その6-06
それで、大曽根もにこっと笑い返し、
「胡散臭いし、怪し過ぎるし、信用できないし、裏でなにしてるか判らないから、やっぱり放っておけないよね。問題になりそうだし、いかにも問題を連れ込んできそうだし」
「お互いに信用してないんだから、話なんて無理よ」
「でも、俺は君の偽証の証拠があるしね。それに、学園はバイト禁止じゃないけど、やっぱりその種類にもよるだろうからさ」
そう言って、大曽根はにこやかなままスッと携帯をアイラに見せるようにした。
少し目を細めてそれを見やったアイラの顔が冷たく無表情になり、スッと廉を睨め付ける。
「セコイ真似してくれるじゃない」
「なんのことかな?」
廉はいまだに澄まし顔で、アイラのようにゆっくりと紅茶をすすっている。
「いかがわしい所でのバイトはね――うーん、ちょっと学園側としても奨励できるものじゃないし」
「嫌な男達ね」
「でも、俺はこれでも好かれるタイプなんだけど」
「どうだが。本性を知らないお嬢さん達が騙されてるだけじゃないの?」
「君は随分ひどいことを平気で言うんだな。ひどいな」
おどけてみせる大曽根は無視して、アイラは、さてどうしたものか、と紅茶をすすりながら、一人そっちの方を向いていた。
(嫌な相手だわ、まったく)
溜め息と、愚痴と、両方がこぼれてきそうだった。
「裏で――」
澄ました顔をしていた廉がその一言を出して、アイラはその目線だけを廉に向けるようにした。
「何してるか判らない二人だけど、まあ、くだらないことに手を出して自滅するようなタイプでもないかな。プライドがあるだろうし、ああいうのに手を染めて堕落してる自分達も許せないだろうし」
それはもっともな言い分ではある。アイラは瞳の奥で少々判断をしかねているようだった。
「君も自覚してるから、染めていないんだろう?だから、話しているんだけどね。自滅してる人間なら、別にあのまま放っておくし」
これも、この廉を見る限りでは疑いようもない言葉である。
「どうしようかしらね」
「どうするのかね」
アイラの真似をして大曽根が鸚鵡返しでそれを繰り返した。
「紅茶はあるけど、クッキーはないのね。残念ね」
「君ね、遠慮なく催促してくるのはいいけど、もう少し違う言い方がないかなぁ」
「偉そうだ」
ここぞとばかりに、廉がそれを指摘する。アイラが嫌そうに廉を睨め付けて、その視線を大曽根に移していった。
「君達、随分、仲がよくなったんだねぇ。それは、知らなかった」
「どこがよ」
「全部だよ、全部。そんなに仲が良くなっていたなんてな。まあ、でもクッキーはないけど、チョコレートクリームならあるよ」
「なんで?」
「買収用に買い集めたけど、本人は全く口つけないんで残ってるんだ。甘いのは好きじゃないらしい。でも、今回は取りに行かないから、自分で取りに行くんだね。そこの棚に入っているよ。一番右端の」
「レディーファーストはどうしたのよ」
「君のその態度がねぇ。なんだかレディーファーストしたくなくさせるんだよ」
「なによそれ」
嫌そうに大曽根を睨め付けて、アイラはスッと立ち上がっていた。
それで、言われたとおり、自分で勝手にその棚からパンを取り出すようである。
「ねえ、ティッシュはないの?」
「君ねぇ、本当に遠慮なく催促してくるんだね。――俺のハンカチでよかったらどうぞ」
「あら、そう」
アイラは遠慮することもなく大曽根が出したハンカチも受け取って、また自分の席に戻って行った。
「チョコレートで汚くなっても洗えばいいでしょう」
「ああ、そうですか」
大曽根は、すでにお手上げ、といった様子でそれ以上は指摘しないことにしていた。
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