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<番外編>三姉妹の中で本当にハズレなのは私【末妹編 その3】

 お母さまから、あの家から解放されたら、自由になれると幸せになれると思っていたの。もう苦手な勉強をしなくてもいいし、好きなドレスを作って暮らせる。尊敬できて、優しいエリック様の家族になれる。


 小さい頃にマルティナ姉さまに読んでもらった絵本のお姫様みたいに。不幸だったお姫様が王子様に救い出されて、幸せになったみたいに。


 でも、家から出てはじめて知ったの。私はマルティナお姉さま(ホーム)を失ったことを。


 私にとって、マルティナ姉さまは安心できる唯一の場所で、マルティナ姉様がいるから、安心してエリック様とデザインに没頭できていたの。そんな当たり前のことに家を出てから気づいた。


 でも、悲壮な表情でブラッドリー様からもらったクマのぬいぐるみを託すマルティナ姉さまの思いを無駄にはできない。だから、もうあの家に、マルティナ姉さまの元へ戻ることはできない。


 ブラッドリー様の商会で、事の経緯をエリック様から説明され、マルティナ姉さまから託されたクマのぬいぐるみを見るブラッドリー様の絶望の表情を見て、もうマルティナ姉さまに会うことはできないんだと知った。


 エリック様と隣国へと移動する道中の宿で、夜になると、ぎゅっとクマのぬいぐるみを抱きしめて泣きながら眠った。マルティナ姉さまをあの地獄のような伯爵家へ置いてきてしまった罪悪感と、あの優しいぬくもりと笑顔に会えないさみしさに涙が止まらない。


 リリアンに合わせてゆっくりした道程で、二週間後にはエリック様の実家であるプレスコット家についた。

 エリック様は平民だって言っていたけど、プレスコット家の屋敷は鮮やかな青い屋根に白い壁が映える、造りはシンプルだけど、スコールズ伯爵家と同じくらい大きな建物だった。


 早朝にもかかわらずエリック様の両親が揃ってリリアンを迎えてくれた。

 エリック様のお父様は、エリック様がそのまま年を重ねたような素敵なおじさまだった。エリック様のお母様は、きつめの美人で、どこかリリアンの母親の面影があって、リリアンに緊張が走る。エリック様のお母様がリリアン手をそっと取ると、自分の座っていたソファに座らせる。そのまま、リリアンのぴったり隣に座る。


 「あらー、さすがエリックが見初めただけあるわねー、かわいいわー」

 リリアンのほっぺをぷにぷにと指先でつついている。予想外の反応になにも言えずに固まる。


 「母上、手紙でも説明したけど、リリアンちゃんは人にベタベタされるのが苦手なの。気軽にベタベタ触らないでちょうだい。キープディスタンスよ。それに可愛いから養子にしてもらったわけでも、連れて来たわけでもないのよ」


 「可愛さ上等じゃない。人は見た目が十五割っていうでしょ。ねー。リリアンちゃんは私がこうしてるの嫌なのかしら」

 リリアンはふるふると首を横に振る。部屋に入ったときは、母親と同じようにきつそうな美人であるエリック様のお母様に委縮した。でも、その目はリリアンをじろじろと見定めるような目ではない。むしろ甘くてやさしい香りがして、マルティナ姉さまを彷彿とさせた。


 そこへまたタイプの違う美女が二人乗り込んできた。

 「エリックー、遅いじゃなーい。そりゃ色々吸収してから帰ってこいとは言ったけど、卒業してどれだけ経ったと思ってんのよ!」

 「チェルシー姉さん、ごめんなさい。これには色々と事情があるのよ……。それに、ホラちゃんと目的のレース編みの工房と契約もしてきたし。サンプル見る?」

 エリック様と同じく銀に煌めくストレートの髪を靡かせ、切れ長の綺麗な紫の瞳の下に隈のできた女性にエリックが詰め寄られている。エリック様はまるで手品のように、リリアンの国の特産品であるレースを取り出して見せている。


