その5-04
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中央で美花が自分の祖母を抱き締めて、そして、祖父も抱き締めていき、二人がゆっくりとテーブルに戻ってきた。
「……なんだか……感動、する場面だな……。いい家族だな……」
ぽそっと呟いた龍之介に、アイラがちょっと龍之介に向いて、瞳を細めてその微笑みをみせた。
「そうね。でも、ありがとう。そうやって聞くと、嬉しいわ」
時たまだけなのだが、普段の毒気もなく、威勢もなく、ただ、ふっと、口元だけで微笑んだような笑みを、アイラが見せる時がある。
その時に、滅多に見られないからなのか、ただ驚いているのか――それでも、そう微笑まれて、ドギマギしてしまう龍之介がいる。
その程度でときめくなよ、と叱咤したくもなるが、なんとなく照れてしまうのは、自分でも止められないことであろう。
「それも、仕方がないかな。たまにだから――まあ、価値があるんだろうし」
隣で耳打ちされて、パッと廉を振り返った龍之介は、またも自分の考えが顔に出ていて、それで簡単に読まれたようで、かあっ……と、恥ずかしく顔を赤らめてしまう。
でも、龍之介一人だけではなく、廉も龍之介の反応を理解してくれているようなので、照れながらも、ちょっとは、ホッと、していた龍之介だった。
それから、食事が始まって、制服を着たウェートレスやウェーターが揃ってテーブルを周り、飲み物を注ぎ、食事のオーダーを受け取り、それぞれのテーブルが賑わっていた。
昔、どこかで習った記憶はあったのだが、こうしてきちんと畏まったテーブルで料理をいただくことがないだけに、そこに並べられた大きさの違うフォークやナイフにスプーンを見ても、龍之介にはその食べる順序というものがわからなかった。
それで、廉がこっそり龍之介に耳打ちするように、簡潔に食事のマナーらしきことを説明してくれたのである。
ホッと、一安心する龍之介は、なるべく粗相をしませんように――とそれほど慣れていないナイフとフォークで、頑張って食事に挑むのである。
前菜が運ばれてくるまで、食事が運ばれてくる間、それぞれにパンに手を伸ばしたり、チーズに伸ばしたり、軽いスナックを取りながら、どこそこでも会話が盛り上がっていた。
メイン料理を食べ終わる頃には、中央のバンドから音楽が流れ始め、デザートだけはバッフェ風になる為、その準備の間はダンスなどもどうぞ、との美花からのアナウンスが入って、会話を楽しんでいる団体も、それに興味を持ち始めた。
緩やかな音楽が流れ始め、ダンスなんかする人もいるのかな――などと考えている龍之介の前で、アイラの祖父母が立ち上がって、中央のバンドの方に歩いていくのである。
「ええっ?! あの二人、踊るのか? ――踊れるの?」
龍之介の口が大きく開いて、驚きのまま龍之介はアイラの祖父母を凝視してしまった。
「スローワルツだから、Nana とPop も踊れるでしょうよ」
いや、そういう意味で言ったのではなかったのだが、驚く龍之介の前で、更に、目の前のアイラの伯母夫婦も立ち上がり、向こうではアイラの両親も立ち上がり――なんだか、アイラの父親の兄弟・姉妹が全員、簡単に立ち上がっていたようだった。
それで、更に龍之介の驚きが大きくなって、そのクリクリとした瞳も大きく見開かれている。
「なんで? ――全員、踊るの? 踊れるの? ――なんで? ……すごいな」
「なにがよ。ダンスくらいできなくて、どうするの」
そんな風に叱られても、龍之介はダンスなど踊ったこともないのである。
美花も向こうで、カイリを誘って中央に歩いてくる。
「カイリさんも? ――踊れるの? 男なのに? ――えっ……、嘘……」
まさか――あの迫力のアイラのオニイサマまでダンスが踊れるとは知らず、バンドの前で楽しそうに踊っているグループを凝視したまま、龍之介も反応が完全に止まっていた。
そうこうしているうちに一曲が終えて、次の曲が流れ出すと、何組がテーブルに戻ってきたが、まだ何組がその場所に残っていて、龍之介達のテーブルの所にアイラの兄のジェイドがやってきた。
『お嬢さん、ダンスはいかがですか?』
気取って腕を差し出すジェイドに、アイラが手を乗せてすぐに立ち上がり、颯爽と向こうに歩いていく。
「アイラも――踊るんだ。踊れるんだ……」
「なんだか、一族揃って踊れるようだ」
まだ驚きが冷めない龍之介の横で、廉がそんなことを淡々と観察していた。
アイラの兄弟も全く問題なく、とてもスムーズにリードしていって、その足並みが正確で、想像していたアイラの兄弟像が、実はそこで180度すっかり回転していたのだった。
「はあ……、みんなやるなぁ……。――すごいな、実は……」
変な感動の仕方だったが、それはそれで仕方がない。
次の曲では美花が戻ってきたが、アイラ達は残るようで、双子達だって、アイラの従姉妹達だって皆、次の曲で、その次の曲でと、全員がダンス場で踊っていたのだった。
「ねえ、リュウちゃん。ダンス、シナイノ?」
アイラが踊っている間に、隣の席に移ってきたアイラの母親が、そんなことを聞く。
「俺ですか? 俺なんか、踊れません」
「オドレナイ? ナンデ?」
「踊ったこと……ありません。踊り方も、知りません」
あらそう、と簡単に納得したアイラの母親は、にこっと微笑みをみせる。
「ジャア、ワタシガ、オシエテアゲル」
「え? ――アイラのお母さんが? ――いえ、結構です。あの、いえ――」
「ケッコウ? ナンデ?」
「え? ――だって、俺はダンスなんか……。そんなの踊れません……」
「ダイジョウブよ。オシエテアゲル」
「いえ、あの――それは――」
この時だけは、失礼であろうと、龍之介はダンスをする気もないし、教えてもらっても踊るつもりもないのである。
「龍ちゃん、行ってくればいいじゃない」
「ええ? 俺は――ダメだよ――踊るなんて……」
「いいじゃない。クリスマスイブのパーティーなのよ。たかが、ダンスくらいなんだって言うのよ」
「ええ? 俺は、ダメだよ……」
「日本男児が、その程度のことでなに怯んでるのよ。Pop だって踊ってるじゃない」
「いや、それはそうだけど……。――アイラのおじいさんは、踊れて、上手だし、違うし……」
そんな言い訳を試みるが、その程度の言い訳が、アイラに通用するはずもなし。
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