その1-03
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「歩くの嫌なのか?」
「こんな暑い中、歩きたくもないわ」
「でも――そんなに遠くないんじゃないのか?」
「でも、歩くなんて嫌よ」
「だったら、どうやって部屋に行くんだ……? ――まさか、おぶって――なんてことはないよな……」
「それ、すごいいい考えかも」
そして、すぐにアイラの視線が、スッと、横に向けられる。
「俺は嫌です」
「なんで即答?」
「なんで、俺がアイラをおぶらないといけないのかな? こんな暑いのに、アイラまでおぶったら、俺の方がバテるけど」
「いいじゃない。涼しい顔してるんだから」
「顔は関係ありません」
「あるわよ。そんな涼しそうな顔してるんだから、おぶるくらいお手のものでしょう?」
「俺は嫌です」
「ケチ」
「それは、ケチに入らないから」
ふくれっ面をしてみせるアイラが、クルッと、もう一度、龍之介を振り返る。
「だったら、龍ちゃんは?」
「俺っ? ――え……?! なんで――? ――重いだろ……? それに、暑いだろうし……」
「今、私が重い、とか、そんなくだらないこと言ったのかしら、龍ちゃんは?」
「え? ――いや、そうじゃなくて――その、それはさ――」
一瞬にして冷たい視線を投げつけられて、しどろもどろの龍之介は、咄嗟に隣の廉に救いを求めてみる。
その視線を受け取って、はあぁと、廉がわざとらしく溜め息をこぼしてみせる。
「アイラは、全然、変わってないだろ?威張りすぎだし」
そうだな、と言いかけた龍之介の横で、アイラの冷たい眼差しが、キッと、強まって、言いかけた言葉をモゴモゴと口でごまかしてしまう龍之介。
『アイラはいつも生意気じゃないか』
聞き慣れた声を聞いて、アイラはクルッと振り返った。
振り返った先に立っている若い男を認めて、アイラが嬉しそうにタッと駆け出した。
「Jade!」
ジェイドと呼ばれた若い男の方も腕を伸ばし、駆け寄ってきたアイラを嬉しそうに抱き締める。
そのまま、アイラをすくい上げるようにして、自分の背の高さまで持ち上げた。
『アイラ。この放蕩娘は家にも、全然、立ち寄らない』
『放蕩娘じゃないじゃない。忙しいのよ。それに、家は遠過ぎるしね』
『また、言い訳だ』
龍之介の前で何かを言い合っているようだったが、その若い男はアイラを持ち上げたまま少し顔を離し、ちゅと、アイラの頬にキスをした。
『アイラ、痩せ過ぎてるな。きちんと食べていないのか?』
『忙しかったのよ。でも、ここで食べまくるからいいの』
なんだか、アイラの説明には納得したような顔を見せず、その若い男は少し眉間を寄せて行く。
『ちょっと、いいのよ。これから食べまくるから。眉間にシワよってるわよ』
アイラはその若い男にぶらさがったまま、人差し指で眉間をツンツン押している。
若い男はまだ微かに眉間を寄せていたが、その視線を、スッと、静かに龍之介と廉の方に動かした。
それで、持ち上げているアイラを地面に戻すように、トンと、下ろして行った。
若い男の視線の先を見て、アイラはふっと笑い、
『私の友達よ。連れて来るって話したでしょう?』
『そうだね』
「こっちが、龍ちゃんね。それから、レンよ」
アイラが龍之介と廉の方に戻ってきて、あまりに簡潔な紹介を済ませてくれた。
「アイラの友達?」
「え? ――ああ、そうです。あの――初めまして……。よろしく、お願い、します……」
静かな瞳が、ただ、じぃっと、向けられて、なんだかその迫力負けしてしまったのか、龍之介が大慌てで、ペコッと、頭を下げていた。
「えーっと……菊川龍之介です」
「そう。それで、リュウちゃん」
その視線が廉に動いていって、それで、廉も自己紹介を済ませることになった。
「藤波廉です」
「そう」
「私のお兄ちゃんよ。ジェイドね」
「ジェイド……さん? ――外人、なの? なんで? それとも、外人の名前だけ? ――でも、顔は――日本人ぽくないかもしれないな…。え? だったら、アイラも外人なの? ――えぇぇ? 外人だったの? なんで?」
アイラの口元が上がって、笑いを堪えているような顔をしていた。廉には、今にも吹き出しそうなのを堪えているのだろう――としか見えない。
「私はね、クォーターよ」
「クォーター? なんのクォーター?」
「父が日本人のハーフなのよ」
「お父さんがハーフ? ――そうなの? だったら、日本人じゃないの? お母さんは? ――ええ?! だったら、クォーターって何?お父さんがハーフで、お母さんが――? なに?」
「4分の1だよ」
自問自答しながら大騒ぎし出してしまった龍之介の横で、廉がそれを簡単に説明した。
「4分の1? ――ああ、クォーター――ああ、そうだ。確か、英語でそうやったよな。あっ、そっか。だったら、アイラは外人なのか?」
「でも、日本人の血も混ざってるわよ」
「じゃあ、お母さんは?」
「色々ね」
「色々? どんな色々? 外人なんだろ?」
「まあ、日本人じゃないわね」
「そうなのかぁ……。それは――知らなかったなぁ。――でも、そう言われて見ると、アイラも日本人みたいな顔はしてないかもしれないし――」
そう言いながら、龍之介は目を凝らすようにしてアイラを観察してしまう。
今まで、マジマジと、アイラの顔を凝視するなどしたことがなかっただけに、なんとなく、今、初めてその顔を観察すると、彫りの深い顔立ちと言い、その大きな目に高い鼻の感じといい、典型的な日本人の顔かたちではなかったように見受けられた。
出会った時から、きれいかなぁ…、とそれだけで終わらせてしまっていたので、龍之介も深くは考えなかったのだった。
「外人――っぽいかも」
「でも、アジア人の血が混ざってるから、向こうではアジア人のミックスだってすぐに分かるよ」
「そう――か?でも――知らなかったなぁ……。なんだ、アイラは外人だったのか。知らなかったなぁ…。なんで、教えてくれなかったんだ?」
「普通は気付くと思うけど。龍ちゃんだけじゃないの、全然、気がつかなかったの」
「え? そうなのか? ――廉も気付いてたのか?」
「偉そうだから」
「なによ」
「それに、注文も多いし」
「うるさいわね」
「いや――それは、あるけど」
「なによ、龍ちゃんまで」
「え? いや――あの、違うけどさ――いや、その――まあ――な?」
「なにが、な?よ。な? ――ってなによ」
「いや――その――だけどさ――あのな――まあ――」
じろっと、睨み付けられて、龍之介は誤魔化す言葉も出てこなく、しどろもどろになってしまう。
「アイラは生意気だからね」
アイラの横に寄ってきたジェイドが、ポンと、自分の手をアイラの肩に置いて、また龍之介と廉の方に向いた。
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