その12-1
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じぃ――とさっきから向けられる視線を感じて、大曽根は仕方なくその視線の先の本人に向くようにした。
「龍ちゃん、言いたいことがあるなら、はっきり言ってくれないかな。その、じぃって、視線が背中をチクチク刺しているんだけどね」
「いや、さ……――」
なんとなくモゴモゴと龍之介らしくなく、言葉尻りがはっきりとしない。
「なんだい? 今日は俺に文句があるのかい?」
「大曽根に文句がある――って言うんじゃないけどさ……――その、何で、隠してたのかな……って。別に、俺だって驚いたりしないのに――」
「なにを?」
龍之介はちょっとだけ口を尖らせたまま、ちらっと、そのクリクリとした瞳を向こうの方に向けた。
今は体育の授業で、龍之介が向けた視線の先ではコートにいる廉のグループともう一つのグループがバレーボールの試合をしている。
「藤波がなに?」
「いや、さ……――その、なんで隠してたのかな――って。柴岬も、大曽根は知ってるから――って昨日言ってたし……」
「柴岬藍羅ちゃんが?」
「そう……」
「俺が何を知ってるって?」
「だから――」
そこまでを言いかけて、龍之介はパッと咄嗟に周囲を見渡してみる。誰も龍之介の話を聞いている様子がないので、龍之介はちょっと大曽根の方に顔を近づけて、ぽしょぽしょ、と小声で耳打ちするように話し出した。
「例の――話、だよ……。廉と柴岬が一緒になってるやつだろ?」
「ああ、その話」
「そう、その話」
「それで?」
「それで?」
大曽根に不思議そうに聞き返されて、龍之介の方が困惑してしまう。それで、ちょっと眉間を寄せて大曽根を見返しながら、
「それで――って……。大曽根も――知ってたんだろ?」
「そうだね」
「だったらさ――なんで…俺に、教えてくれなかったのかなぁ……って――」
「別に、龍ちゃんを無視してるわけじゃないけどね。除外したんでもないよ。勉強があるから、余計なことには煩わされたくないだろ?」
「そう――だけどさ……。でも――昨日、柴岬から話……聞いて、俺だって驚いたけど――廉だって、受験勉強あるのにさ。でも、廉は事情を知ってるみたいだし……――」
「まあ、それも偶然だけどね」
大曽根の態度は全くいつもと変わらず、特別、龍之介がアイラが探っている事件の事情を知ったからと言って、それに驚いている様子もなかった。
だが、一人、少し拗ねたような顔をしている龍之介の横顔を大曽根は見返しながら、薄っすらとその口端を上げていく。
「なんで、昨日、龍ちゃんは柴岬藍羅ちゃんと話をすることになったのかな?俺はそっちの方が興味あるけどな」
「いや――その――」
全く、いつもの龍之介らしくなく、龍之介の語調が更に濁っていく。
「なに? なにかあったの?」
「いや、あったって言うか――ないんじゃないけど――いや、あったんだけどさ……――」
「どっち? あったの? それとも、なかったの?」
「いや、あったんだけど――」
「なるほど。だったら、お昼に、ちょっとあの柴岬藍羅ちゃんも誘わないとダメだなぁ。俺はその話を知らないし」
「別に……大したことじゃなんだけど――いや、あるけどさ――でも、大袈裟にするほどじゃないんだけど……――」
昨日の事件は正当防衛とは言え、警察が絡んでいて、おまけに、龍之介が大半以上を投げ飛ばした形でもあるし、そんな込み入った事情のところに、生徒会が介入してきても、かなり困ってしまう状況なのである。
それで、龍之介が、うーん、と一人顔をしかめて唸ってしまっていた。
「龍ちゃん、後でお昼代渡すから、皆の分のお昼頼むな」
「また、俺なのか? なんでいつも俺ばっかり」
「龍ちゃんはパワーがあるから、安心してお昼を頼めるしな。でも、今回は藤波もつけるから、別に龍ちゃん一人だけ除け者にしていることにはならないだろ?」
その文句を言いかけた龍之介の先手を打たれてしまった。それで、ふしゅぅ――と龍之介の勢いがしぼんでいっていた。
「全員分な。5人分」
「俺のはいいよ。自分で買うから」
「ああ、でも4人分を買うのも5人分を買うのも、大した差はないから。――それに、ランチ一つも提供できないなんて能無しだ――と言われるのも、かなり癪だし」
最後の一言は、なんだかかなり大曽根の意地のような響きがあって、龍之介はちょっと首を倒していた。
「なんでだ? 能無し――って言われるのか?」
「さあね」
大曽根はにこやかに笑んでみせ、その返答はしない。
龍之介は益々よく呑み込めなくて、首を倒したままその眉間も寄せてしまう。
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