その13-2
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リストがある――とは、一体、どこまで警察は調べ上げているのだろうか。北野が扱ってる生徒達はほとんどその存在が目立たない生徒ばかりである。
あいつらが告げ口するような――そんな度胸もあるはずはない。
「本当に済まないと思っているんだ。勉強で忙しいだろうに、こんな余計なことに呼び出しまで受けて。――まあ、北野君は見当もつかないと言っているのだから、なにかの間違いだったのだろうね。嫌がらせの――リストだったのかもしれない…。なんともひどいことをする――」
顔をしかめている大曽根は、同情めいた表情を北野にみせる。
その顔を見て、北野の口端が本当に微妙にだけ上がっていた。
エリートの坊ちゃんで、世間知らずの優等生は、自分の世界以外、全く何も知らないようである。嫌がらせ――などという結論に達する自体、何も北野が恐れてビクビクする必要はないのである。
ガチャ――といきなり生徒会室のドアが開いて、驚いた北野はパッと後ろを振り返った。
「おや? 来客でしたか」
副会長の井柳院がドアに手をかけてそこに立っていた。
「ああ、でも、話は済んだから」
そうか、と井柳院がドアを閉め、室内に入ってきた。
「ちょっと――目を通してもらいたいものがあって――」
井柳院が大曽根の椅子の後ろに回るようにして、手に持っていた分厚い書類のようなものを大曽根に手渡した。
その際に、ちらっと、井柳院の視線が一度だけ北野に向けられた。
大曽根は最初の何ページかをペラペラとめくり出して、その眉間が微かに寄せられ出していた。
大曽根が、スッと、視線を上げて北野をもう一度見直した。
「北野君――もう一度だけ、確認したいんだけど――君は噂されている問題には関わっていないよね」
「――もちろん、だよ……」
「本当に?」
大曽根の態度は先程と全く変わらないものだった。だが、その後ろにいる井柳院がただ静かに北野を見返している。インテリ的な、冷たさを感じる、表情のない顔だった。
北野の視線が大曽根の持っている書類に動いていた。一体、あの書類には何が書かれていると言うのだろうか。あの書類を見ただけで、大曽根がまた同じ質問を繰り返してくるのである。
「本当に、北野君? 君に問題がないのなら、警察にもそれをきちんと説明すればいいだけのことだしね」
「警察……? なんで?」
うん、と大曽根はそれには答えない。
無意識に握り締めた北野の手の平が汗ばみ出していた。
「なにか――問題――でも?」
「問題では――あるかもしれないが、北野君が関わっていないなら、心配する必要はないな」
井柳院が淡々とそれを言う。
「なんかね――俺が待ってくれるように頼んだはずなんだが、学園側に内緒で生徒達に接触を図ったみたいでね」
「警察が?! ――ああ、いや……。勝手に取り調べしてるのかな、と思って――」
「それは、俺にも知らないことだな。だけど、そこからかなりの名前が挙げられているみたいなんだがね――」
大曽根がまたその書類に少しだけ目を落として、思わしくない、と眉間のしわを深くしている。
「北野君、本当に関わりはないんだね。俺は君の言葉を信用してもいいのかな?」
トン、トン、と大曽根は人差し指でその書類の上を叩いていた。
「――もちろん――」
「そうか――。それなら、大丈夫だな」
「なにが――?」
「俺も学園側からプレッシャーを受けていて、この問題を是非を明確にしたら、警察にそれを報告しなくてはいけないんだ。だから、明日、警察が学園にやって来た時に、北野君からも関わりがないことを説明してもらうことになるだろう。――申し訳ないが」
「明日――何時――?」
「さあ。俺はそれを聞いていないが。でも、他の生徒も勉強で忙しい身であるから、学園側も警察に時間をかけないように、と説得するはずだろう」
塾などに行く時間があるから暇ではない、と大曽根は受け取ったらしく、北野の意図する質問の答えが聞けなかった。
証拠は握られていないはずなのだ。北野が相手にしている生徒とて建て前がある以上、自分から罪を暴露するはずがない。それこそ、自分の人生を棒に振るようなものである。
だから、明日、もし――北野が警察に呼び出しを受けても、北野は誤魔化しが効くと、焦る必要はないのである。
「なんでもね――」
北野が黙り込んで、自分の頭の中で明日の対処に思考をめぐらせていると、大曽根がまたそこで話を持ち出した。
それで、北野が少しだけ顔を上げて大曽根を見返していく。
「この学園内で売りさばかれているらしい薬――は、渋谷でよく問題を起こしているグループから回されている――という話が出てて。それで、この間も傷害事件がおきて、そのグループからうちの学園の話も出てきたそうなんだ。警察はそのことについては深く説明してくれないが、うちの学園に犯人がいる――と目星をつけているのは間違いないだろうな。だから、執拗に、生徒達から話を聞きたい――などと、理由をつけているんじゃないかと俺は思っててね」
「――そう、か……。それは、大変だ、な……」
「まあ、そういう事実が本当に学園内であるのなら、学園側も警察の言うことを聞くしかないだろう。3年生は受験を間近に控えている大切な時期だ。そのようないたずらな噂などで煩わされるのも、困ったものだ。――精神的にも落ち着かない生徒がいるようだし――」
ふう、と大曽根は溜め息をつきながら、トン、トン、とまだ書類の上を指で叩いている。
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