その1-04
「ちょっと、ヤボ用で」
「ヤボ用?どんな?」
うん? と少し笑った廉は自分の席に戻って行き、まず椅子に座り直していく。
「朝礼にはいたんだろう? 一緒に並んだもんな」
「そうだね」
「だったら、朝礼を抜け出したのか?」
「まあ、そういうことになるね」
「なんで? なにかあったのか?」
「大したことじゃないよ」
「確かに、女生徒を連れ出して朝礼をサボるくらいは、大したことじゃないさ」
廉の後ろから会話に混ざって来た二人組みが、廉のすぐ横の机に寄りかかるように立った。
「女生徒を連れ出した? 廉が? どの女生徒? なんで? 朝礼の時に?」
「龍ちゃん、質問ばかりで、答える暇がないんだけど」
溜め息がちに、龍之介のすぐ隣にいる男子生徒が龍之介の頭をなだめるようにした。
「あっ、ごめん。だって、廉が朝礼抜け出した、って言うから」
「そうだな。女生徒を連れて、颯爽と消えて行ったのは見えたけど」
「女生徒?誰?」
「さあ」
二人組みが揃って肩をすくめるようにするので、龍之介の眼差しがまた廉に戻された。
「さあ」
廉までも同じように肩をすくめてみせるのである。
「知らないの? 知らないのに、一緒に抜け出したって?」
「抜け出したんじゃなくて、気分が悪そうだったから、保健室まで連れて行っただけだよ」
「そうなのか? ――なーんだ。廉が女生徒と一緒に抜け出すなんて、誰かと思っちゃったぜ」
「別に、刺激のあるような話でもなんでもないんだけどね」
「なーんだ。そうだったのか」
残念、と明らかに言いたげなその顔が、少し口を尖らせていく。
くすっと、少し笑った廉は隣の二人に視線を向けて、
「随分、目がいいようで」
「まあ、それくらいは」
「そうそう。壇上からだったら、結構、何でも見えるしな」
「でも、全然、反省してる様子がないな」
「ああ、でも、一応、保健室に行ったという理由があるから」
飄々とそんなことを口にする廉に、二人はちょっとだけ口元を上げていた。
龍之介の隣にいる男子生徒は、この学校の生徒会長を務める大曽根司である。その隣は、副会長を務める井柳院一真だった。
大抵、高校程度の生徒会など大した用を成さないものが多いのだが、ここ私立暁星学園では、生徒会がかなりの実権を与えられていて、生徒に関する事柄はほぼ生徒会が運営していると言っても過言ではなかった。
超進学校のトップに立ち、これだけの人数をまとめ、その運営を任されている生徒会の一員になることは、これからの将来にも箔が付き、有名高校である暁星学園の歴代の生徒会の会員は成績優秀、品行方正の名でも知られている為、将来お偉方になるであろう生徒達にとっては、もってこいのエリート育成所だった。
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別作品で、異世界転生物語も書いています。どうぞそちらの方もよろしくお願いします。
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