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<番外編>マーカス家でのたわいない雑談風景 その2 ~本編を振り返ってみよう!家族との縁切り編~

 「しっかし、本当にマルティナちゃんとリリアンちゃんをこの国に連れてこれるなんて思ってもみなかったわ。ミラクルね」

 

 「まーー………、勝率は低かったよな……」

 「オルブライト侯爵と繋がっていたアタシに感謝なさいよ」

 「エリックにはもう色々と頭あがらないよ……本当にありがとう」

 「ま、殊勝なブラッドリーってなんか気持ち悪い! いいのよ、アタシだってマルティナちゃんとリリアンちゃん見てたら、なんとかしてあげたいって思ったんだもの」

 

 「本当に、リリアンの除籍とプレスコット家への養子入りの件でも、お世話になったもんね。ありがとう」

 「アタシだって、リリアンちゃんみたいな才能をつぶすなんてできなかったのよ。リリアンちゃんが来てから、姉さん達も新たに子ども向けのラインを作って、商売繁盛してるし。あー、ただあの時……アタシの態度ひどかったわよね。ごめんなさいね、マルティナちゃんが悪いわけではないのに」

 マルティナの脳裏にリリアンの除籍を頼んだ時のエリックの冷たい表情がよぎる。

 「うーうん。私も考えなしだった。ごめんなさい。なんかエリックならお願い聞いてくれるって甘えがあったんだと思う。けっこう重大な話なのに」

 「本当に切り捨てるなら、リリアンちゃんが商会に入り浸るのを許してないわよ。あれだけ面倒を見ていて、知らんぷりなんてしないわ。卒業後に、マーカス家とプレスコット家には、いざという時にマルティナちゃんとリリアンちゃんを引き取る許可はもらっていたのよ。ブラッドリーと根回しはしていたのよ」

 「なーエリック。ひどい態度ってどんな?」

 何気なくはじまったエリックとマルティナの会話に、ブラッドリーの低い声がかぶさる。


 「えーいつもとちょっと雰囲気が違ったっていうか、キリッとしてたというか、お仕事モードっていうか……」

 「だって、てっきりブラッドリーとの恋の橋渡しを頼まれるのかしら?って呼び出されて行ったら、リリアンちゃんの件でしょ。ちょっとイラッとしてすんごく冷たい態度とっちゃったのよね。そしたら、リリアンちゃんを養子に出す代償に、マルティナちゃん身売りしてお金作るからなんて言い出すから……」

 「はっ?」

 「エリック! その発言はもう忘れてほしい……。あの時は、自分のことはもうどうにもならないって思いこんでて、半分やけくそになってたから……」

 真っ赤になって弁明するマルティナの横で、ブラッドリーからは殺気にも近い冷気が放たれている。


 「やだっ! ブラッドリーそんな熊でも殺しそうな目で見ないでよ。あの時は商会の引き上げもあったし、アタシも仕事山積みでけっこう追い込まれてたのよ。ブラッドリーも憔悴して見てられなかったし」

 「違うよ。エリックの態度とかマルティナの発言に怒ってるんじゃないよ。その時になにもできなかった自分自身を殺してやりたいと思ってるんだよ」

 「まー確かに。その時にブラッドリーは知っていたとしてもできることはなかったな。むしろ、お前が動いたら、頭がチンチンになって、マルティナちゃんも一緒に連れ帰ろうとして失敗してただろうな。エリックはブラッドリーに知らせずに動いて正解だよ。これがベストだったんだよ」

 ブラッドリーに抱きしめられて、マルティナはただ大人しくそのぬくもりに包まれた。少し震えているブラッドリーの腕をぽんぽんと優しく叩く。


 「そういえばさー、エリックって、オルブライト侯爵の犬だったの?」

 「犬? スコールズ伯爵家の内情を探る密偵だったのかってこと? あの保守的な国の貴族院やお貴族様が他国の商人を信用して、そんな仕事任せるわけないじゃない。本当にただの偶然だったのよ。リリアンちゃんの除籍と、うちへの養子入りについて、腹を割って相談したのよ。それぐらいの信頼関係は築けていたのよ。そうしたら、スコールズ伯爵家の瑕疵を探していた侯爵と利害が一致したってわけ。その後はトントン拍子に話が進んだのよ」

