その14-03
「やっぱりやらねば」、今日で完結しました。
アイラのお話は、勢いがあって、気軽で、さくさくと読めるような内容として書いてみました。
特別、深い感情移入や、物語の情景などに力を入れず、ただ、ストレスもなく気軽に読めるお話になれればいいな、と思っています。
ここで、一つだけ三人が気付いていなかったことと言えば――
事件現場で、アイラに冷たく軽蔑された後からの野次馬達は、ビデオの撮影を控えたようだったが、最初にいた野次馬の数人は、ビデオを撮り終えていたのだ。
それがSNSに発信され、
“日本の小さな少年、暴漢を投げ飛ばす!”
などという題材で、世界中にそのニュースが発信されていたという事実だった。
それで、その日、龍之介は自分の知らない間に、“勇敢な日本の少年!”として、一気に有名になっていたとは思いもよらなかったことだろう。
だが、そのSNS発信を見つけたアイラの一族の誰かが、その話を一族中に漏らしたものだから、すでに、その日のうちに、アイラに一族全員にも知ることとなる事実となる。
そこで、アイラがカナダに遊びに来ていたことなど知らず、
『カナダにいるなら、アメリカにも来るんでしょう? なんで、うちに遊びにこないのよっ』
などとお叱りを受け、
『おい、アイラ、お前は一体どこにいるんだ?』
とカイリから詰め寄られ、事情を知りたがるアイラの一族からの電話のせいで、アイラの電話は鳴りっぱなしだ。
さすがにうんざりとしているアイラは、そこで電話のスイッチを切ってしまっていた。
「いいのか……?」
「いいのよ。もう、残りの旅行だって少なくなって来てるのに、邪魔されたら、それこそ、腹が立つわ」
あまりにうるさく押し寄せて来るので、アイラだって、帰るまでは、電話に出ないつもりなのだ。
最後の日時が迫って来て、バンクーバーでもおいしいものをたくさん食べた。
シアトルでも、高級レストランに顔を出し、そこでもたくさん食べた。
サンフランシスコに戻り、最後の夜を祝って、ホテルの豪華料理も満喫した。
「最後の夜を祝って、乾杯~!」
「「乾杯っ」」
そして、今日が、本当の意味で、最後の夜となる。
「最後、だな……」
「そんな、しんみりしないのよ。仕事だろうと、会おうと思えば、会うことはできるじゃない」
「そう、かも、しれないけどさ……。ここ毎年の行事だっただろう? 楽しかったよなあ……」
「そうね」
「アイラさ、帰ったら仕事見つけるんだろう?」
「たぶん、そうなるわね」
「そっか……」
「龍ちゃんが獣医になれたら、会いに行くって、言ったじゃない」
「うん、そうだな……。俺も、がんばるぜ」
「そうよ。その意気よ」
「レンは卒業する時、どんな仕事、探すんだ?」
「たぶん、マネージメント系だと思うけど」
「そっか。それも、大変そうだなあ」
龍之介とはまったく科目が違って、仕事内容も違っている職業だ。
「アイラはNZにい続けるつもり?」
学生時代は、うるさい一族が揃っていない国がNZだったから、アイラも気軽に国外に留学して行った。
だが、仕事まであの国で済ますなど、遊びが好きなアイラにしては珍しい。
「数年は、ね。まだお金が溜まってないから、色々、動くにも出資がないわ」
「ああ、なるほど」
それなら、数年働いて、ある程度のお金が溜まれば、アイラなら次の場所に簡単に移動していきそうである。
「レンはイギリスに行かないの?」
「いや、これからずっとアメリカだと思う。イギリスにいた時よりも、アメリカにいた時の方が長いんだ」
廉の兄は、ずっとイギリスの学校にいて、大学も卒業しているから、これからもイギリスに留まるつもりなのは、廉も知っている。
廉は、イギリスにいたのは数年で、その後、アメリカの高校を卒業して、今はアメリカの大学も卒業しようとしている。
だから、廉にとっては、アメリカの方が住み慣れているのだ。
「レンのとこの家族も、「元気ですか~」だけの挨拶で、不思議よねえ」
「そうかな? まあ、アイラの一族みたいに、いつも、皆で会話をしたりはしないかな」
「龍ちゃんだって、ほとんど親に電話かけてるとこ、見たことないわよ」
「いやぁ……、俺も、たまーに電話っていうか、LIMEのメッセージは入れてるんだけどな」
その夜は、高いワインのボトルも開けて、三人の最後の時間を楽しく終えていた。
「龍ちゃん~、元気でね」
ぎゅぅっと、アイラに抱きしめられて、照れながら、龍之介もちょっとだけアイラを抱きしめ返す。
「アイラも、元気でやれよ」
今日は、アイラが先にニュージーランドに飛び立っていく。
午後からは、龍之介の日本へのフライトが飛ぶ。
「レンも元気でね~」
「アイラも。あまり無理をしないように」
「してないわよ」
し過ぎる傾向にある張本人が、何を言うか。
だが、ぎゅぅっとアイラが廉を抱きしめて来て、廉をアイラを軽く抱きしめ返す。
背が高い二人だと、そうやって抱きしめ合っていても、様になる。
そんなことをぼんやりと考えている龍之介の前で、アイラが二人に最後の笑顔を投げていく。
「じゃあねん」
そして、背の高いアイラの後ろ姿がゲートの奥に消えて行った。
「ああ、最後だなぁ……」
「そうだね。今回も楽しかったから、残念だね」
「本当に、残念だぁ……」
初めて出会った衝撃の高校3年。
それから、毎年、クリスマスからお正月にかけての、3人での旅行。
色々見て回って、遊んで、お金も使いまくった。
なんだか、いつも離れ離れになっている友達だけど、こういう別れの方が、もっと寂しい気になってしまうのは、龍之介だけだろうか。
もう、会えない……とは、思わないけど、会える確立や可能性は、ぐんと減ってしまうことは間違いなかった。
「俺は、廉とアイラに会えて、良かったなあ……。学生時代って、結構、他の友達とも遊んだりしたけど、廉とアイラと旅行したことは、すごい思い出に残ると思う。廉と友達になって、俺もすごい嬉しいよ」
「龍ちゃんは、本当に、素直でいい子だね」
「なんだよ……。茶化すなよな」
「茶化してないよ」
廉もおかしそうに笑っている。
「でも、これで連絡が途切れるわけじゃないよ」
「うん、そうだけどな……」
「獣医になるの、頑張って。俺も日本に行けるの楽しみにしてるよ」
「おうよ! その時は、二人で盛大に祝ってくれよな」
「もちろん」
その約束があれば、先が長かろうと、目標に向かって頑張っていけるだろう。
もっと大人になった廉とアイラは、一体、どんな感じだろうか?
きっと、二人共、それほど変わらないのではないだろうか。
そんな未来に思いを馳せて、龍之介も、もう旅立つ時がやって来ていた――
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ここまでお付き合いくださった読者の皆さん、ありがとうございました。
シリーズ続編は、ムーンライトノベルズの方にて継続中。アイラの一族のお話が出てきます。
https://novel18.syosetu.com/n7288hj/
また、そちらでお会いできることを、楽しみにしています •͙‧⁺o(⁎˃ᴗ˂⁎)o⁺‧•͙‧⁺