その1-04
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「もうそろそろ着くだろうと思って待っていたんだ。Nana とPop が部屋でアイラを待ってる。チェックインを済ませたのだろう? 荷物を置いたら、Nana の部屋においで」
「Nana とPop は元気? 長旅も大丈夫だった?」
「二人とも元気だよ。昨日はゆっくり休んだから、少しずつ暑さに慣れてきたようだし」
「そう。だったら、荷物置いて、すぐに行くわね。部屋どこ?」
「No.30だよ。入ってすぐの右側だ」
「そう。じゃあ、Nana とPop に今すぐ行くって伝えてよ」
「アイラの友達も連れておいで。日本人が来ていると分かったら、喜ぶだろう」
「そうね」
アイラは身軽に龍之介と廉の所に駆け戻ってきた。じゃあね、と簡単な挨拶を投げて、龍之介と廉を促して歩き出す。
龍之介はアイラにつられて歩き出しながら、自分の疑問を聞かずにはいられなく、結局、すぐに口に出して聞いてしまうのである。
「ナナとポップって誰だ?」
「おばあちゃんとおじいちゃんよ」
「おばあさんと、おじいさん? なんで、ナナとポップなの?」
「龍ちゃん、イギリス系の祖父母は、ナナとポップって呼ぶのが多いんだ。日本で使っているPapaで、おじいさん、と言う意味にもなるしね」
「へぇぇ、そうなのか。それは知らなかったな。なんか――ここにきて、勉強になるなぁ。アイラが外人だから、アイラの身内も外人になるだろ? だったら、みんな英語で話すのかな――あれ? でも、アイラのお兄さんは日本語だったし。アイラも日本語話すし。英語じゃないのか?」
「龍ちゃんって、旅疲れも吹っ飛ばして元気よね」
「俺が? なんで?」
「相変わらず、思ったことが口からポンポン出てくるじゃない。こんな暑いトコで質問続けてたら、疲れないの?」
「それは――別に、ないけど。それに、旅行だから、興奮してるし……」
「興奮しすぎで、バッタリぶっ倒れないでよ。それでなくても、常夏なんだから。今から燃え過ぎてちゃ、後まで続かないわよ」
「いや、俺は結構暑いのも平気だから、大丈夫だけどさ」
「龍ちゃんって、元気よねぇ、ホント」
変な感心をされて、龍之介は返答に困ってしまったが、歩いていった先の家――というか、バンガローの前に番号のついて看板が立っている。
「30番だ。ここだろ、俺達の部屋?本当に海のすぐまん前なんだ。すごいなぁ。いやぁ、最高っ!」
旅疲れも見せずに、龍之介が嬉しそうにタッと室内に駆け出して行った。
「龍ちゃんって、どこにいても元気なのね。感心するわ」
「暑いの嫌いなの?」
「嫌いじゃないわ。でも、慣れるまでは、暑いわね」
「そうだけど」
「この暑さで涼しげな顔してる男も不思議を通り越して、気味が悪いわ」
「俺も暑いと感じてる。汗も出てるし」
「でも、その顔がねぇ。一人だけ涼しげな雰囲気を出してるなんて、不気味だわ」
「君は、会う度に俺の落ち度を指摘しないと気が済まないんだな。俺はいたって普通の男なのに」
「どこがよ」
「全部だけど」
「そこが胡散臭いのよ。ホント、その胡散臭さが抜けないわよねぇ」
またも変な感心をされたのだろうか。だが、もちろん、褒められたような形容でもなく、廉はシーンとしたままだ。
「廉、こっち来いよ。すごいぜ。窓の下が海だっ。それに、4人部屋って行ったけど、でっかい部屋なんだぜ。すごいなぁ。ホントにリゾートに来たって感じだ。いいなぁ」
無邪気で、素直に喜んでいる龍之介は、室内の部屋中を一つずつ確認して回り、開いている窓を覗いては感動して、キッチンを見ては興奮して、一人、疲れを知らない龍之介は大はしゃぎだったのだった。
