その2-01
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「Nana、Pop!」
部屋に入るなり、きゃーっと、アイラが感激したように大声を上げて、タッと、アイラが中に駆け寄っていく。
『アイラ!』
カウチに座っていたアイラの祖母が嬉しそうに立ち上がり、駆け寄ってきたアイラを抱き締める。
アイラも、ぎゅうっと、抱き締め返して、嬉しそうに祖母の顔を覗き込んでいった。
『Nana、なんでいつ見てもきれいなの?一体、どうして?』
『あらあら、アイラったら。お世辞が上手くなったのね』
『お世辞じゃないわよ。なんで、Nana はいつ見てもきれいなの? ズルよ、ズル』
まあ、とアイラの祖母は嬉しそうに微笑みながら、見上げているアイラの髪を梳くようにその手をゆっくりと上げていく。
『My beautiful girl。元気そうね』
『元気よ』
『アイラ』
アイラの祖母の隣に座っていた――祖父がゆっくりと立ち上がっていく。それで、アイラが片腕を伸ばし、祖父も抱き締めるようにする。
『Pop、会いたかったぁ』
『アイラ、元気そうだね』
『元気よ。Pop もまだまだ元気ね』
『そうだね。ああ……アイラは、本当にNana の若い頃にそっくりになってきたな』
『そう? じゃあ、私もNana に負けずに美人?』
『そうだね』
『Pop 大好きぃ』
アイラが祖父母を、ぎゅうっと、抱き締め直し、その感動の再開を済ませている間、龍之介は入り口にまだ立っていて、その光景に――なんとなく圧倒されていたのだった。
アイラが外人と判ったから、抱擁する挨拶も不思議はないのだろうが、龍之介の身近では、こんな抱き締める挨拶は初めてだったもので、それを見ている光景に、半分、圧倒されていたのだった。
アイラの祖父は――昔の人にしたらきっと背が高い方なのだろう。
アイラより少し低めではあったが、86歳と聞いていたのに、随分、元気そうな快活なおじいさんだった。
そして、アイラの祖母は祖父とほぼ同じ背丈で、オレンジ――赤毛なのだろう――長い髪の毛に混じって金髪っぽい白髪があった。
でも、きちんとお化粧をした顔が明るく、80歳を迎えた祖母は、動きもシャキっとしていて、とてもではないが80代の老人――には見えなかった。
『あのね、私の友達連れてきたのよ。日本人なのよ』
その言葉に、アイラの祖父母の両方の眼差しが入り口に向けられた。
龍之介はその顔を初めて真っ直ぐ見やり、
(随分……きれいな人なんだなぁ……)
と感心してしまっていた。
龍之介の身近で80代の老人と言えば――自分の祖父がその年齢に近づいてはいるが、他の知り合いも見ても、やはり年をとってるなぁ、と思わずにはいられない動きや仕草とかがあった。
でも、嬉しそうに微笑みを浮かべて龍之介の前に歩いてくるアイラの祖母を見ながら、その動きが軽く、元気な足並みにかなり驚いていたのだ。
『まあまあ、アイラのお友達なの?日本から来たのね。よく来てくれたのね。うれしいわ』
龍之介の前で微笑みを浮かべているアイラの祖母が、龍之介の手を取って、本当に嬉しそうにその手をしっかりと握り締める。
それで、龍之介も、咄嗟に、きちんとアイラの祖母の手を握り返していた。
『もう、日本語を話すことなんかなかったから、私もすっかり忘れてしまったわ。昔はたくさん勉強したのにね』
すぐ後ろにやってきたアイラが通訳してくれて、それを聞いている龍之介はアイラの祖母に視線を戻した。
「あの――俺は…英語はあまり、得意じゃないんで……。でも、あの――初めまして。よろしくお願いします……」
龍之介の日本語をアイラが通訳して、それを聞き終えた祖母が瞳を細めて嬉しそうに笑う。
『そうよね。その言葉……なんとなく、覚えているわ。「ハジメマシテ」だったわ』
「あっ……そうです。初めまして」