 「エリックゥーお帰りぃ! なんか私におみやげないの?」


 「カリスタ姉さんには、金細工と銀細工が得意な工房との契約かしらね? まだ仮契約だし、物を見て考えてみて。すごく繊細な細工で、きっと姉さんのお眼鏡にかなうと思うわよ。宝石の加工の得意な工房と契約しているから、けっこうデザインに融通きくわよ」


 「さっすが、エリック! サンプルとかあるんでしょ。見せて見せて」

 同じく銀髪で、髪先だけ大きくクルンとカールさせて、紫の大きな瞳を瞬かせた女性がエリック様にハグした。エリック様はその抱擁からもがいて抜け出すと、アクセサリーケースを渡した。


 「ほらほら、エリックの帰国が遅いから、仕事が山積みよ。キリキリ働きなさい。安心して。リリアンちゃんのお世話は私が責任を持ってするから」

 相変わらずリリアンにぴったりくっついて座って、のほほんとエリック様のお母様が告げる。


 「あら、可愛い。なになに、母上、どこで拾って来たの? モデルさん? 子供服のライン作ってもいいわね。ふーん。いいわね。またアイディアが湧いてきそうだわ」

 エリック様しか目に入っていなかったのか、リリアンに気づくと、チェルシーがお母様の隣に座るリリアンの周りをくるくる回って観察する。


 「ハイハイ、お前達、一旦落ち着いて座りなさい。こちら、我がプレスコット家の養子に入ったリリアンちゃんだ。よろしく」

 賑やかなプレスコット家の面々に戸惑うリリアンを察して、エリック様のお父様はひとつ大きく手を打つと、リリアンを家族に紹介してくれた。


 「リリアン・スコールズ……じゃなくて……」

 「もうリリアン・プレスコットよ。手続きは終わっているわ」

 リリアンがどう名乗っていいのか悩んでいると、エリック様が横から助けてくれる。


 「今日からリリアン・プレスコットです。よろしくお願いします」

 挨拶をして、ぺこりと頭を下げる。


 「長女のカリスタでーす。よろしくね。アクセサリーを扱うお店を経営してるのよ。あら、可愛い。ふーん、子ども向けの髪飾りとかブローチとか似合いそうね……。うーん、宝石じゃなくて、イミテーションやガラス玉入れて値段抑えて子供向けのもの作る? わー滾るわぁ」

 チェルシーの横からずいとリリアンの前に顔を突き出し、チェルシー同様、リリアンをまじまじと観察しはじめた。


 「次女のチェルシーです。よろしくね。エリックとドレスメーカーを立ち上げているのよ。私の担当は主にデザインよ。エリックはデザインと仕入れと事務仕事と人の管理と……要するに全部の仕事をしてるの」

 「チェルシー姉さんはデザイン特化型だからね」

 個性的なエリックが霞むくらい個性と才能あふれる家族のようだ。


 「リリアンちゃん、騒がしい家族だけど、プレスコット家一同、リリアンちゃんを歓迎しているよ。ゆっくりこの国にもこの家族にも慣れていけばいい。では、私は仕事に行くね。また、夕食の時にね」

 エリック様のお父様もリリアンの頭を一撫ですると退出していった。


 「リリアンちゃん、アタシも仕事に行くけど、本当に母上と二人で大丈夫? もし、嫌ならアタシに付いて来ても大丈夫よ」

 エリック様と、エリック様のお母様の顔を見比べて、リリアンは首を横に振った。


 「大丈夫です。エリック様のお母様のお邪魔でないのなら、お母様と二人で大丈夫です」

 チェルシーの顔の隈を見てしまったら、これ以上二人の仕事の邪魔はできない。それに、エリック様のお母様は信頼できる、なぜかそんな確信があった。


 「えーと、あとそのエリック“様”っていうの、止めてもらっていい? 今まではリリアンちゃん、貴族令嬢だったから、いいかなって思ってたんだけど。なんだか背中がむず痒くなっちゃうのよね。もう、アタシ達家族だし、お兄さんってかんじでもないから呼び捨てでいいわよ」