ホテルの受け付けで預けた荷物がきちんと室内に運ばれていて、広間のソファーの横に並べられていた。
「荷物ほどくのは、後にしましょうよ。NanaとPopが待ってるから。部屋割りは――」
そう言いながら、アイラはスタスタと奥に進んで行き、手早にそこの部屋を左から右へと確かめていく。
「ダブルが二部屋で、シングルのベッドが二つね。私とミカがダブル取るから、二人はそっちのシングルで寝てよね」
「俺は――それでいいけど。廉は?」
廉はすぐには返事をせず、アイラを見やりながら、少し首を倒してみせる。
「ミカ――さんだっけ?」
「そうよ」
「それ誰? 俺達の部屋に一緒になるんだろ? アイラの親戚だろ? 誰それ?」
「私の従姉よ。ヤスキの妹」
「靖樹――さん? あの人の妹? じゃあ、靖樹さんって、アイラの従兄だったんだ。知らなかったなぁ」
「ミカは他の群に混じって、明日到着じゃないかな。でも、私とミカがダブルベッドね」
「二人でシングルで寝れば?」
それを簡単に提案されて、アイラはその冷たい目を廉に向ける。
「なに言ってるのよ。レディーファーストくらいしなさいよ」
「こう言う時だけいつもレディーファーストだ」
「私はね、シングルでなんて寝ないの。そんなの子供の時以外、寝たことないわよ。だから、二人でシングルで寝なさいね。ミカだって、ダブルベッドじゃなかったら、譲れって談判するわよ、きっと。それに、ミカにそれをさせたら、誰一人逆らえるのはいないんだから、今のうちにシングルの部屋にしておけばいいのよ」
「ミカさんって、アイラの双子版?」
「なによ。そんなことあるはずないじゃない」
ムッと、アイラが更にきつく廉を睨め付ける。
「まあま、廉もアイラもさ。俺はシングルでも全然問題ないぜ。寝れれば問題ないし」
「ほら、みなさいよ。龍ちゃんなんか、優しいじゃない。全然、気にしてないわよ」
「君もね、少しは“頼む”という態度が出てくれば、俺もこんな風にいじめたりはしないんだけどね」
「それは、レンの趣味でしょうが。暇があったら、私に絡んでくるの、いい加減、やめなさいよね」
「どうして、そう命令口調になるかなぁ」
「私はいいのよ」
「もしかして、親戚内でもその口調だとか」
「うるさいわね」
ふう、と廉がわざとらしく溜め息をついてみせるので、アイラの瞳が細められ、スタスタと、廉の前に歩いてきたアイラは、スッと、その指を廉の胸に突きつけてきた。
「一ついい忘れたことがあるのよ。龍ちゃんは問題ないけど、レンはねぇ。絶対、放っておかれないわね。なにしろ、胡散臭い男には超敏感なのよね。せいぜい、覚悟しておくといいわ」
「それなに?」
「さあね」
不敵な微笑みを投げて、アイラが挑戦的に笑ってみせる。
「なんだか、その顔をしている時は、また悪いことが起きそうだな」
「そうやって言ってる割には、顔が変わってないのよ。ホントに、動じない男ね。おもしろくないわ」
「俺はおもちゃじゃないし」
「でも、廉はそんじょそこらのことじゃ驚かないから、怪獣が襲ってきても大丈夫だぜ」
「俺は怪獣並みだと言っているのかな、龍ちゃんは」
「そうじゃないけどさ、でも、廉は動じないから、怖いものもなさそうだしな。――でも、なんで覚悟するんだ?」
「さあね」
スラリとかわされて、龍之介は、益々、興味深そうなその瞳でアイラを見返している。
だが、アイラは、ふっと、口元を軽く上げて微笑しただけで、その続きを話さなかったのだった。
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