その14-02
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無事にサンフランシスコの廉のアパートに戻って来た三人は、暇となっていた。
お正月、開いているお店の数は限られていて、遊ぶ場所も限られている。
何と言っても、世界中でお正月。
お休みの日だ。
でも、日本では、お正月からデパートやショッピングモールが開いていて、新年初セールもやっていた。
皆さん、お正月から働いて、ご苦労様です。それから、ありがとう。
でも、サンフランシスコでは、一日二日は連休でお休みの日だ。
それで、時間を無駄にせずに、アイラと龍之介は、次の旅行プランを立てるのに余念なし。
やはり、NYには観光程度でも、一度は顔を出したいものだ。NYの有名な場所で写真を撮らずして、アメリカに来たと言えようか。
NYで数日。
それから、シカゴにも数日寄って、そのまま国境を越えてカナダのトロントへ。
ナイアガラの滝だって、もちろん、見物する。
そこで数日、上に上がり、トロントで二日ほど、バンクーバーに飛び、二日ほどで、シアトル経由でアメリカに戻って来る。
密度が濃くて、歩くのもたくさんで、やれることも、できることも、見る場所も、何でも挑戦した。
三人の写真も増えて、龍之介のカメラの容量だって満杯になってきた。
「やっぱり、東側はフランス語が多くて、全然、分かんないや」
トロントや、ケベック川ではフランス語が主要で、龍之介は更なる言語の問題にぶつかってしまった。
アイラはちょっと喋れる程度で、レストランなどに入り、メニューを見れば、ある程度、料理の品物が分かる程度だ。
廉も同じに。
でも、龍之介にしてみたら、二人共、ちょっとだろうとフランス語が理解できて、「おお、すごいなぁ」と感動してしまっている。
それから、バンクーバーに向かい、観光スポットを余念なく訪ねている。
街並みも綺麗で、ウィンドウショッピングをしても楽しいものだ。
「えっ……?!」
平和で、問題がなくて、楽しい旅行で――
なのに、今、一瞬、龍之介の目の前で、繰り広げられた場面に、龍之介の頭の方が理解に追いついていなかった。
『きゃあぁ……!』
『うるさい、黙れっ――』
「ちょっと、龍ちゃん、ボケっとしてるんじゃないわよっ!」
状況に全くついていけない龍之介の前で、アイラと廉が同時に駆け出していた。
フードのついたトレーナーを着た男が、小さな子供を――連れ去って行く、正に、その瞬間だったのだ。
『レン、子供は任せたわよ』
『オーケー』
車の中に子供を引きずり込もうとしている男の後ろを通り過ぎ、バンッ――と思いっきり、アイラが足で叩きつけるように車のドアを閉めていたのだ。
『いたっ――!!』
肩が半分ドアに挟まって、ドアが閉じた衝撃で、フードを被った男がその場にうずくまる。
それを見て、すぐに、アイラが運転席のドアを開けていた。
『なにやって――! ――きゃあっ! いたっ、いたっ――なにするのよっ――』
アイラが手加減もなしに、運転席に座っていたもう一人――の女を、車の中から引きずり出したのだ。
そのまま加減もなく、無情に、女を道路に放り投げる。
『なにするですって? こんな真昼間から、犯罪犯そうとしている女に言われたくないわね』
地面に放り投げられた女が起き上がる前に、アイラの足蹴りが女の背中に入っていた。
ヒールの高いブーツだ。
それで、呼吸が一瞬止まり、地面に無様に顔を押し付けられたまま、首根っこにアイラの足が思いっきり強く乗せられた。
『ぐっ……!』
『……くそっ! ふざけんなよ――』
肩を押さえながら、怒りの目を向けて起き上がった男が、アイラに手を伸ばす。
「おいっ、ふざけんなよ」
だが、一気に正気に戻った龍之介が、その場に割り込んでいた。
すぐに、男の胸倉を片手で引っ張り上げ、そのまま一気に背負い投げをする。
コンクリートの道路に、ドシンっと、加減もなく叩きつけられて、あまりに痛さに、男の目が飛んでいた。
「なんだよ、こいつら」
「さあね。真昼間から子供を誘拐しようなんて、とんでもない下衆ね」
「誘拐? なんでだ?」
そんなこと、アイラが知る由もない。
『ちょっとっ、ビデオなんて撮ってる暇があったら、警察を呼びなさいよ。ここで犯罪人を取り逃がしたら、ビデオなんてとってSNSに流しているあなた達のせいよ』
『えっ……?! そ、そんな……』
何事だと、通りで集まって来た野次馬達は、皆、携帯電話を取り上げ、今の場面をビデオに撮っているだけだ。
本当に、チャットやSNSのおかげで、世界中どこでもリアルタイムで衝撃のニュースをキャッチできる。
だが、それと同時に、一番肝心な道徳精神が欠けすぎている。
SNS発信に忙しくて、警察も呼ばないなんて、ふざけ過ぎだ。
『他人の不幸をビデオに撮って喜んでいるなんて、そんな人間の気が知れないわね』
野次馬が集まって来て、アイラに冷たく指摘されると、そこにいた野次馬達が少しだけ携帯電話を下ろしていく。
軽蔑の目を向けているアイラを見ないように、その場に立ち止まっているのに、少し横を向いて目を逸らし始めていた。
『レン、その子は?』
『呆然自失しかかってるね。親はどこだろう?』
女の子を同じ視線の高さに廉が屈みこみ、その顔を覗き込んだ。
小学生くらいの年齢の子供だろうか。
今起きた事件が理解できなくて、あまりのショックで、呆然自失しかかっている。
『救急車も呼んだ方がいいだろう』
『救急車も呼んでよ』
警察に電話をしたであろう一人に向かってアイラが叫び、こくこくと、その一人が大焦りで、また電話をかけ直していた。
読んでいただきありがとうございました。
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