 「そうそう、私もお母様って柄でもないし、ナディーンって呼び捨てでいいわよ」


 「えーと、エリック……と、やはり名前では呼びづらいので、エリックが呼んでいるように母上と呼んでいいですか?」


 「ふふふ、なんでもOKよ。さ、そうと決まったら、エリックもさっさと行きなさい」


 チェルシーとカリスタはほほ笑んで、三人のやり取りを見守ってくれていた。母上の言葉を合図に三姉弟は、あっという間にみな仕事に散っていく。

  

 「そんな寂しそうな顔しなくても大丈夫。夕飯は一緒にとる掟があるから、よっぽどのことがない限り夕方にまた会えるわよ」

 母上は、ぷにっとリリアンのほっぺをつつく。

 「さー私達も行きますか。準備するわよー」


 そして、連れてこられたのは、リリアンにあてがわれた部屋にある衣裳部屋。そこには、一目見てリリアンにぴったりサイズであろう、大量の服。


 「わぁーーーー」

 「うふふ。エリックからリリアンちゃんのサイズや雰囲気聞いて、勝手に用意しちゃった。ちょっと多すぎたかしらね? 好きなの選んでちょうだい」


 伯爵令嬢であった頃は、あの国の主流であるクラシカルでかっちりとしたドレスしか着られなかった。しかも、母の趣味でリリアンにあてがわれるのは、はっきりとしたピンクや水色や黄緑の、フリルやリボンの装飾が過剰についたものだった。


 今、目の前にある服の海は、さまざまなデザインや色に溢れていて、見ているだけで、胸が高鳴り、ワクワクする。

 

 どれもすてき。しかも自分の好きなものを選んでいいなんて!

 異国に、違う環境に来たという不安も忘れて、目をキラキラさせて服を見て行く。その様を母上は急かすこともなく衣裳部屋に置いてある椅子にゆったり腰掛けて見守ってくれた。


 リリアンは、白いワンピースを選んだ。胸の下で切替のあるデザインで、胸の下の切替部分から、ベールのような薄くて透ける素材が重ねてあって、そのベールには青色と黄色の水玉模様が散っている。


 そのワンピースを着て、くるりとまわると、ベールがふわりと揺れて青と黄色が空中にゆらりと浮かぶ。


 「とってもよく似合ってるわ。髪型はどうする? お姫様」

 リリアンの部屋の鏡台の前にリリアンを座らせて、母上はやさしく髪を櫛で梳きながら、尋ねる。


 リリアンは無意識に自分の項に手をやる。幼少期に母の友人である男爵に首筋を撫でられて以来、項を出す髪型が苦手になって、だいたいハーフアップにしていた。でもこのワンピースに似合うのは。


 「母上、一つにまとめて、高い位置で結んでください」

 リリアンのくるくるしている髪を上手く一つにまとめて、高い位置で結うと、ベールと同じ布をヘアバンドのようにくるりと巻いて項の上でリボン結びしてくれた。

 「アクセサリーなんてなくても完璧ね、さ、行きましょう」

 鏡越しにほほ笑む母上の微笑みを見て、気分が高揚する。


 全身を映せる鏡で全身を見て、ふいにリリアンの中に決意が宿る。


 マルティナ姉さまに会えないと決めつけるのはやめよう。マルティナ姉さまが会いに来れないというのなら、自分が会いに行こう。

 自分がここに来られたのは、マルティナのおかげだ。ここに根付いて立派なデザイナーになって、会いに行こう。マルティナ姉さまとブラッドリー様の思いを無駄にはしない。


 「あの、どこに行くのですか?」

 リリアンと手をつないで、馬車に乗り込んだ母上に尋ねる。

 「んー、お仕事みたいな? お友達に会いに行くみたいな?」

 「私付いて行って大丈夫ですか? 邪魔じゃないですか? お留守番できますよ」

 「もー、子供がそんなに気をまわさないの。大丈夫大丈夫。仕事っていっても、色々な人とお話するだけだし、この国は子育てに寛容だから。あの子達も小さい頃はよく連れて行ったものよ」

 

 その日は、天文学者、服飾関係の人、心理学の人の話を聞いた。

 リリアンは、母上と同じテーブルで、会話をしている横で、スケッチブックとクレヨンを与えられて話を聞いたり、絵を描いたりした。時折聞こえてくる話はとてもおもしろかった。

