その12-5
「菊川達だな」
ドアを開けに行って、そこから姿を出した龍之介は、椅子に座ってるアイラを見つけて、よう、と手を上げた。
「お昼買ってきたぜぃ」
「ご苦労さん、龍ちゃん。――ああ、頼んだ通り――たくさんだな」
「たくさん食べる奴がいるからな」
ドアを閉めて廉と戻ってきた井柳院がそれをこぼしていた。
「龍ちゃん、遅かったじゃない。お腹空いたのよ」
「ああ、悪ぃ、悪ぃ。たくさん買い込むのに苦労してな」
わざわざ全員の分を買出しに行ってくれたのに、その感謝もなく、アイラは早速龍之介に愚痴である。
「ほら、食べようぜ」
「ねえ、龍ちゃん、この間のパンちょうだい。あれ、おいしかったから」
「ああ、焼きソバパンな。あれ、うまいだろ?今日もたくさん買ってきたんだぜ」
龍之介が袋に一杯に詰まったパンを、ボテボテとテーブルに全部開けかえた。
「ほれよ、柴岬。デザートも買ったぜ。今日はアップルパイにチョコロールとかだぜ。食堂行くのは面倒だから、ケーキはないけどな」
「それから、全員の飲み物も」
廉も一人用の椅子に腰を下ろし、腕に抱えていたボトルをテーブルの端に並べるようにした。
「あらぁ、随分、サービス旺盛ね。いいわぁ」
アイラは遠慮もなく、早速、焼きソバパンの袋を開けて、パクついていく。
「じゃあ、私はカルピスね」
他の全部はウーロン茶だったが、そこにある一本だけあるカルピスのボトルを取り上げて、アイラは器用にそれを開けて、ゴクゴクとおいしそうに飲み出した。
「ほら、龍ちゃん、話したいことあるんでしょ。食べながら話しなさいよ。聞いてあげるから」
「え?――ああ、そうだったな」
自分のパンを食べ始めていた龍之介は、お昼のことですっかり生徒会室に来た理由を忘れていたのだ。
だが、偉そうに「聞いてあげる」と押し付けているアイラには、3人のシーンとした無表情が返されていた。
「君さ、これだけおごってあげてるのに、どうも感謝の気持ちが足りないと思うのは俺の気のせいかな」
「気のせいよ」
「いや、気のせいじゃない」
自分のパンに手を伸ばした廉がそれを淡々と付け加えるが、アイラがキッとその廉を睨め付ける。
「あなたね、そんなんだから、彼氏から降格なのよ。頼りない、ってこっちの生徒会長と副会長まで言ってるじゃない」
へえ、と淡々とした相槌が返され、廉がちらっと大曽根と井柳院を見やっていた。
なにも、アイラが勝手に決めた事実を二人になすりつけなくてもいいものを、大曽根と井柳院が揃って顔を少ししかめてしまっていた。
「龍ちゃん、話を進めなさいよ。昼休みがなくなっちゃうじゃない」
「ああ、そうだっけ。――そうそう、話な」
でも、それを繰り返す龍之介だったが、大曽根がアイラに話があるようなことを口にしていたのに、龍之介自身が話をしたかったのではない。それで、何を話していいのか戸惑って、モグモグとパンを噛みながら、そこから先が進まない。
「じゃあ、まず、昨日何があったか俺達に話してもらおうかな。俺達は全然その話を聞いてないし」
「ああ、昨日な。昨日はさ、稽古があったから塾じゃなかったんだ。それで、帰り道に廉と柴岬がいてさ――」
それがどうの、こうの、これがああの――とアイラと廉の前に現れる前までの話の説明も龍之介が全部し出して、それから、少々、気まずそうにアイラと廉を囲んでいた奴らを投げ飛ばした――が云々とその説明も忘れず、その後の警察の話から、アイラから知らされた事実やら、まあ、なんとも素直に全部その状況の説明をしてくれた龍之介だったのだ。
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