その4-03
ブックマーク・評価★・感想・レビューなどなど応援いただければ励みになります!どうぞよろしくお願いいたします。
それで、廉がその二人の視線を受け取って、
「とてもよくお似合いですね」
淡々とした返答に、美花はなんだか少し肩眉を上げてみせた。
「どうしてか、褒め言葉に聞こえないのは、私の気のせい?」
「気のせいじゃないわよ。だって、褒め言葉じゃないもんね。この男、ホント、デリカシーがないんだから。どうして、心を込めて「きれいだね」くらい言えないのかしらねぇ」
「心からだけど」
「そう聞こえないのよ。もっと熱を込めて、言ってよね。全然、心がこもってないわ。――もう、こんなのは放っておいって、さっさと行こうよ、ミカ」
「そうね」
互いにその意見に一致したようで、美花は手持ちの小さなバッグの中身を手早く確かめて、パチンとその口を閉めていく。
アイラがゆっくりと体を起こし出し、美花の隣に並ぶようにする。
「ほら、行くわよ。パーティーで食べまくるんだから」
カツカツと、二人の靴のヒールが床を鳴らしていき、颯爽とドアを開けて二人が外に出て行き始めた。
「龍ちゃん、行こうか」
廉に促されて、龍之介も動き始め出した。
外に出てみると、確かに暑いのである。夏用のスーツとは言え、本当に汗だくになりそうだった。
カツカツと、前を歩いていく二人のドレスの裾が、歩く度にヒラヒラと軽やかに揺れている。美花は白地――というかクリーム色っぽい色のドレスで、肩を出していて、ピッタリとしたドレスがお尻の下辺りからフリルに変わっているドレスである。
ネックレスとブレスレットはお揃いのダイヤのようで、歩くたびに太陽に反射してキラキラと輝いていた。
アイラも肩出しのドレスを着ていた。目の覚めるようなオレンジのドレスで、その体の輪郭がきれいにそのまま出ていて、膝上から後ろに向かって斜めに裾が流れていっているような感じのスタイルだ。
その布地が柔らかそうで、足の間をドレスの裾がヒラヒラと軽やかに舞っている。
おまけに、背の高いアイラなのに、しっかり7cmものの高いヒールのついたサンダルを履いているものだから、出された足がスラリと伸びていて、モデル並の迫力である。
「……あんな――高いサンダル履かれたら、俺……が、すごいちっちゃく見えるんだけどな……」
「女性はヒールを履くのが多いからね。ドレスだし、やっぱり」
「そうかぁ……――アイラの横に並んだら、すごいちっちゃく見えるぜ、俺……。がっくりだ……」
「そんなにしょげないで。アイラは背が高いけど、ミカさんはそれほどでもないだろう?」
「そうだけどさ……」
「それに、背が高いのはアイラだけかもしれないし。パーティーが始まれば、そんなことも気にならなくなるよ」
「そうかなぁ……――」
「そうだよ」
励まされているのだが、それでも、ガックリと肩を落としてしまった龍之介は自分のコンプレックスからまだ回復できていない。
* * *
『アイラ、ミカ!』
指示された表示に従ってホテルの上の階にやってきた一行は、“柴岬様ご一同”の看板が立っているドアを見つけ、中に入るところだった。
アイラと美花が揃って振り返り、つい、龍之介も後ろを振り返った。
『叔母さん!』
『グエン伯母さん』
きゃぁ、と二人が龍之介の横を通り過ぎて、後ろにやってきていた――アイラの伯母さんではなかっただろうか――女性に抱きついていく。
(どこにいても、抱きつくんだなぁ……)
その光景を見ながら、龍之介はそんな他愛無いことを考えていた。
この島にやって来て以来、会う人、会う人、全員に抱き締められて挨拶をされるので、最初は気恥ずかしさで戸惑っていた龍之介だったが、1日もしないで、なんだかその光景に慣れ始めだしていた。
『ミカ、アイラ、二人とも素敵ねぇ。いいわぁ』
『グエン叔母さんも、これ素敵ぃ。叔母さんにぴったり』
嬉しそうに固まっている女性陣は、また互いのドレスを賞賛し合っている。
ドレスの布を触っては、素敵ぃ――と言っているのであろう(それくらいは、龍之介にもそのニュアンスが理解できたのだ)、それで、その色が似合ってる、ネックレスがいいわ、それどこで――などなど、なぜそんな話題で盛り上がるのかは龍之介には理解し難かったが、隣の龍之介の為に直訳してくれている廉のおかげで、ドアの入り口に立ってその女性陣を眺めている龍之介も、全部その3人の会話を漏らさず聞くことができた。
「My little princess」
その女性の夫であろう男性が、美花との挨拶を終えると、次にアイラをしっかりと抱き締め出した。
『ダニエル伯父さん~。もう、伯父さん、相変わらずハンサムで、私も溜め息がでちゃうわ』
アイラを抱き締めている男性は嬉しそうに笑っている。
「――……今、なんか……マイ・リトル・プリンセス――って言わなかった?」
「そうだね」
「――なんで、リトル……なんだろうな。アイラなんか背が高いから、リトル……なんて見えないのに――」
いや、それは愛称だから――と指摘しかけた廉だったが、あまりに真顔でそれを口にした龍之介がおかしくて、つい、笑いを堪えたような顔をしてしまっていたのだ。
そのアイラの伯母夫婦も伴って、全員が会場となる部屋に入りだしていく。
そこに一歩足を進めた龍之介の前で、白いテーブルクロスのかかった大きなテーブルがズラリと並べられていて、その上にはキャンドルが立って、グラスが揃い、皿が並べられていて、本格的なディナー用のテーブルが設置されていた。
天井にはシャンデリアが下がっていて――ホテルでは、初めからシャンデリアをつけた部屋を作っていたのだろうか――などと、そんなことまでも考えていたのだった。
シャンデリアが吊るせるような会場を作ってはいたが、毎回、シャンデリアを吊らしているというのでもないのだが。
壁側には、揃った制服を着たウェートレスとウェーターだろうか――がズラリと揃っている。
会場の中央にはバンドがあって、まだ音楽を弾き始めてはいなかったが、バンドのメンバーがそれぞれに音合わせをしているようでもあり、まさかここまで盛大なバーティーであったとは予想もしていなく、龍之介はテーブルに向かって歩いていく間、口をポカンを開けたまま天井と見上げ、キョロキョロと周囲を見渡してばかりいたのだ。
読んでいただきありがとうございました。
一番下に、『小説家になろう勝手にランキング』のランキングタグをいれてみました。クリックしていただけたら、嬉しいです。