うふふ、とアイラの祖母は嬉しそうな微笑みをやめない。
『よく来てくれたね。こうやって日本人に会うのは、とても久しぶりだ』
アイラの祖父も寄ってきていて、まだアイラの祖母が握り締めている手の上に自分の手を重ねるようにした。
「初めまして。私も――日本語を、忘れて、しまいました」
「え? ――そんなこと、ありませんっ。とっても――上手です。本当に――」
戸惑う龍之介の前で、アイラの祖父も嬉しそうに瞳を細めていく。
それを見ていた龍之介は、優しそうなおじいさんとおばあさんだなぁ……と、甚く、感動していたのだった。
「龍ちゃんと、こっちがレンね」
「初めまして。藤波廉です」
『ああ、初めまして。よくいらしてくれたわ。日本のね、青年を見るのは、本当に久しぶりなのよ』
アイラの祖母が龍之介の手から離れて、今度は廉の手を両手で握り締めていく。
『アイラの祖母のミアよ。そして、私の夫の源二。本当によくきてくれたのね』
さあさ、中に入って――と勧められ、龍之介と廉は広間のカウチに腰を下ろして行った。
アイラは祖母の隣に座るようで、一緒にカウチに腰を下ろすや否や、龍之介の後ろに立っている兄のジェイドに向かって、
『ジェイド、喉渇いた。なんか飲み物、ちょうだい?』
『Nana がね、ジュースを用意してくれているよ。アイラ達が着いたら暑いだろう、とね』
『Nana、大感謝!暑かったのよ、ホント。歩くだけも汗が出てくるわ』
ジェイドは、スッと、その場を離れ、キッチンに姿を消して行く。
『ねえ、二人とも、疲れてないの? 旅はどうだった? ちゃんと休めれたの?』
『ふふ、そうね。昨日はずっと寝ていたのよ。ちょっと……暑いけれど、これから少しずつ慣れるわね』
ペラペラと、英語で話していたアイラだったが、それと同じくらいの速さで日本語の通訳も済ませ、また会話に戻っていくようだった。
学校の話をしたり、アイラの祖父母の日課の話を聞いたり、他の家族の話や、これからやってくる親戚の話が出たり、その度に、英語と日本語の両方の通訳を済ませるアイラのおかげで、龍之介はアイラの祖母や祖父とかなりたくさんの会話をすることができたのだった。
「ジェイドはね、Nana とPop の世話役なのよ。それで、三人で一足早く飛んできた、というわけ。でもね、NanaとPopの世話するからって、一緒になってファーストクラスよ。どういうことだと思う? ひいきよねぇ」
「え? それは―――そうかなぁ…」
「そうよ。Nana とPop は判るけど、ジェイドまでズルよねぇ」
「俺はきちんと二人の面倒を見る責任があるから、二人から離れて座ることもできないだろう?」
「ズルよねぇ、ホント」
アイラの祖父母が、アイラとジェイドのやりとりを聞きながら、おかしそうに笑っている。
「でも、ジェイドの分まで出すなんて、ヒイキよねぇ」
「なんで?」
『クリスマスプレゼントとして、みんながね、旅行用のチケットをプレゼントしてくれたのよ』
アイラの祖母に説明されて、へえぇ、と甚く感心したように納得する龍之介だった。
「皆で出し合ったのか? 偉いなぁ。いいなぁ。皆、すごいなぁ」
「クリスマスだもん。こんな彼方まで一人一人のプレゼントなんて運んでこれないでしょう? だから、今回は身内でプレゼント交換はしてもいいけど、親類の分まではなしなのよ。他のプレゼントだけで、スーツケースが埋まっちゃうわ」
「なるほど。――あれ? でも、そんなにたくさん親戚いるのか? そう言えば、アイラの親戚って何人くらいなんだ? たくさんだから、割引してくれる、って言ってただろ? そんなにいたのか?」
どこにいても質問癖が出てきて、アイラと龍之介が喋っている間は、アイラの祖父の隣に座っているジェイドが通訳を済ませてくれていた。
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