その3-04
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ぽしょと、それをこぼした龍之介を、廉がちょっと見返した。
「そうだね。ミックスの子供は、大抵、顔形が整っているって聞くから」
「そうなのか?」
「その混ざり具合にもよるだろうけどね。でも、混血の子供は、それぞれのいい遺伝子をもらう傾向があるそうだから。アイラのお父さんがすでにハーフで、アイラは日本人のクォーターだけど、お母さんが Irish の混血だから、色々、血は混ざってるだろうね」
「そうなんだぁ。そいつは、すごいなぁ……」
夕方になる頃には、その数もまた増え続けていて、一度、部屋に戻った龍之介達だったが、先程からの驚きと興奮から抜け出せないでいる龍之介は、夕食のテーブルでも紹介された団体に――おまけに、その数に圧倒され続けていたのだった。
同室になるというアイラの従姉の美花さんにも紹介されて、日本人っぽい黒髪の面立ちだったが、よくよく観察してみると、かなり長いまつげや瞳の形など――廉曰く――混血を色強く物語っていた。
「なに? アイラの友達なんでしょう? ヨロシクね」
微笑みを投げてアイラに紹介された美花は、年上ではあるが、そう言った理由からではなくて、落ち着いた感じの大人っぽい――かなりきれいな女性だった。
「ミカの外見に騙されるのがたくさんいるのよね。この外見だったら、清楚で、おまけにミックスだから神秘的――とかも言われてて。でも、ミカの性格を知ったら超驚きものよねぇ」
「アイラはうるさいのね、ホント。そんなことあるはずないじゃない」
にこやかに微笑んでいるミカの笑顔はまだ崩れない。
「ミカの性格なんてすぐにバレるんだから、今のうちにさっさと出しておいたほうがいいわよ」
「ひとを化け猫みたいに言わないでよ」
ムッとして、美花がそれを言い返すが、アイラは気にした様子もなく、ほらね、と龍之介に向いて肩をすくめてみせた。
「それより――龍ちゃんと廉くん?」
「そうです」
「ふうん。龍ちゃんは友達? だったら、廉くんは彼氏なの?」
「違いますけど。俺も廉も友達です」
「そうなの?」
ふうん、と美花はその目線を横に移して、なんだか、廉を上から下まで観察しているようだった。
それで、また微笑みをみせ、
「ここにいる間、よろしくね」
「よろしくお願いします」
律儀な龍之介は、つい条件反射で、ペコッと美花に向かってお辞儀をしていた。
「龍ちゃんはいい子ね」
「そうよ」
「そうね。でも、もう片っぽは、危ないかも」
「廉が危ない? え? ――なんで?」
美花はそれには答えず、ただくすっと笑い、
「身内の話よ。そのうち判るわ」
と困惑ぎみの龍之介を残して、その夜が過ぎて行ったのだった。
翌日、朝食を食べにホテルのレストランに戻ってきた龍之介達の前に、アイラの家族が座ってるテーブルに、もう一人が増えていたことに気がついた。
『アイラ』
アイラがテーブルに近づいてくるなり、椅子から立ち上がったその男性が、嬉しそうに駆け寄っていくアイラをヒョイと簡単に抱き上げていく。
『カイリぃ、久しぶりっ』
『アイラ、相変わらずだ。――この痩せ過ぎてる体はなんなんだ?骨だけじゃないか』
『忙しかったのよ。これから食べまくるからいいの。それより、いつ着いたの?』
『昨日の夜だ。遅いから、挨拶は今朝まで延ばしたんだ』
『そう。元気そうね』
『俺は元気だよ。アイラは痩せ過ぎだ。ダイエットしてるなんて言わないだろうな』
『してないわよ。これから食べまくるからいいの』
それで、まだアイラを身軽に抱き上げているその男性がゆっくりと龍之介と廉の方に向き直った。
じっと、その静かな瞳が龍之介と廉に向けられて、なんだか暗黙のその迫力に押されて、龍之介も一歩引きかけてしまっていた。
『友達よ。龍ちゃんと、レンね』
『そう聞いているな』
アイラを抱き締めている腕を下ろしながら、アイラも床に下ろして行った男性は、アイラの肩に手を置いて、ゆっくりと龍之介と廉の前にやってきた。
「アイラの兄でカイリです。よろしく」
「え? お兄さん? ――それは――初めまして。あの……どうぞ、よろしくお願いします。菊川龍之介です」
「そう」
それで、無言でその視線が廉に移されて、
「藤波廉です」
「そう。アイラが世話になってるね」
「あの、いえ――そんなことは……ありませんけど……」
普通に話しているだけなのに、妙な威圧感があるというか、迫力があるというか――つい、龍之介の体が反射的に引いてしまうのが止められない。
『カイリ』
横の美花がアイラの兄の名前を呼ぶと、兄のカイリが少しだけその目線を動かし、そこにいる美花を認める。
瞳を細めて行って、その口元に笑みが浮かんで行った。
『ミカ、久しぶり』
『久しぶりね。いい男になったじゃない』
『ミカもいい女になったな』
『そうでしょう?』
『抱き心地もいいな』
『いいでしょう? カイリも随分鍛えてるのね』
『俺のはただの仕事用』
二人の抱擁が終わって、美花を離して行くカイリの目線がまた、スッと龍之介と廉の方に向けられた。
だが、美花がカイリの腕を押すようにして動き出す。
『カイリ、お腹すいたぁ。私とアイラの分のジュースよろしくね。うちらは、これから朝食取ってくるわ』
『お姫様は、相変わらず注文が多いことで』
『いいじゃない。サービスよ、サービス』
『はいはい』
カイリは美花の要望で、スッとその場を離れていく。
その後ろ姿が遠ざかって行って、龍之介はちょっと廉の方に顔を寄せていた。
「……なんか……迫力があるっていうか……なんかなぁ――。おまけに、すごい腕が立ちそうだし……」
それで廉が龍之介の方をちょっとだけ向いて、
「そう思う?」
「思うっていうか…なんていうかさ――怖そうだなぁ、あの人……」
「腕が立つから?」
「それもあるけどさ……――なんかあの迫力が……あるっていうか……――」
自分でもよく上手く説明できない龍之介は、ふう……と、そこで長い息を吐き出していただけだった。
「そうか――。的にされたから、最悪かも――」
「え? それ何? 的? 廉が? なんで?」
廉はちょっと龍之介を見返したが、それだけで続きは言わなかった。
だが、少し諦めたような溜め息をこぼして、龍之介の背中を押すようにした。
「まず、朝食を取りに行こうか。アイラ達も向こうに行ってるし」
「ああ……うん、そっか」
龍之介の知らないこれから起こるであろう波乱を予想できるのは、もちろんのこと、アイラの身内・親戚全員と、そして、完全に標的にされた――廉一人だけであろう。
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