その7-01
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『お腹空いた~』
ガチャとドアを開けると同時にアイラが顔を出し、おまけに、その一言を嫌そうに言い捨てていた。
廉はカウチに座りながら、少しアイラを見返して、
『冷蔵庫にサンドイッチとフルーツサラダがある』
『食べる~』
アイラは颯爽とキッチンの横の冷蔵庫に向かい、そこにあったサンドイッチの皿と、フルーツサラダが入ったボールを手に抱え出す。
ペタペタ、と素足で広間まで戻ってきたアイラは、ストンとカウチに腰を下ろした。
水着を着たまま寝ていたアイラは、それを着替えるのでもなく、その上にふわふわのスカートを履いてきただけだった。
『おいしぃっ』
冷たいパンであっても、それにパクリついて、アイラが顔を綻ばせていく。
『ここに誰が運んでくれたの?』
『途中までは俺だけど、その後はカイリ』
『あっそ。龍ちゃんは?』
『昼前に一度戻ってきたけど、昼を食べてから、またビーチに戻ってるよ」
『さすがねぇ、龍ちゃんも。この暑さであれだけ元気なのは、龍ちゃんだけよねぇ』
パクパクと、皿にあったサンドイッチをすぐに平らげてしまったアイラは、フルーツサラダのボールにも手を移しだす。
『冷たくて気持ちいいぃ。――なんで、お昼あるわけ?』
モグモグと食べるのをやめずに、アイラがお行儀悪く話を続ける。
『お腹が空くだろうと思って、龍ちゃんと持って帰ってきたんだ』
『あらぁ、気が利くのね。これだけは、感謝だわ。お腹空いて、結局、起きちゃったもんね』
モグモグと勢いを止めずにアイラが、フルーツサラダも簡単に食べ終えてしまって、少し腹ごしらえを済ませたアイラは、満足そうにカウチで長い伸びをする。
『一つ、聞きたいんだけど』
『なに?』
『なんでそんなに痩せたんだ?』
『忙しかったのよ。でも、これから食べまくるからいいのよ』
『なんで忙しかったの?』
うん? ――と、首を倒してみせたアイラは、カウチの上に足をトンと乗せて、後ろにゆったりと寄りかかるようにした。
『遊びにお金が必要でしょうが。張り切って遊ぶには、資金がいるのよ』
『それは、そうだけど。やり過ぎじゃないのか?』
『いいのよ。これから食べまくるから。それより、なんで龍ちゃんと出かけてないの?』
『この炎天下に、2度も3度もビーチに行くのは、龍ちゃんくらいだ。この暑さにバテてしまうからね』
『それもそうよね。――3度も出かけてるの?』
『水を取りに戻ってきたけど、また戻って行ったんだ』
それを聞いて、さすがのアイラも、げぇ……と顔を引きつらせてしまう。
『いや、龍ちゃんだからできる業だな』
『確かに……。信じられない……』
『それより――』
話の先が変わって、後ろに寄りかかりながら、また寝そうになっているアイラは、そこで少し目を開けて、視線だけを廉の方に向ける。
『君のお兄さんが、後でボートを借りて沖に出るから来るなら連絡しろ、と言っていた』
『カイリが? へえ、だったら、龍ちゃんも誘って行く? ――ああ、でも、レンは部屋にいる方がいいわよね』
『なんで?』
『うちのオニイサマに混じって、ボートに遊びに行くの?』
『無視することにしているから、いいんだ』
半ば諦めたような口調で、廉がそれをこぼしていた。
くすっと、アイラがおかしそうに笑い、
『まあ、趣味よ、趣味』
『本当によく長続きする趣味だな』
『まだ、ここに来てたったの数日じゃない』
それを聞いて、廉の顔が少々うんざり気味。
『ねえ、後で出かけるんだったら、龍ちゃんを呼んできたほうがいいんじゃない? いくら元気だとは言え、日射病にもなるわよ、あんなに外出てたら』
『そうだね』
廉はテレビのリモートを取り上げて、見ていた映画を消して、スッと立ち上がった。
アイラも一度伸びをして、仕方なさそうにカウチから立ち上がっていく。
ペタペタとドアの所まで歩いていって、そこにおいてあるサンダルに足を入れて、ゆっくりと外に出始めていく。
『暑いじゃない。これで、遊びまくってるの? やるわねぇ、ホント』
朝の天気予報では、予想気温は36度である。
太陽の日差しがカンカンと地面を照りつけ、その蒸しあがった熱気が、更に熱さをもりあげているようだった。
『さっさと龍ちゃんを拾って、部屋に戻ってこないとね。私の方がバテるわ、まったく』
寝起きで、暑くて、アイラはここでも文句をブチブチである。
その歩いているアイラの横で、廉が少し屈むようにして、アイラの顔の横にその顔を近づけてきた。
『なに?』
『今日はレモンだ』
『そうね』
『昨日はオレンジだった』
『そうね』
『それ香水?』
『ボディーローションよ。汗だくになるだろうから、サッパリする匂いの方がいいと思って、今回はミックスにしたのよ』
買い物好きなアイラは、それを嬉しそうに自慢する。
『だったら、明日は?』
『うーん――ライムかな』
『柑橘系だ』
『そうね』
『他には?』
『グリーンアップルとミントとカーモマイル。カーモマイルはリラックス用だから、別だけど』
『昨日、龍ちゃんが、無性にオレンジを食べたい気分になるのはどうしてだろう、って不思議がっててね』
『ああ、なるほど』
くくっ、とアイラはおかしそうに笑いを堪えている。
『龍ちゃんって、そういうとこニブイわよねぇ』
のらりくらりと歩いている二人の視界の前で、軽やかにこっちに駆けて来る輪郭がある。
『噂をしたら何とやら、だ』
『なんか――この半日でスッカリ黒んぼになったわねぇ。龍ちゃんだったら、帰る前に黒人並みかもよ』
確かにそれはあり得る話なので、アイラと廉に向かって元気に駆け寄ってくる龍之介を眺めながら、廉はなんとなく感心してしまった。
「アイラ、起きたのか?」
「そうね。今回は、なんで戻ってきたの?」
「水がなくなったから」
「水をガバガバ飲んでも、脱水症状起こすわよ」
「ええ? なんで?」
「塩分が足りないからよ。Naよ。ナトリウム。分かる?」
「そうなのか?」
「そうよ」
へえ、それは知らなかった、と龍之介がとても素直に納得する。
「暑いから迎えに来たのよ。後で、カイリ達がボートを借りて沖に出るっていうから、龍ちゃんも行くでしょう?」
「もちろん、俺も行くぜっ」
「決まりね。それより、暑いからホテルのバーで休みましょうよ。暑過ぎて死にそうよ」
「それはいいけど、俺はお金持ち歩いてないぜ」
「私も財布ないわよ」
それで二人の視線がそのまま廉に向けられて、廉はちょっとそこで溜め息をこぼす。
「俺は40リンゲしか持ってないけど」
「だったら、グラス一杯ずつね」
決まり、と勝手に話を決めてしまったアイラである。
それで、結局、三人でホテルのバーに行くことになり、一人ずつ廉のおごりでトロピカルドリンクを頼む。
観光地だけあって、アイスクリームの盛り合わせもあったようで、もちろん、丁度、残りのお金でそれを頼み、一人で満足そうに、全部平らげてしまったアイラだった。
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