その2-04
「君、大丈夫?」
一応、アイラの前にゆっくりと歩いてくる青年は、実際に立ってみると、日本人にしてはかなり背の高い青年だった。
そこに座っている少年と違って、少年らしくなく、少年――とも呼べる雰囲気というか風格でもなく、なんだか微妙に落ち着いた様相が、学生服を着ている高校生と言った感じではなかった。
「君、大丈夫?」
アイラの目の前で、その青年が少し首を倒すようにした。
アイラはまた口を開かないで、じぃっとその青年を黙って見上げている。
それで、相手側もじぃっとアイラを真っ直ぐに見返してくる。
互いに目もそらさずに、じぃっと観察している様子を見て、カウンターに座っている二人がちょっと顔を見合わせた。
そして、またアイラの方に向き直って、
「君、大丈夫?倒れたんだろう?気分は大分良くなったかな」
それで、アイラの視線がスッとカウンターに座っている二人に向けられた。
この顔は見覚えがあった。
生徒会長の大曽根と言っただろうか。そして、その隣は副会長の井柳院と言った生徒のはずだった。
アイラが気を失っている間に、かつぎこまれたのか、連れ込まれたのか――その場に、生徒会長と副会長が揃い、目をつけられるなよ――とのきつい忠告が、この場で全くの無駄になってしまったことに気づいてしまい、アイラは無意識にガックリと肩を下ろしてしまった。
(生徒会長と副会長だって。生徒会って、全校生徒を管理するやつじゃない)
あぁあ、と聞こえぬ溜め息をこぼして、アイラは、さてどうしようか、と次の手を考えてみる。
まさか、この場で無視を続けてさっさと退散――など到底、不可能になってくる。
「――ここ、どこ? あなた達、誰?」
初めて口を開いたアイラに、アイラの目の前の青年がまだじぃっとアイラを見返していた。
「突然、男ばっかりがいたら驚くだろうけど、俺達は危ないものじゃないよ。俺は生徒会長の大曽根司、ね。そして、こっちが副会長の井柳院君。ソファーに座ってるのがクラスメートの菊川君で、君の前に立っているのが藤波君ね。それから、君を運んだのも、そこの藤波君だから」
簡単な説明を受けて、アイラの視線がまた藤波という青年に戻っていく。
「ここ――どこです?」
「六本木」
アイラは顔には出さずに、げげぇ、と胸内で唸っていた。
どうやってここにたどり着いたのかは記憶にないが、まさかアイラをかついで電車に乗ったはずもないので、そうなると暁星高校からタクシーで六本木までやってきてしまったことになる。また、知らず溜め息がこぼれそうだった。
「あの――トイレ、借りたいんだけど」
まだじぃっとアイラを見下ろしている廉が、スッと向きをかえた。
「こっちだよ」
「どうも」
廉に案内されて向こう側のトイレに向かったアイラとは反対に、その場に残っている三人は未だにアイラの背中をじぃっと眺めていた。
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