 「なるほどなー。さすがにそんな物語みたいな裏があるわけがないか」

 「全人類がレジナルドみたいに腹黒なわけじゃないわよ」

 「なるほど、エリック。お前も言うようになったもんだ」


 「そういえば、アタシも一つ気になってることがあるんだけど、マルティナちゃんの従弟いたじゃない。マシュー君だっけ? マルティナちゃん、あの従弟君となにもなかったの?」

 「エリック!」

 「なによ。ブラッドリーだって気になってるんでしょ。マルティナちゃんとくっつくまで、酔う度にぐだぐだと実はアイツのことが好きだったんじゃないかとか管巻いてたじゃない」

 「ぐぅ……」

 せっかく標的が自分からエリックに逸れたと思ったのに、また気まずい話題になって、マルティナは戸惑う。


 「んー……。なにもなかったといえばなかったし、あったといえばあったし……」

 「えーどっちなの? 告白されたとか?」

 ここぞとばかりにエミリーも突っ込んでくる。落ち込んでいるブラッドリーを更に気落ちさせないかと気になるけど、ここではっきり事実を知らせたほうが含みをもたせるほうがいいかとマルティナは開き直ることにした。

 「えーと、プロポーズされたけど断りました。以上」


 「マジか……そこまで本気だったんだ……」

 「やっぱり、マルティナもてるんじゃない」

 「でも、もうブラッドリーの事は無理めだったんだから、従弟君の手を取ってもおかしくなかったんじゃないの?」

 「マシューの事はどうしても従弟としか思えなくて、恋愛感情が涌かなくて。家とマシューの家って家督を巡ってギクシャクしていたから、本気じゃないのに、マシューを選ぶことができなかったの。たとえ、ブラッドリーとは結ばれなかったとしても」

 ブラッドリーがマルティナを抱く手の力が強くなる。項垂れてマルティナの肩に頭を預けるブラッドリーをなでる。


 「ははっ、今日はブラッドリーにとって耳に痛い話が多いな。でも、いいじゃないか気になっていた事が色々と聞けて。でも、その従弟君の口添えもあって、マルティナの除籍と移住の話がスムーズに進んだんだろ?」


 「そうだよ。リリアンの除籍の後に、エリックの口添えでオルブライト侯爵とボルトン子爵にマルティナをなにかあったら引き取りたい話は事前にしていたんだ。伯爵家の爵位譲渡が決まった後に、ボルトン子爵に呼び出されて話し合ったんだ。その時の話の焦点は、マーカス家や俺が信頼に値するかという一点だけだった」

 「マルティナの両親はクズだったけど、叔父は案外まともなんだな」

 マルティナの肩口でむくれながらも、ブラッドリーがレジナルドに、淡々と返事を返す。


 「ああ。事前に交渉材料として伯爵家の令嬢の支度金くらいの金額を提示しておいたんだけど。むしろ、金はいらないし、マルティナへの慰謝料として渡航費用や当面の生活費は支払うって言われて。ボルトン子爵はただ、今後マルティナが健やかに暮らしていけるかだけを考えていたよ」

 「放置していた姪への罪滅ぼしってわけね」


 「マルティナは性格が優しすぎて貴族には向いていないっていうのが、伯爵家の家令とボルトン子爵の共通の認識だった。あの時のマルティナは、もう何も気力が残っていないのもあった。きっと、平民になって、他国で働いて暮らした方が向いているだろうと。ただ、他国へ行ったら、マルティナが幸せに暮らしているか知る術がない」

 「で、頭を床にこすりつけて頼み込んだのか? フレドリック兄さんみたいに」


 「そんなことしてないよ。言葉は尽くしたけど。結局、マシューが学園で俺がマルティナと一緒に生徒会の仕事をしていたことや卒業パーティーで仲良くしていたことを話してくれたんだ。疲れ切っていたマルティナに笑顔が増えたこととか。仲良くはしていたけど、大抵はエリックも一緒にいたし、適切な距離を保っていたことも。そのおかげで、信頼してもらえたんだ。マシューは本当にマルティナを好きだったんだと思うよ。マルティナの幸せを一番に考えてくれたんだと思う」

