その2-01
「あれ?」
昼休みが始まり、廉は特別理由はなかったのだが、なんとなく保健室の女生徒が気になって、保健室に向かいかけていた。
だが、その廉の前で、さっきの女生徒が玄関に向かって出て行く感じである。
それで、なんとはなしに廉も玄関に出ていた。
玄関に向かって出てきたその方向からしても、あの女生徒は今までずっと保健室にいたようだった。
随分、よく寝るんだな――と少々、感心をしながらも玄関先で、すでに出口に向かっているその背中を目にしていた。
(まだ、青ざめて見えるのは気のせいだろうか)
それだけではなくて、なんだか、ふらふらとその歩調がふらついて見えるのも、廉の気のせいだったのだろうか。
なんとはなしに首を倒して、廉は仕方なく外靴を手早に出して、ちょっとその女生徒を呼び止めてみることにした。
「君、大丈夫?」
ふらついている割には、スタスタ、スタスタ、と随分、足並み早く、女生徒が歩き去っていく。
でも、なぜ、廉にはその背中がかなりふらついているようにしか見えないのだろうか。
「君、大丈夫――」
廉の歩幅でその女生徒の後ろに届いた廉の前で、またも、その女生徒が前にふらついた。
腕を伸ばして、廉がサッと女生徒を抱き留める。
「またですか?」
抱き心地はいいんだけど――とそんな呑気な独り言を呟いた廉の前で、またこの少女は力尽きて気を失ってしまったようだ。
随分、重度の貧血ではないだろうか。一日に二度も倒れ込むような症状があるなど、かなりの問題である。
廉は女生徒を抱き留めたまま、さてどうしようか、と一応、周囲を見渡してみた。
玄関と正門の丁度半ばで止まっている形になっている廉とその少女なので、また保健室に連れて行くのが最善か、それとも、視界の前に入る正門前のタクシーに乗せるべきか。
午後の授業が残っているので、生徒がタクシーを呼んだはずはない。それでも、正門の前に停まっているタクシーがある。
もしかしてこの少女が呼んだのかもしれない――という些細な予感もあって、廉はまたこの女生徒を抱き上げていた。
スタスタ、スタスタ、と歩調も変えずに正門まで歩いていくと、スーッと内側から勝手にタクシーのドアが開いた。
「お客さん、乗りますか? シバザキさんでしょう?」
そんなことを言われても、廉はこの女生徒の名前を知らないのである。
「そうですね。乗っていいですか?」
「ああ、どうぞ、どうぞ。そのお嬢さん、どうしたんです?」
運転席から半分体を乗り出すようにしているタクシーの運転手が、複雑そうに廉が抱き上げている女生徒を見ていた。
「ああ、ちょっと気分が悪くて」
「はあ……。――病院ですか? どこです?」
適当に話を合わせている廉は、またそこで、返答に困ってしまう。
「どこです?」
「そうですね―――」
ふーむ、と少々考えながら、廉は抱えている少女を器用に車の中に乗せて行き、自分もそこで一緒に車に乗り込んでいた。
「六本木に」
「六本木ですか?わかりました」
それじゃあ、とタクシーの運転手は軽快に車を動かし出していた。
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