 話し相手の方もリリアンがいることを気にする様子はなかった。


 てっきり、エリックについて一から服のデザインの勉強をするか、お針子からはじめると思っていたリリアンだったが、母上について色々な人の話を聞くのが日常となった。


 はじめに聞いていた通り、夕食は出張やはずせない仕事がある時を別として、家族の皆が揃っていた。母上によくしてもらっているが、やはりエリックの顔を見るとほっとした。


 夕食後には、時間のあるときはエリックや姉達と聞いた話をつらつら話したり、思いついたデザインについて意見をもらったりした。


 「母上はねー仕事に関係なく人脈広いし、好奇心の塊で、聞き上手だから、ああして毎日色々な話を聞いているのよ。私達も子供の頃はよく連れられて行ったわ。今でも母の話からインスピレーションをもらったりしているのよ」

 エリックの語る母上の話になんとなく納得してしまう。


 「私……本が読めなくて、字は読めるけど、文章を読んでいると、内容が頭に吸収される前に、空中でふわりとどこかに散っていってしまって。あの国で学園にも入学できないくらい勉強ができなくて。小さい頃から自分のこと、馬鹿だと思っていたんです。


 でも、母上と一緒に色々な人のお話を聞いているとそれがイメージになってちゃんと頭に入って、頭の引き出しにきちんと入ってくれるから人にも話せるし、思い出せて。知識って本からしか得られないと思っていたけど、そうじゃないんだなって思って……」


 「リリアンちゃんはバカなんかじゃないわ」

 リリアン達の会話を聞きながら、ゆったりとお茶を飲んでいた母上からやさしく頭を撫でられて、ぽろりとなみだが零れる。


 「あらー、エリックは保護者の地位を母上にとられちゃったわね」

 「いいのよ。保護者なんてたくさんいればいるほどいいのよ」

 「あっらー、おっとなー」

 エリックや姉達がわいわい騒いでいるのを聞いて、泣いているのに笑えてくる。


 そんな満たされた日々を送りながらも、未だに夜になるとマルティナを思い出して、さみしくて申し訳なくて、黒いクマのぬいぐるみを抱きしめて、声を殺して泣いて眠る日々が続いた。


 「リリアンちゃん、夜眠れてる?」

 母上からリリアンの顔に居座っている隈をなぞりながら聞かれる。


 「……ごめんなさい。この家での暮らし、夢みたいに楽しくてあったかくて、でも眠るときになるとマルティナ姉さまを思い出してしまって……」


 「なにか助けは必要? 誰か眠るまでついていたほうがいい?」

  

 「あの……あの……。辛いし寂しいし、申し訳ないし、すごくつらいんですけど、この気持ちを誤魔化したくなくて。忘れたくなくて。


 マルティナお姉さまを思って悲しいし、寂しいし、申し訳ないって思う自分の気持ちがとても大事で。


 今はその気持ちをそのまま感じていたいんです」


 「そう、それは素敵なことね。でも、声を押し殺して泣かなくていいのよ。思いっきり泣いちゃっていいのよ。だって、泣くのは子どもの仕事でしょ」


 「ふふふ……ありがとうございます」


 「でも、どうしても辛いときは誰の部屋でもいいからノックしなさい。夜眠れなくても大したことないのよ。お昼寝すればいいんだから」

 母上にやさしく抱きしめられる。リリアンは気持ちのままに、声をあげて泣いた。エリックがあんなに軽やかで温かい人なのは、育てた人がこの人だからなんだろう。


 それからも眠る前にマルティナを思って寂しくて、申し訳ない気持ちになるのは変わらないけど、声を出して思い切り泣くと、そのあとはぐっすりと眠れた。


 どうしても、眠れない夜には母上の寝室をノックして、一緒にバルコニーで星を眺めたり、ホットミルクを飲んだりして過ごした。


 そんな風にして、昼間は母上についていき、夜はにぎやかな夕飯をとり、眠るときはマルティナを思って泣く生活を続けていった。


 リリアンがこの国の生活になじんだ頃、マルティナ姉さまに会えた。リリアンには伏せられていたが、スコールズ伯爵家で騒動が起こり、運よくマルティナ姉さまも除籍されることになったようだ。その騒動の時に、マルティナ姉さまのヒーローであるブラッドリー様がマルティナ姉さまをちゃんと連れてきてくれたらしい。ひどく憔悴していたマルティナ姉さまの精神状態が安定するまではとリリアンにはそのことが伏せられていたようだ。


