その3-02
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「あっ、叔母さんと叔父さん」
レストランに入ってきた夫婦を見つけて、アイラがそっちの方に駆けて行った。向こうでもアイラを見つけて、その二人が嬉しそうにアイラを抱き締めていく。
「ねえ、あんたら、アイラの友達?」
「え? ――ああ、そう」
アイラの様子を見ていた龍之介は、また双子に視線を戻した。
だが、二人はなんだか意味深に口元を上げて、おもしろそうに龍之介と廉を見ている。
「なに、か……?」
「別にぃ」
「そうそう。でも、見物かも」
「そうそう」
「なにが――見物?」
「アイラのあの兄弟は、一族でも有名だから」
「アイラの兄弟が有名? ――なにが?」
さあ、と二人はまだ意味深な顔をして、ただ肩をすくめて見せるだけだ。
「それって、何?」
「さあ。まあ、頑張って生き延びれよ」
「え? それは――どういう――」
「今回のホリデーもおもしろくなりそうだ」
いやぁ、良かった――などと二人で納得して、困惑している龍之介を残して二人は自分の席に戻って行ってしまった。
「あれ――どういうことだと思う……?」
「さあ」
廉にそれを聞かれても判るはずもないのである。
それから、アイラの叔父である人に紹介されて、シンガーポール人であるという母親にも紹介されて、やんや、やんやとそこのテーブルを囲んで、楽しいお喋りが続いていた。
次には、靖樹の兄という人がやってきて、その人は結婚していて子供が二人いるので、その小さな子供が混じって、もうそこらから、かわいい、かわいい、ともてはやされていた。
その奥さんの両親と妹二人も一緒にやって来たらしく、アイラの祖父母に挨拶したり、他の親戚に挨拶したりと、かなり忙しいのであった。
昼食を終える頃には、またアイラの親戚がやってきて、一番下の叔母の一家に娘が3人、そのボーイフレンドだとか、叔母の旦那の両親と、その両親の妹夫婦だとか、親戚一同集まるだけではなく、遠巻きの身内やら知り合いやらが混ざるようで、昼をちょっと過ぎ出した頃には、陣取っていたテーブルがいっぱいになるほどに、たくさんのグループがやってきていたのだった。
「すごい数だなぁ……」
「まだ、半分もいってないわよ」
「そうなのか? ――すごい数で来るんだな」
「まあ、2週間近く泊まるんだし、かなりの人数も来るから、ミカが値切りまくったらしいから。それなら、一緒に便乗した方が安上がりじゃない?これくらいの価格で、2週間もリゾートで満喫できるんだからね」
「そうだけどさ。確かに安かったから。あれ? ――ミカさんって、なんで?」
「ミカは旅行会社に務めてるのよ。それで、今回の旅行もミカが全部予約したの。安くなったでしょう?」
「そうだな。そうかぁ、ミカさんが予約してくれたんだ。それは、後でお礼言っとかなくちゃ。ミカさんは、いつ来るんだ?」
「昼過ぎだから、もう少しでしょう。ミカは、今、香港の事務所だから、飛んでくるのもそれほど時間がかからないのよね」
「ふうん、そうなんだ」
『アイラっ!』
嬉しそうな叫び声を聞いて、アイラがくるっと後ろを振り返った。
「Mum! Dad!」
アイラが素早く椅子から立ち上がり出し、そのままの勢いで、タッと向こうに駆け出した。
「今……お母さんと、お父さん――って言ったんだよな」
「そうだね」
それで、改めて、アイラが走って行く方向に龍之介も向いていく。
アイラが駆けつけて行って、バッと腕を上げてアイラの母親に抱きついていく。
アイラの母親もアイラを抱き締め返し、二人で大喜びのようである。
『アイラ! 久しぶり。ああ――本当に、久しぶりだわ。ちゃんと顔を見せて――』
『Mum、久しぶりぃ。会いたかったわ』
『私もよ。全然、帰ってこないから、娘の顔も見れないわ』
『遠いんだもん』
『ああ、元気そうね。きれいになったわぁ』
感激の再開を済ませているアイラの両親がアイラを囲んで、やんややんやと賑わっている。
アイラの母親がアイラの顔に手を当てて、親しそうにアイラの姿を確認しているようだった。
『どうしたの? 食べてないの、アイラ? 痩せたんじゃないの?』
『忙しかったのよ。これから食べまくるからいいの』
『でも、ちゃんと食べてないの?』
『食べてるわよ。でも、忙しかったの。これから、食べまくるから大丈夫よ』
『なんだか……一気に小さくなっちゃって……。まったく、無理しすぎじゃないの?』
『そうでもないわよ。――それより、友達が来てるのよ。話したでしょう?』
向こうでアイラと喋っているアイラの母親が、アイラの肩越しに龍之介と廉を覗き込んだ。
その顔を見て、龍之介の瞳が大きく上がっていた。
「……青い目だ! 黒髪だけど……」
日本人ではないと聞いていた龍之介だったが、実際に、アイラの母親を目にして、本当に外人だった事実に改めてショック――というか驚きを受けて呆然としている龍之介だった。
「そうだね。典型的なIrishの容姿だ」
「アイリッシュ?」
「アイルランド人だよ。黒髪に青い瞳。サファイアブルーとも言われてるけど。もう一つが、赤毛に緑色の瞳。碧眼だね。アイラのおばあさんがそうだ」
「そっか……。――そうなんだぁ。そう言われて見れば、そうかもな……。そっかぁ……」
はぁ…と、未だにショックから回復していない龍之介は、そこでよく判らない溜め息をこぼしていた。
「でも……――本当に、一家が外人なんだ……。驚いたなぁ……すごいなぁ……」
このリゾート地に来て以来、龍之介の驚きが止まらない。
アイラの祖父母に会って驚いて、アイラがクォーターと知って驚いて、実の両親に会って驚いて、生きてきた中でこれほど続けざまに驚きが降ってくるというのも、本当に珍しいものだ。
「龍ちゃん、私のママね。後ろにいるのはパパと弟のギデオンよ」
「アナタ、リュウちゃん? アイラのフレンドね? あらぁ、カワイイのねぇ。ヨロシク。ワタシ、アイラのオカアサンです。ヨロシクね」
「え? 日本語……?! ――ええっ? なんで? ――外人なのに――いや、あの、その……――そうじゃなくて……あの……――」
一人、勝手に驚いてしどろもどろしている龍之介の様子を、アイラの母親が不思議そうに眺めている。
そして、にこっとおかしそうに微笑んで、
「リュウちゃんでしょ? ヨロシク。アイラのオカアサンなの。ニホンゴね、スコシハナセルノヨ。ダッテ、20ナンネンも、ニホンゴ、キイテるんだから。コドモも、ニホンゴ、ハナスシ、ニホンゴでワルクチイッテクルから、タイヘンなのよ。コレクライ、シナイト」
「はぁ……そうですか……。あの――とても上手な日本語ですね。あの――とても……上手で、驚きました…。その――菊川龍之介、です。初めまして…――その、よろしくお願いします……」
まさか、外人だと思い込んでいるその龍之介の前で、日本語が飛び交ってくるとは思いもよらず、その驚きからも抜けきれずに、咄嗟にでた挨拶もかなりギクシャクものである。
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