その5-01
ブックマーク・評価★・感想・レビューなどなど応援いただければ励みになります!どうぞよろしくお願いいたします。
全員が全員揃うと、テーブルには、それぞれの、ウェーターやらウェートレスがやってきて、ドリンクの注文を取っていく。
龍之介達が座っている大きなテーブルの真ん中には、お水やジュースが入った大きな水差しが置かれていているが、アルコール類は、個人で頼むものらしい。
『ミカとアイラはどうするの? テーブルでワインでも頼む?』
テーブル越しから、アイラの伯母が龍之介達の方を向いている。
「私はどっちでもいいけど――」
それを呟きながら、アイラがミカ越しに龍之介の方を覗いてきた。
「龍ちゃんと廉は、ワイン飲む? どうする?」
「俺? ――俺は、別にいいけど」
「俺も、今はいらないから」
二人の返事を聞いたアイラが、伯母に向き直る。
「うちらは、いらないわ。私はデザート食べるまで、お酒なんかでお腹いっぱいになってられないのよね」
なにしろ、ご馳走を目の前に、アルコールでお腹がきつくなってしまった――だなどと、せっかく、マレーシアくんだり、ホリデーに来た甲斐がない。
おまけに、酔い潰れてしまったら、今夜は張り切って大騒ぎする予定なのに、それこそ本末転倒ではないか。
『グエン叔母さん、わたしはなんでもいいわぁ』
『あら、そう?』
それで、全員のドリンクが決まったようで、アイラの伯母は、隣りに座っている夫にそれを告げているようだった。
ウェーターや、ウェートレスが去らないうちに、アイラは、早速、テーブルの真ん中に置かれている、前妻のようなプレートに手を伸ばしていた。
コロコロとしたパンや、薄く切られたものから、その周りには、クラッカーやら、チーズやら、ハムの一式に、オリーブが詰まれていたり、色取り取りのディップが揃っていたりと、摘み程度なのに、ものすごい豪勢である。
「アイラ、もう少し待ってなさいよ。まだ、ドリンクも来てないじゃない」
「お腹空いてるのよ。なにせ、今夜のパーティーの為に、おやつだって摘んでないんだから」
それを言いながら、アイラはすでに、薄めのパンを何枚か取って、ハムを乗せたり、多種多様な種類のチーズを切ったり、ナイフでディップを伸ばしたりと、大忙しである。
おまけに、すぐに、その山盛りのようなスナックが、アイラの口の中に消えていってしまう。
「うん~、おいしいわよっ。龍ちゃんも、試してみなさいよ」
「え? 俺は――まだ、いいけど……」
アイラ以外は、まだ、誰一人として、テーブルに置かれている前妻のようなスナックに手を伸ばしている人はいない。
それで、龍之介だって、少々、手を出すのが憚れて、皆が手を伸ばすまで待っていたのだ。
ウェーターや、ウェートレスがトレーに乗せたグラスの山々を運んできて、早速、自分のグラスを受け取った美花が、颯爽と席から立ち上がっていた。
それで、どこに行くのだろう、と不思議に眺めている龍之介の前で、美花は設置された中央のステージのような場所に進んでいく。
「あっ、美花さん、司会だっけ?」
「そうよ。目立ちたがり屋だから、丁度いいじゃない?」
「そうなのか? でも、親戚の中で、進行役がいるものいいな」
「ミカにやらせておきなさいよ。もう、なんでも、お茶の子さいさいよ」
「へえ、そうなんだ」
「ちょっと、龍ちゃん、私達のグラスもしてよね」
「俺達のグラス?」
向かえのイラの伯母と伯父は、それぞれのワインのグラスを受け取ったようだった。
「じゃあ、ジュースか? 廉も?」
「そうだね。――俺がしようか?」
「いや――大丈夫だぜ。届くから――」
椅子から半立ちで、テーブルの真ん中に寄せられたジュースの水差しに手を伸ばし、以外に重い水差しを持ちながら、龍之介も自分達のジュースをつぎ込むことにした。
『会場に集まっている、レディーズ、アンド、ジェントルマン』
ステージのミカの呼びかけで、それぞれにグラスを受け取った参加者が、ステージの方に視線を向けていく。
『それぞれに、飲み物は受け取ったかしら? 全員が揃ってるところで、パーティーも始まるけれど、その前に、今夜のイベントを紹介するわね。まずは、全員でクリスマスの乾杯と、Nana の80歳の誕生日を祝っての乾杯もしなくちゃね。その後、お待ちかねのディナーが運ばれてくるわ。余分を省く為に、前予約していた料理が運ばれてくるから、メニューの変更はなしよ。今頃、厨房は、うちらのディナーの準備で大忙しね』
ははは、とその様子があまりに簡単に予想できて、皆もおかしそうに笑っている。
なにしろ60~70人分もの食事が、今、この場で、一斉に料理されているのだから。
『テーブルの上のスナックは食べ放題よ。飲みものも、あっちのテーブルに乗ってる分は、飲み放題ね。それ以外のオーダーと、それ以上のオーダーは、バーも開いているから、自前よ。食事が終わったら、ダンスも用意したから、全然、心配しなくても大丈夫よ』
『ミカだから、全然、心配してないぜ』
そう飛ばされて、美花も薄っすらと笑う。
『当然じゃない。私を誰だと思ってるのよ』
『ミカさま、です』
なんだか、アイラの親戚が、全員、吹き出していた。
『デザートは、食事のあとに順々にでてくるから。9時からは、娯楽用に、マレーシアの伝統ダンスを呼んだから、楽しみにしててね。この会場は、夜まで貸しきりだから、もう、今夜はたくさん楽しみましょう!』
会場からも、明るい笑いと、拍手が上がってくる。
「なんだか、すごいなぁ。やっぱり、クリスマスだから、色々、あるんだなぁ」
「そうよ、龍ちゃん。その為に、遊びに来たのよ」
「そうだけどな――。でも、こんな豪勢なパーティーに参加するのは、初めてだぜ。“ディナー”――ってな感じするよね」
「さあ、食べまくるわよ。龍ちゃん、デザートだって、かなり出てくるんだから」
「そうなのか? そいつは、すごいぜ」
今年のクリスマスは、本当に、身が濃いものである。初挑戦のディナーパーティーで、無理矢理、スーツを着せられた苦労が、ふっ飛びそうである。
『さあ、Nana、まず、ステージに上がってよ。主役がこなくちゃ、パーティーも始まらないわ』
美花に呼ばれて、向こうに座っていたアイラの祖母がゆっくりと椅子から立ち上がっていく。
隣りに、夫であるアイラの祖父を交えて、二人がステージの方に進んでいった。
「アイラのおばあさんも――ドレスアップしてるんだなぁ……」
「なに言ってんの? 当然じゃない」
あまりにアホ臭い質問をしている、とアイラは呆れているが、龍之介にしたら、あの年代の女性で――日本の老人で、華やかな長いドレスを着ている場面など、見たこともなければ、想像したこともない。
それで、西洋のドレスアップがすごいんだなぁ……――などと、改めて発見している龍之介だったのだ。
読んでいただきありがとうございました。
一番下に、『小説家になろう勝手にランキング』のランキングタグをいれてみました。クリックしていただけたら、嬉しいです。