その14-1
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――――年が明けて――
「龍ちゃん~」
手を振るアイラを見つけて、龍之介はタッと駆け出していた。
「柴岬、明けましておめでとう」
「おめでとう、龍ちゃん。寝不足したまんまで、よく起きれたのね」
「うん、まあ……それは慣れてるから」
はっ、と呼吸を整えた龍之介は改めて目の前のアイラに目をやった。
「――着物、着たんだ」
「そうよ。一度は着てみたかったのよね。やっぱり記念だもの。ヤスキに払わせて、今日は着物にしたのよ。お正月だし、初詣、だもんね」
「買ったの、それ?」
「レンタルよ、レンタル」
「いつも、払わせるとか、やらせるとか、人にさせることばかりだな」
淡々とアイラの後ろで声がかけられて、アイラはその目線だけを冷たく後ろに向けた。
「別に一緒に来なくてもいいじゃない」
「龍ちゃんが誘ってくれたから」
「龍ちゃん、なんでこんな男まで誘うのよ」
「え? ――なんでって……。――だって、初詣の祈願するなら、廉も必要だと思うし――」
「いらないでしょう、この男は。せっかく二人でデートだったのに」
「え? デート? ――俺が、柴岬とっ?! ――それは、悪いよ。だって――廉だって、試験あるし――でも、俺は違うんだけど――でも、デートなんて――」
「たかがデートの一つや二つくらいで、慌てふためかないでよ。情けないわね、龍ちゃんは」
「だって――柴岬とデートって――付き合ってないし―――でも廉も付き合ってたし――」
正月から意味不明なことを繰り返す龍之介に、アイラは完全に呆れ顔。
「ごめん……」
「いいわよ、龍ちゃんは」
バツ悪そうに誤る龍之介に、なんだか溜め息をこぼすアイラだった。
「初詣でしょう? ねえ、行きましょうよ。今日はね、お年玉ももらったから、気分もいいの」
「お年玉? ――もらったんだ」
「そうよ」
「せがんだ――の間違いじゃないの?」
「なによ」
「クリスマスもそうだったけど、いつでも、どこでも、払わせる、やらせるって出てくるのは、俺の気のせいなのかな」
事件も一件落着し、あの仕事を続ける必要のなくなったアイラは、残りの後片付けを生徒会長の大曽根と、副会長の井柳院に任せて、さっさと学校を辞めてしまった。
それに驚く龍之介だったが、クリスマスはご馳走を食べさせてもらうから一緒に来ていいというアイラの誘いを受けて、龍之介もアイラのクリスマスディナーを一緒にさせてもらうことにしたのだ。
その時に、アイラの身内だと言う靖樹という男性に会い、その人の友達だという佐々木と言う――あの刑事さんにも会った。
なぜかは知らないが、二人に支払わせるのでたらふく食べていいと言うアイラの指示で、一応、遠慮しつつも、ホテルの高いレストランで龍之介は――それと佐々木から誘いを受けた廉も一緒に――おいしいご馳走をいただいたのだった。
それから試験間近とあって、最後の仕上げに入っている龍之介は勉強に忙しかったが、お正月でもあるし、初詣に行こうとアイラを誘ったのだ。
「当たり前じゃない。どこの世界に、貧乏学生から金を取る男がいるのよ」
きっぱりと言い切るアイラは廉を無視して、にこっと龍之介に笑う。
「ねえ、龍ちゃん、これ似合う?着せてもらうのも一苦労だったのよ」
「え? ――あっ、うん……」
じっくり観察するわけにもいかず、袖を摘んで着物を見せびらかすようにして立っているアイラに、龍之介はちょっと頬を赤らめてうつむいてしまった。
「似合うよ、とか、素敵だね――くらいは言えないの? ホント、日本の男は褒め言葉の一つも言えないのね。よくそれで女の子とデートできること」
「いや、あの――それは――えーと……」
「とてもよく似合ってるね。素敵だ」
またも棒読み状態で廉がそれを言い終わり、アイラの冷たい眼差しだけが返される。
「あなたには聞いてないじゃない」
「そうなの? 自慢したがってるようだったから、やっぱり、褒め言葉の一つも聞かないと寂しいんじゃないかと思って」
「龍ちゃんに聞いたのよ。あなたじゃないわ。私はね、龍ちゃんの素直な意見を聞いてるの」
廉はにっこりと笑んでみせて、
「とてもよく似合ってるね。これは、本心だから」
「ウソ臭いのよ。わざとらしいしね」
「ひどいな」
「そんなこと平気で言うような男の方がひどいのよ」
二人の言い合いが始まって、龍之介はそれでおかしそうに口元を綻ばせてしまう。
「廉と柴岬って、やっぱり仲がいいんだな。喧嘩するほど仲がいい――って言うだろ?」
「言わないわよ」
「そうか?でも、なんか――二人で並んだら、結構お似合いなんだな。知らなかったな」
そんなところで妙な感心をする龍之介に、げっとアイラの顔が引きつっていた。
だが、お互いに背が高いだけに、二人並ぶと妙に迫力があって、着物を着ているアイラは――口に出しては言えないが、キラキラと輝いていて、少しお化粧をしている顔立ちが着物の色に映えて、眩しかった。
隣に立っている廉は長いコートを着ているが、中に着ている服がシャツだけでシンプルそうに見えるのに、スラリとしたズボンをはいている姿が――どう見ても高校生には見えなかった。
「なあ――そこに並んだら、結構、まとまって見えるぜ。うん――いいかも」
「そこで変な納得しないでよ。この胡散臭い男の役目は終わったの。だから、さっさと行きましょう」
アイラに引っ張られる感じで、龍之介は一応アイラの隣で歩き出した。着物を着ているから、アイラの歩幅も限られていて、結局は3人でのらりくらりと歩き出す。
「龍ちゃんも試験間近でしょう? 今日は頑張って祈願して、試験を乗り切るのよ」
「うん。試験まであとちょっと。俺もやらねば! ――ってね」
「そうよ、その勢いよ。やることは、やらなくちゃね。だから、私もそろそろ帰らなきゃ」
「帰る? どこに?」
「家によ」
「家に? それ、どこ? 青森に帰るの? 仕事終わったから? いつ帰るんだ?」
くすっとアイラが笑いをこぼす。
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