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第71話 助っ人

 夕食を手早く済ませ、野営用のテントを立て終えると、寝ているトマスのもとへ俺は向かった。



「すまんが、あっちで寝てもらうぞ」



 キュアポーションの効果が出てきたのか、トマスの表情はだいぶ安らいだものになっている。



 肩に担ごうと屈んだところで、トマスの眼が開いた。



「いや、自分で歩ける」



「体調はどうだ? 顔色はだいぶ良くなってきたみたいだが?」



「ああ、一番悪い時に比べれば、かなり楽になった」



「なんか、腹に入れとくか? アスターシアが作ってくれたお粥が焚火で温めてあるが」



 のそりと立ち上がったトマスが、自分の腹を押さえる仕草をするが、迷った表情を浮かべた。



 あの熱ではまともに飯も食えなかったことだろうし、腹が空いてそうだ。



 意外とプライドが高いトマスのことだし、タダで食わせるって言うとヘソ曲げるだろうから、対価として食わせるように伝えるか。



 俺は立ち上がったトマスに肩を貸すと、再び話しかけた。



「遠慮はするな。情報代として飯くらい追加で提供する」



「そ、そうか。なら、食わせてくれ。腹が減って目が覚めたところだ」



「じゃあ、飯食いながらでいいから、俺の質問に答えてくれ」



「ああ、いいぞ」



 俺はトマスに肩を貸して、焚火の近くに移動する。



 トマスが焚火の前で腰を下ろすと、鍋で温められていたお粥を椀にすくい、スプーンとともに彼の前へ差し出した。



「腹いっぱい食うと、空っぽの胃に悪いからな」



 トマスは椀を受け取ると、スプーンでお粥をすすり始めた。



「で、オレに聞きたいことがあるんだろ?」



 お粥を2~3口分、腹に収めたトマスが、食べる手を止め、こちらに質問を促してくる。



「ああ、なんであんなダンジョンが発生しているんだ? 明らかにこの地域では発生しないレベルのダンジョンだろ?」



「もともと、オレが探索してた時、脅威度判定はGランクで、ホーカムの街周辺にできる普通のダンジョンと同じだった」



 は? そんなわけないだろ? 魔素濃度が400%超えてる場所だし、魔物も異常に強い。



 探索はしてるけど、ダンジョンが広大すぎて、調査しきるのも何日かかるか分からないになっている。



 それがGランク? 絶対に壊れてるだろ?



「あのダンジョンが、Gランクなわけが……」



「『だった』と言っただろ」



「Gランクだったのに、急激に魔素濃度が濃くなる何か起きたってことか……」



「ああ、オレが回避した落とし穴の罠が、地下に貯まってた魔素を一気に解放しちまったのさ」



「地下に貯まってた?」



「この国はもともと空中都市だったのは知ってるだろ?」



「ああ、地上に墜落したと聞かされているが――」



「この国の地下には、かつてこの地を空に浮かべていた機関部があって、そこでは膨大な魔石が燃料として利用されてたって話だ。で、それが墜落した時に地下に埋まったままになって、魔素が大量に貯まっている場所ができてるんだ」



「それをダンジョンのトラップが繋げてしまい、今みたいな急激なダンジョン進化を促していると言うのか?」



「そういうことだ。オレとしては、あり得ないほどの確率で起きた事故って言わせて欲しいぞ」



 トマスはため息を吐くと、お椀に残ったお粥を口に運ぶ。



「何が起きたのかは理解したが、今のダンジョンになるまでにかかった期間はどれくらいだ?」



 質問を聞いたトマスは、スプーンを椀の上に置き、食べる手を止めると、指を三本立てた。



 三日!? たった三日で、あそこまで強力なダンジョンに進化したのか!?



「嘘だろ……」



「魔物を回避して脱出しようとしたら、1日過ぎてしまい。ダンジョンが拡大する方が速くて、ネズミにかじられてあの部屋に逃げ込んだのが2日前だ」



 トマスも探索者であるため、ダンジョン内での時間を確認するための懐中時計を持っていた。



 その懐中時計を見ながら、ダンジョン内での経過時間を答えてくれている。



「3日か……」



「まぁ、でも魔素溜まりも無限に魔素が湧き出るわけじゃないから、そろそろ進化の速度も鈍化して――」



「魔素濃度は、今日の時点でも400%超えている」



 俺の喋った数値を聞いたトマスの表情が蒼ざめる。



「マジか……。あれだけの成長をして、まだ400%超えてるのか……。どれだけ膨大な魔素溜まりだよ」



「とりあえず、近隣の村の人に頼んで探索者ギルドに現状を伝えに行ってもらっている。しばらく、しのげばきっと応援の探索者が送られてくるはずだ」



「間に合うのか? 絶対に魔物が溢れ出すぞ」



「明日も俺が中を探索しながら魔物を倒して、溢れ出すのを止める」



「お前、死にたいのか! 徘徊する魔物が明日にはさらに強くなってる可能性もあるんだぞ!」



 慎重派のトマスは、俺が明日もダンジョンに入ると聞き、声を荒げて制止した。



「けど、放置すればいずれ溢れ出して、この周辺は魔物だらけになる。そうなったら、村の人たちは逃げないといけなる」



「しょうがないだろ! 突発事態なわけだし、今日は探索できたかもしれないが、明日の魔物には勝てないかもしれないんだ。それくらい進化の速度が速い!」



「だから、俺がやらないといけないんですよ。そのために存在してるんでしょ。探索者ってさ」



 俺の言葉を聞いたトマスが、苦い物を飲み込んだような表情を浮かべた。



 トマスを俺の無謀に巻き込むつもりはない。



 アスターシアとともに外で待機して、俺の帰還を待ってもらう方がいいか。



「おい、ヴェルデ! 本気でやるのか?」



「ああ、やるつもりだ!」



「アスターシアやガチャも巻き込んでやるつもりか?」



「……痛いところを突く。あまりにも中の魔物が俺の手に余るなら、戦闘能力の低いガチャとアスターシアは外で待たせるつもりだ」



 トマスは深いため息を吐くと、椀を地面に置いて、頭をかき始めた。



「お前は……とんでもないやつだな……。ああクソ! このオレが魔物と戦うハメになるとはなっ! ああ、クソ! クソ! やってやるよ! もとをたどればオレのせいだしな! ヴェルデ、お前を手伝ってやる! 少なくともガチャやアスターシアよりは役に立ってやるよ!」



「トマス……いいのか?」



「ああ、男に二言はねえ! オレもヴェンドの馬鹿野郎どもの仲間入りだ! ちくしょうめ!」



 椀を再び拾い上げたトマスは、残りのお粥をスプーンでかき込んだ。



「すまない……一人でも手伝いが増えると助かる。なにせ、広大なダンジョンだ」



「ああ、任せろ。オレも調査専門探索者として、役に立ってみせるさ。明日までには、体調も戻してみせる。飯の分の仕事はするさ!」



 それだけ言ったトマスは、空になった椀を俺に渡すと、寝袋が敷いてあるテントに入った。


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