その6-04
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部屋に入ってきた二人を見て、カイリは静かにドアを閉め、ゆっくりと二人の方に歩いてくる。
半裸で、ショートパンツだけ履いているカイリは、龍之介が判断した通り、随分、鍛えられている体躯をしていた。そして、その歩いてくる様相も、そのガッチリとした体格とは反対に音がなく、身軽な足並みだった。
(この兄妹って……音無しだなぁ……)
アイラに出会ってからというもの、いつもなんとなく訝しんでいたこの事実を思い出して、龍之介は、ただ静かに、カイリの近寄ってくる様子を眺めていた。
龍之介と廉の前まで来たカイリの視線が龍之介に固定されて、その視線の先が頭から足元にゆっくりと落とされる。そして、またその視線が上がり、龍之介の目線に戻ってきた。
その――なんとなく横柄な態度にもみられない――迫力で、上から下まで観察されて、龍之介の顔が自然強張ってしまう。
「あの……なに、か――」
「随分、均整の取れた筋肉だな」
「え?」
意味が全く理解できず、強張ったままの形相で、龍之介が聞き返した。
それで、カイリがまた、ちらっと、龍之介の体に視線を落とし、
「服着てた時はそんな風にも見えなかったが、随分、均整の取れた筋肉だな。その年で、かなり動いてるな」
それは珍しい――とでも言いたげな口調だったが、龍之介の頭は完全に真っ白になっていた。
まさか、同姓の――それも年上の男から、自分の体をしげしげと観察されて、おまけに――褒められたのだろうか――気のせいかもしれないが、龍之介の体を見て、なんだか喜んでいるように見えるのは、龍之介の気のせいなのだろうか。
「……あの――いえ……その――」
「今度、お手合わせ願いたいね」
「いえ――俺なんか、絶対に適いませんから」
簡単に断言する龍之介に、ふいっとカイリが視線を上げて、龍之介を真っ直ぐに見返す。
その口元が少しだけ上がっていて、龍之介を見ているその瞳が、不敵に輝き出していく。
「なんで、そう言える? 俺は別に普通の男だし、特別、強いわけでもないぜ」
龍之介の顔が嫌そうにしかめられたが、それには返答をしない。
それを見て、益々、興味が沸いたのか、カイリが少し目を細めて、嬉しそうな顔をする。
「リュウちゃん、見かけに寄らず、かなりの腕だなあ。それは知らなかった。やっぱり、相手してもらおうかな。ここにいたら体もなまってくるし」
「いえ、俺は……結構……です――」
はっきりと断ることもできず、知らず、龍之介の語尾が小さくなっていく。
ふっ、とカイリは軽く笑って、その目を隣の廉にも向けた。
だが、龍之介の時のように上から下まで観察するのではなく、ただその視線を廉に向けただけなのである。
次に何が出てくるか……――とその様子を見守っている龍之介の前で、カイリがスッと動き出した。
「後でボートを借りて沖にでも出ようと考えてる。アイラに、混ざりたかったら連絡するように、と伝えておいてくれ」
「ああ、はい――わかりました」
じゃあ、とカイリはその場を動き出して、静かに開けっ放しのドアから外に出て行った。
その姿がなくなって、龍之介は、はぁ…と、安堵したように肩をおろしていた。
「――なんかぁ……迫力ある人なんだよな、あの人。――アイラのお兄さんだけど、なんかなぁ……」
龍之介はまた長い溜め息をこぼしていた。
まあ、龍之介の言っていることも判らないではないので、廉も口では言わずに、龍之介に全くの異議はなし。
「アイラも寝てるから、一休みして、また遊びに行こうかな」
気分を取り直して、龍之介もスタスタと部屋の中に足を進めていく。
「龍ちゃんは元気だな」
「だって、常夏なんだぜ。泳ぎまくらないと損じゃんか」
「俺は、次は遠慮するかな」
「なんで?」
「昼間はまだまだ暑くなるから、そんな場所で遊んだら、一気にバテてしまうから」
「そうか?」
「そうだよ。夕方なら、まだ少しは耐えられるだろうけど」
「そうかぁ? 俺は平気だけどな」
この炎天下に全く堪えていなさそうな龍之介は、まだまだいけそうである。
廉も少々微苦笑めいた顔をして、
「帽子とかない? あまり急激に太陽に当たってたら、日射病になるかもよ」
「そっか。確か――帽子は一応、持ってきたはずなんだ」
「昼にもでるなら、次は必要だな」
「そっか。じゃあ、俺、ちょっとシャワー浴びるけど、先にいいか?」
「どうぞ」
「廉が終わったら――」
それを言いながら、龍之介は、キッチンカウンターに置かれているラジオ時計に目を向けていた。
「昼になるかな?」
「そうだね」
「だったら、昼飯だ。イェイ!」
ガッツポーズをきめて、バスルームに走りこんでいく龍之介の背中を見送って、廉もおかしそうに笑っていた。
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