その7-02
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夕方になり、昼間の炎天下から少し解放された暑さは、余熱と残ってまだまだ一日を終わらせない。日が沈むまでも長く、夜が降りてくるまでには、まだまだ長い時間があった。
ボートで遊びに出かけるというので、早めに夕食を済ませていた三人は、早速、アイラの兄達がステイしてる部屋へと向かった。
アイラがドアを叩くと、中からアイラの弟のギデオンが姿を出した。
「おっ、丁度いい時間だな。今、呼びに行こうと思ってた所だったんだ」
ギデオンがちょっと後ろを向いて、中にいる兄達を呼ぶようにした。
それで、ゾロゾロと、男達が中から姿を現しだした。
「なに? ヤスキも来るの? 珍しいじゃない。行事に参加するなんて」
「ここにいても退屈だからな」
アロハシャツに、ジーンズをカットした短パンを履いている靖樹が、ドアから出てきて、暑そうに自分の頭をかいている。
「さあ、行くか」
アイラの二人の兄も出てきて、その手に大きなバスケットのカゴを抱えながら、前を歩き出した。
「それなに?」
興味の注がれたアイラが、足並み軽くジェイドの横に並び出した。
「アイラのご飯だろう?」
「でも、もう食べてきたわよ。遊びに出かけるから、さっき済ませてきたのよねん」
「デザートもある」
「食べる~! それに、まだお腹空いてるから、ご飯も食べるわよん」
「そうだろう?」
アイラは嬉しそうにジェイドの腕に自分の腕を通し、隣を歩いているカイリの腕も組むようにした。
なんだか、背の高い二人に挟まれて、その腕にぶら下がっているようにも見えないではないが、アイラにぶら下がられている二人はただ笑っているだけだ。
「――やっぱり……仲、いいんだな。兄妹だしな……」
その3人の後ろを歩いている龍之介が、ボソッと、それを廉に耳打ちする。
「まあ、ね」
「でも、あれだけ平らげてるのに、まだ入るんだ。すごい胃だなぁ……。おまけにデザートも――すごいよな、アイラ……」
「そうだね」
「――お兄さん達、アイラの為にわざわざ用意したのかな?」
「まあ――心配してるんだろうね」
「心配? ――なんの?」
ポソポソと、秘密ごとではないのだが、小声で話す龍之介に合わせて、小声で話す廉は、少しだけ、その視線をアイラの後ろ姿に向けていく。
「ちょっと――痩せすぎてるからかな」
「そうか――?」
それで、龍之介が改めてアイラを観察するように、その後ろ姿に目を向ける。
「そう――言われれば、そうかも知れないけど――普通じゃないのか?」
廉は龍之介のその反応を見ながら、昔、アイラが口にしていた、
「日本人ってガリ子ちゃんばっかりよね。アジア人は細いって聞いてたけど、ここまでとはねぇ」
という言葉を思い出していた。
龍之介の周囲が細い女の子で囲まれているのなら、特別、変には思わないのだろうか。
だが、廉がここに来て初めてアイラを見た時に、一番にその頭に浮かんできたことは、
「痩せてる」
だったのだ。
1年前に会った時よりも肩の線が一回りも細くなっていたのに、廉も少々驚きを隠せなかった。
まさか、アイラのあの体躯でダイエットをしているのでもなし、ピッタリとしたTシャツを着ていたあの腰の線が、更に細くなっているので、一体、何事があったのだろうか――と、訝しまずにはられなかったのも事実ではある。
ジェイドが初めてアイラに会った時に口にしたのも、痩せ過ぎている、だった。
そして、女性で従姉の美花までもアイラの姿を見て、痩せ過ぎてる、と口にしていた。
新たにやって来るアイラの家族が口にすることも、アイラは痩せてしまった――ということだった。
身内・親戚が揃って口にするのだから、廉一人が訝しんでいたのではないのだろう。
遊びには気を抜かないアイラの性格は、去年知ったことだったが、それでも、かなり極端に行き過ぎる傾向があるようなのも、廉はなんとなく簡単に想像ができていた。
アイラ達が浜辺に向かう途中、途中でアイラの他の親戚に出会い、その度に、ボートで沖に出かける予定を話すと、揃って皆が参加したがった。
それで、あまりにその数が増えてしまって、カイリが嫌そうに、
「海に出たかったら自分でなんとかしろ」
などと、さっさと半分以上を切り落とし、ええっ! と文句を言う若い従弟・従姉妹達や他の親戚を残して、予約していたヨットに乗り込んでいったのだった。
「この人数なんだから、遊びに行くって方が無理よね」
「すごい人数だもんな」
「そうよね」
「でも、俺達はラッキーだったかな。アイラのお兄さんが用意してくれたから」
「そうね」
アイラ達一行の乗っているボートは、中型のを予約できたようで――カイリがマレーシアにやってくる前に、ホテル側に話をつけていたので、借りる手筈になっているボートも、カイリ達が到着する前日にここに運ばれてきていた。
それぞれに10人乗り込める二隻のヨットで、海岸沿いをクルーズすることになったのだ。
一段低くくなって、デッキにつけられている椅子にのんびり座っている龍之介やアイラ達の前で、ヨットがエンジン音を上げ、軽快に水面を動き出していた。
「あの靖樹さん――って、意外な特技だなぁ……」
1隻はカイリが運転しているのだが、もう1隻を誰が出すか――ということになって、意外なことに、靖樹が運転することになった。
免許を持っているのが、カイリと靖樹だけだったのだが。
カイリが運転するボートには、アイラを含め、アイラ兄弟と龍之介と廉と、途中で出くわした美花、そしてなぜか、靖樹の一番上の兄の、結婚した妻の妹二人が一緒になってついてきた。
もう片方の靖樹が運転するボートでは、アイラの祖父母に、兄弟姉妹4番目の叔父の息子の双子、5番目の叔母の娘、ガブリエルとその彼氏、2番目の伯母の息子ケードと、その彼女が揃って乗っていた。
「まあ、ヤスキはああ見えても、結構、何でもしてるから。どうせ、ボートの免許だろうと役に立つ、とか考えてるんでしょうよ」
へえぇ、と納得したようなしないような相槌をしながら、龍之介は、スピードに乗って向かってくる心地よい風に顔を向けていた。
1日中、あの炎天下で遊びまくっただけに、顔に当たる水しぶきと向かい風は、最高に気持ちよいものだった。
「ああぁぁぁ、いいなぁ。休暇を満喫してるよー」
アイラ達の向かいに座っている妹二人組みの両方に、ギデオンとジェイドが座っている。
靖樹の兄の妻の2番目の妹は、なんとジェイドと同じ職場で働いているというのである。
お互いに顔見知りではあるのだが、アイラが見る限りでは、あの2番目の妹は、ジェイドを極力避けているようだった。
それを知っていて、ジェイドの方も、わざとあの2番目の妹の横に座っているようである。
「ジェイドも、何を考えてるんだか」
「なによ」
隣に座ってる美花が、アイラの方に顔を寄せて、耳打ちしてきた。
アイラは口元を曲げたような表情を見せながら、ちょっと美花側に寄って、耳打ちする。
「ジェイドよ、ジェイド」
「ああ、あれね。なんだっけ――ローズだったっけ? お堅そうな感じよね。なんか、いっつも肩張ってる感じじゃない?」
「まあね」
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