 「ごめんなさいね、リリアンちゃんが、夜マルティナちゃんを思って泣いていることは知っていたのだけど……」

 「大丈夫です。マルティナ姉さまはすぐ人のことばっかりになっちゃって、自分のことを後まわしにしちゃうから……自分のことを大事にする時間が必要だったのでしょう?」

 「リリアンちゃんって、こちらが思ってるより大人よね」

 困ったように笑うエリックが、リリアンの頭を軽く撫でてくれた。


 マルティナ姉さまもこちらの国に来ているという話を聞いてからしばらくして、マルティナ姉さまとブラッドリー様がプレスコット家に遊びに来た。


 リリアンは、初めてブラッドリー様とエリックが伯爵家に来て、わいわいとマルティナのドレスについて相談した日を思い出していた。


 今日は、心機一転したいというマルティナ姉さまの髪をエリックが切り、みんなで服を選ぶ。あの頃よりメンバーも増えてずいぶん賑やかだけど。


 「あらあら、さすがリリアンちゃんの姉だけあるわね、違った種類の可愛さ。あなたもプレスコット家に養子に入ってもいいのよ」

 おっとりととんでもないことを言い放つ母上。


 「伯母さん、マルティナはもう成人しているから養子に入らなくてもいいし、マーカス家が後見人になってるから」

 久々に再会したブラッドリー様は相変わらずマルティナ姉様が大好きみたい。


 「あらー、やけにむきになるわね、ブラッドリー。うーん、でもそそられるのは確かね。ちょっとうちの店で着せ替えしたいわね」

 手をわきわきさせるチェルシー姉さん。


 「アクセサリーなら鮮やかな赤が似合いそう。マルティナちゃんって美人なのに笑うと可愛いし、ちょっと陰があるところがたまんないわねー。あー、またイメージ湧いてきたー。ねー、アクセサリー作ったら贈ってもいい?」

 顎に手を当て思案顔で尋ねるカリスタ姉さん。

 そして、それを微笑みながら静かに見守る父上。


 「だから、マルティナは貸しませんって。エミリーのところで働くって決まってますし、忙しいんだからおもちゃにしないでください!」

 「えー、ブラッドリーのけちー!」

 「心の狭い男はもてないぞーう!」

 相変わらず賑やかなプレスコット家の面々とブラッドリー様とのやり取りにマルティナと顔を見合わせて笑う。


 今は相変わらず母上に付いて行って、色々な人の話を聞いて、心理学の先生のところで箱庭を作ってお話したり、絵を描いたり、人形遊びをしたり、針を持って小物やお人形さんの服なんかをちくちく縫ったりしている。


 「仕事なんていくつからでもできるし、急いで大人にならなくていいのよ。末っ子ってそういうものでしょ?」

 という母上の言葉に甘えて、気ままな日々を送っている。


 今では、服のデザイナーに道を限定しなくてもいい気もしている。でもプレスコット家の人達のように自分の好きなことを表現して、それを仕事にして生きていきたいと思う。


 マルティナ姉さまもブラッドリー様はもちろん穏やかなマーカス家の人達や商会の人達に囲まれて、以前とは見違えるくらい生き生きとして楽しそうに暮らしている。


 マルティナ姉さまは、みんなから三姉妹でハズレな存在って言われていたし、私は自分で三姉妹の本当のハズレな存在だって思ってた。


 それでも、今は大好きな人達に囲まれて、幸せに暮らしている。


 もう、マルティナ姉さまもわたしもハズレな存在なんかじゃないって胸を張って言えるわ。

リリアン(末妹編)完結です。

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