……。マルティナの一番の理解者は俺でいたいけど。兄さんのが一枚上手かな?」
「言語化するのはレジナルドさんのが上手いけど、ブラッドリーの思いはちゃんと伝わってるよ」
マルティナは自分のブラッドリーへの気持ちを伝えたくてぎゅっと抱き着く。ブラッドリーはそのまま、マルティナを抱きしめて毛布もなおしてくれた。
「ねー……ブラッドリーも子どもほしい?」
心にチクッと刺さった棘のようなものをそのまま口にする。時間が経つと聞けなくなりそうなのもあって。
「マルティナとの子どもならほしいよ。でも、マルティナが産みたい育てたいって気持ちになったらでいいよ。無理だなって思うなら、いなくてもかまわない。ごめん、結婚を急いじゃったから、どうしても子どものこと考えてしまうよね」
「うん。ブラッドリーが子どものこと考えて結婚を急いだんじゃないってわかってるんだけど。マーカス家もプレスコット家も子だくさんで賑やかだから、ブラッドリーもそうなのかなーって」
「今は、正直なところ、マルティナの隣に堂々と立てるっていうのが一番大事かな……。俺が夫だぞ、みたいな。レジナルド兄さんのこと言えないな。ずっとマルティナの隣に先輩とか友達みたいなポジションでしかいられなかったから。えーとだから、なにが言いたいかっていうと、マルティナの隣にいられれば、それだけで、幸せなんだ」
「ありがとう、ブラッドリー」
ブラッドリーは確かにレジナルドほど弁が立つわけではない。それでも、拙い言葉の端々から愛情が感じられる。
「ごめんね、まだ正直なところ、子どものこと考えたくないの。怖くて」
「大丈夫。俺達結婚したけど、恋人期間とか婚約期間とかほとんどなかったから、二人で恋人期間を楽しもう。マルティナを連れて行きたい場所がたくさんあるし、たくさん甘やかしたいんだ」
「ブラッドリーはすぐ私を甘やかすね」
「ずっとそうしたかったからね。望みがかなったんだから、好きにさせてよ」
「ふふ、じゃーたくさん甘えちゃおうかな。ダンナさま、眠くなったからベッドまで運んでほしいな」
「おおせの通りに。俺のかわいい奥様」
いつものようにブラッドリーは軽くキスをすると、マルティナを毛布でくるんで横抱きにして、ベッドまで運んでくれた。酔いは醒めたけど、今夜もまたブラッドリーの思いを色々と知ることができて、心満たされてマルティナは眠りにおちていった。




