その1-02
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2月20日は“マフィン”と“チェリーパイ”の日!小説の後は甘いものでも?
いつも食べ物の話ばっかり?
いやいや、人生の娯楽ですから
『龍ちゃんはまだなんだ』
『もうすぐでしょうよ。さっきから日本人がゾロゾロ出て来始めてるから』
『そうか。問題なく出てこれるといいけど』
それを聞いてちょっと顔をしかめてアイラは横を向く。
『なんで問題なの?たかが、税関を通ってくるだけじゃない』
『そうだけど。龍ちゃんはこれが初めての一人での海外旅行だろうし。この間は、俺と一緒だったから、それほど緊張することもなかっただろうから』
『経験の一つよ。単なる旅行客が呼び止められることもないわ。日本人は歓迎されてるし』
『まあ、そうだね』
『どっちで入ってきたの?』
それを聞かれて、今度は青年の方がアイラの方にちょっと向いた。
『アメリカパスポートだよ』
『なんで?』
『国外の入出国の手続きはそっちの方が簡単だから』
『アメリカ人はパラノイアばっかりだものね』
廉はただ、ふっと、笑っただけだった。
『ねえ、この団体、日本人じゃない?マレーシアに台湾人の観光は少ないと思うから、日本人よね』
『たぶんね』
座っている視界の前で、大きなスーツケースを押して、ゾロゾロと、固まった団体が税関出口から姿を出し始めていた。
その真ん中辺に若い女性が、こっちですよ、あっちですよ――と叫んでいるところを見ると、やはりツアーでやってきた団体なのだった。
アイラと廉はすることもなく、ゾロゾロと出てくる団体をぼんやりと眺めていた。
そうするうちに、次の一団の後方に混ざって姿を出した見慣れた姿が見えてきた。
『龍ちゃんね。あっちも、全然、変わってないわ』
キョロキョロと、団体に混じって列を歩きながら、行き先を探しているような龍之介に、アイラが声をかける。
「龍ちゃん」
呼ばれて視線を戻した先にアイラがいて、その隣で廉が立ち上がるのを見て、龍之介の顔に嬉しそうな笑みが浮かび上がる。
「よう、アイラっ!廉っ!」
自分のスーツケースを引っ張りあげる勢いで、龍之介がその列から離れて、アイラ達の下に駆け寄ってきた。
「龍ちゃん、久しぶりっ!元気だった」
ガバッと、アイラが龍之介に抱きついて、久しぶりの挨拶を済ませる。
「あっ――俺は、元気だぜ。久しぶり……」
かぁ……と、少し照れたように頬を染めてしまう龍之介は、アイラの腕が外れて、視界が開けた場所に廉が立っているので、また、満面の笑みを浮かべる。
「廉っ、久しぶり~。元気だったか?1年ぶりだもんな」
「そうだね。龍ちゃんも元気そうだ」
「俺は元気だぜぃ。――それにしても、やっぱり夏なんだなぁ。暑いなぁ」
「季節は冬よ。ただ、トロピカルに近いから暑いのよね」
「そうなのか? 俺なんか、本当の真冬からやってきたんだぜ。北海道は大雪だしさ」
「そうらしいわね。新しい場所はどう?」
「いいぜ、すごい。この間の夏には、友達とドライブして、ちょっと遠出してきたし。ああ、いいぜ」
「満喫してるのね」
「もっちろん!」
「獣医の勉強はどうしてるの?」
「それも、頑張ってるぜぃ。イーメールでも言ったけど、一番初めなんか、本当の牧場に行って、牛を触ってきたくらいなんだから」
「それは、それは」
「ああ、すごいいいぜぃ」
相変わらず元気で、話すこともたくさんあるようで、全然、変わっていない龍之介を見て、つい、アイラも廉もくすくすと笑ってしまっていた。
「二人とも元気そうだな。1年ぶりだけど、あんまり変わってなくて、良かったぜ」
「どうしてよ」
「だって、すごい変わってたらどうしようって、考えててな」
「なんで?」
「変わってたら――なんとなく、困るだろ? 探す時とかさ」
「変な理屈ね。それより、税関、問題なかったの?」
「ああ、大丈夫だったんだ。ちょっと――ドキドキしてさ。でも、ツアーの団体に混ざって並んでたら、全然、問題なしで通過できたし。チェックもほとんどされなかったんだ」
「それは良かったこと」
「無事に到着だ。いぇい!」
疲れも見せず、龍之介は本当に元気だった。
「さあ、龍ちゃんも到着したことだし、島に向かわないとね」
「そうだな。この空港なのか?」
「そうよ。でも、小型のプロペラ機だろうけど」
へえ、と興味深そうに瞳を輝かせている龍之介を連れて、アイラ一行はクリスマスホリデーへと出発である。
* * *
「なあ、もう誰か来てるのか?」
「そうねえ――私のおじいちゃんとおばあちゃんは、もう着いてるはずだけど。混雑するのは疲れるから、一足早く来てるのよね」
「そうなんだ」
ホテルの受付でチェックインを済ました三人は、ポーターが全部の荷物を運び出すその様子を眺めながら、ゆっくりと歩き出していた。
「アイラのおばあさんの誕生日なんだろ?それで、皆でお祝いするんだからな」
「誕生日はずっと前よ。でも、皆で揃ってお祝いできなかったから、クリスマスは一緒に、ってね。きっと、こうやって集まるのも、これが最後になるだろうし」
「なんでだ? おばあさん80歳だからか? やっぱり、旅行とかは疲れるだろうなあ」
「それもあるけど、うちの親戚もあっちこっちに散らばってるから、一家揃って集まる――っていうのは無理よね。それぞれに仕事もしてるし」
「あっ、そっか。アイラの親戚も全員来るのか? ――それ考えたら、やっぱり、すごいことだよな。でも、外国で全員集まるって言うのもすごいよなぁ。俺なんか、わざわざ、外国でクリスマスするなんて思ったこともなかったもんな。みんな、飛行機に乗ってくるんだ。すごいなぁ」
あまりに素直に感心しているので、アイラもおかしくて、くすっと、笑っていた。
「だから、きっとこれが最後ね」
「久しぶりなのか?」
「そうね。だから、明日と明後日は、観光はちょっと無理ね。まあ――忙しくなるのは間違いないわよね。その後ならたくさんできるから、クリスマスが終わるまでは我慢してよね」
「俺は、全然、気にしてないぜ。だって、すでに外国に来てるしさ」
そうだろ? ――と、龍之介が廉に振って、廉も軽く笑いながら頷いてみせる。
「ねえ、龍ちゃん、遊び代はしっかり稼いできたの?」
「もっちろんっ!」
「そうよねぇ。私だって、遊びまくるわよ。買い物だってしなくちゃ」
「島でするのか?」
「島でするわけないでしょう。それは、ただの余暇。ショッピングはお正月明けてからよ。クアラルンパに戻った時ね」
「へえ、そうなのか」
「そうよ。その為に必死で稼いできたんだから。遊びまくるわよ」
「俺も遊ぶぜ」
「そうよ」
「それより――どうやって、部屋に行くんだ? このホテルの中じゃないんだろ? だって、海の間近――って書いてあったし」
「ビラはホテルから歩いていくはずよ。ホテルの横の海側に設置されてるらしいし。――私もあのカートに乗せていってもらいたいわね」
その口調があまりに辟易しているようなので、龍之介は不思議そうにアイラを見返してみる。
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