その4-05
* * *
廉はその派手なネオンのついた看板を見下ろしていた。“Happy Bar”とその名が七色に光って、二時間飲み放題の宣伝もその下に派手に書かれている。
廉はその派手な看板を通り過ぎて、すぐ目の前の階段をゆっくりと下りて行った。
階段上は薄暗く足元がはっきりと見えないが、すぐ目の前の扉はチカチカとまた派手なネオンが瞬いていた。扉を開けなくても、中から聞こえてくるカラオケの騒音が地鳴りのようだった。
廉がゆっくりと扉を開けて中に足を一歩進めると、
「いらっしゃいませー」
と随分明るい声がかけられて、入り口のすぐ傍で廉は一人のホステスに迎えられていた。
「お一人様ですか?」
「ええ、まあ」
「だったら、飲み放題です?それともボックスがいいですか?」
廉はサッと簡単に室内を見渡して、その目的の人物の後ろ姿を確認していた。
「実は、彼女の知り合いなんだけど」
廉の指差す方を追っていったホステスが、ああ、と簡単に納得する。
「いっちゃんのお客さんだったんだ。それなら、こちらにどうぞ。まだ空いてるから、今のうちならいっちゃんと話もできるものね」
どうぞ、と促されてそのホステスの後についていく廉は、丸く囲まれたテーブルの間を通り過ぎて、後ろに大きな鏡のある席に通された。
「今、いっちゃん呼んできますから、ここでお待ちくださいぃ」
明るくその場を去っていくホステスの背を見送って、廉はそのソファーに腰を下ろしていく。
店の中のテーブルはどれも丸型のソファーというか椅子になっていて、その前に小さな丸いテーブルが一つ、二つと置かれていた。
さっきのホステスが向こうで立っていたアイラの肩を叩き、廉の座っている方向を指差した。
少し振り返ったアイラの瞳がほんの少しだけ微かに上がり、すぐにその顔がなんだか廉を睨め付けたように見えた。
キュッと、きつく口を結んだ本人がスタスタ、スタスタと廉のテーブルに向かって歩いてくる。
「何の用?」
「お客なんだけど、歓迎されてないみたいだな」
「何の用よ」
「飲み物はなんだろう?」
飄々としている廉に、アイラが片眉を上げるようにした。
その瞳だけで、はっきりと、廉が邪魔だ、と告げているのである。それをできる器用さに少々感心しながら、廉は少し奥に座るようにして、隣の席を譲ってみせる。
「どうぞ」
キリッと、アイラの眉間が揺れ、アイラはそこで難しい顔をして立っている。
「いっちゃん、おしぼりどうぞ」
さっきのホステスが戻ってきて、廉の前におしぼりと小さなお椀を運んできた。中を見ると、キュウリの酢もののようなものが入っていた。
「ありがとうございます」
「どうぞ、ごゆっくりー」
それで、諦めたように溜め息をついて、アイラは仕方なく廉の隣に座るようにした。
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