 「やだー泣けるー。マシュー君、せつないー」

 エミリーはなぜかマシューに感情移入している。

 「いいじゃない。クソみたいな家族の中で、ちゃんとマルティナちゃんの幸せを願ってくれる人がいたってことなんだから」

 上手い事、エリックが話をまとめてくれた。


 「そういえばさ、俺も気になってることあるんだけど……」

 マルティナの肩口から顔を外して、ブラッドリーに顔を覗き込まれる。

 「えっ、なにかな?」

 「この国に来る前にマルティナを迎えに行った時に、凄く憔悴したたのってなんで? リリアンからは、姉もいなくなって、母親もあんまりマルティナに干渉しなくなったし、成績も生徒会も順調っぽいって聞いてたんだけど……」

 「あー……? なんだっけ?」

 本気で当時の記憶がおぼろげで、なんとか記憶を手繰り寄せる。


 「えーと、まずブラッドリーが卒業しちゃって会えなくなって寂しくて辛くて。本当は仕事をして路銀を貯めて、隣国に行こうと思ってたのに、どうやらそれが難しいって知って落ち込んで。リリアンが家を出て、更に寂しくなって。リリアンを手放したことで母に叱責されて、頬を打たれて、あんたなんか産むんじゃなかった不幸になれって言われて。姉に第二夫人になって今まで通り手伝えと言われて。あとは、貴族院で爵位譲渡の話し合いで、除籍してって願い出て、父とやりあって、父は私の名前すら忘れててって……なんかあんまり大したことないね、ふふふ」

 ブラッドリーは、マルティナへの抱擁を解くと両手で自分の顔を覆って項垂れている。

 「ブラッドリー?」

 「俺にもっと力があったらって思うよ。あの国でマルティナの傍にいても、できることなんてほとんどなくて。マルティナは辛いことに一人で耐えてたんだなって思うと……」

 マルティナは、ブラッドリーの両手を優しく顔からゆっくりひきはがしていって握る。

 「ブラッドリー、あの時の私に必要だったのは、辛い状況から攫い出してくれる王子様じゃないよ。ブラッドリーの優しさや言葉だったんだよ」

 今にも泣きだしそうな目をしたブラッドリーの顔を見つめて、言葉を続ける。

 「結果的に上手くいって、今幸せだから言えることなのかもしれないけど。確かに凄く辛かったし、もう二度とあんな体験はしたくない。ほら、ブラッドリーも迎えにきた時に言ってくれたじゃない。あの家族ととことん向き合って、言いたいことは全部言えた。だから、今はなんの感情もないし、自分が幸せになることに罪悪感がない。徹底的に向き合ったから、あの国の家族になんの未練や思いも残してないの。自分が幸せになることに躊躇せずにすむのはあの時があったからなの」

 ブラッドリーは何も言わずに、顔をくしゃっとさせてほほ笑むと、マルティナの肩を抱き寄せてマルティナの頭に自分の頭を載せるようにして寄り添う。


 「そうだな。まぁ、俺ならもっとうまくやったかもしれないけど。ブラッドリーならそんなもんだろ。そういえば、エリックはこんなに幸せなカップルに囲まれて、恋人の一人もいないのか?」

 「レジナルド? 一体誰のせいでこんなに忙しいと思ってんの?」

 「俺のせいではないだろ。俺はエミリーのウェディングドレスは一年前から発注してたしな」

 「え? プロポーズする前から?」

 「エミリーが俺の嫁になるのは既定路線だからな」

 「準備はしていても、仕上げとか微調整とかやることは山ほどあるのよ! 留学している間に仕事は山済みになってるし、リリアンちゃんが加わったことで姉さん達がはりきってキッズラインを立ち上げるし、ブラッドリーとマルティナちゃんの婚礼衣装もあったし……!!!」

 「そうかそうか。まぁ、でもひと段落したじゃないか」

 「もー聞いておいて他人事! まったく自分が幸せだからって。まーあんた達兄弟が色々あったのは知ってるし、平和でなによりよ。なんか色々わたわたしてるの見てるのも楽しいしね」

 エリックは度数の低い果実酒をゆっくりと飲み干した。


 マーカス家でのまったり酒盛りの夜はまだまだ続く……

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