その14-01
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『セスも元気でね』
アイラが、セスを、ぎゅぅっと、抱き締めていく。
セスもアイラをしっかりと抱き締め返し、
『アイラ、あんまり無理するなよな。――体には、傷つけないようにするんだぞ』
別れの挨拶もあるのだが、それくらいのアドバイスしか言うこともできなくて、結局、セスはアイラを抱き締めたまま、また、ちょっと顔をしかめてしまっていた。
『大丈夫よ。ニュージーランドは平和だから。それ以外に、することない国だし』
『まあ、そうだろうけどな――。でもまあ――お前も女なんだから、傷はつけないようにするんだぞ』
『あれは――仕返ししてもしきれないわね。この美肌に傷つけるなんて』
アイラの行動からすると、本当に仕返しをしに行きそうである。
セスは少し腕を緩めながら、コツンと、アイラの額を指で小突いていた。
『あんまり無茶するなよ。その可愛い顔に傷がついたりしたら、嫌だろう? 俺だって、心配してるんだからな』
子供の時から、セスはいつもアイラに優しいのである。
妹同然のように育った手前、本当の妹ではないが、いつもアイラが遊びに来たら、カイリ達と競り合って、セスがアイラを構っていたので、他の女の従妹達よりは、その親密さが違っていた。
セスはいつも本心を話すので、最後の言葉を聞いて、アイラは少し瞳を細め、ちょっと顔を寄せながら、ちゅと、軽くセスの唇にキスを落とした。
『大丈夫よ、セス。ヤスキのバカの情報網は、ニュージーランドには届かないのよ。あまりに平和な国だから。セスも、今回は世話になったわ。ご飯もおいしかったし』
『キャサリンも、たくさん食べてくれるから作りがいがあるって、喜んでたしな。また、いつでも遊びにこいよ。今度は、しっかり食べるんだぞ』
『なにそれ』
『アイラは抱き心地がいいから、ちゃんと食べれよ――って、ことだ』
セスはアイラの鼻をちょっと摘むようにして、そして笑っていた。
あまりに痩せてしまった去年のアイラを見て、アイラの両親が心配して文句を言っていたのと同様に、娘同様として可愛がってきたお気に入りのアイラを見て、ショックを受けているセスの両親も、毎回、文句を言っていたのだ。
あの兄弟に構われているせいもあって、高校を卒業すると同時に、身内の(猛)反対を押し切って、一人、単身で、ニュージーランドに飛び立ってしまったアイラは、学費以外は一人で自活している――というのも、後で聞いた話である。
なぜ、頑なに親の援助を断っているのかは知らないが、帰郷する旅費もアイラ持ちだそうで、それで、一気にアイラの帰ってくる機会が減った――と、その文句も言われていたことだった。
まあ、あまりにあの兄弟に構われ過ぎた反動だろうか、帰郷できない理由があるので、兄弟達も、それ以上、強く言うこともできなかったのだろう。
学費以外は、一切の関わりを切られてしまったようで、去年のクリスマスまで、アイラの電話やイーメール以外、アイラの身内も、全くアイラに会っていなかったらしい。
その前の3年前の、翔の結婚式以来だったそうだ。
『アイラ、卒業したらどうするんだ? ずっと、あっちにステイしっぱなしなのか?』
『さあね。仕事を見つけるかもしれないし、どっか行くかもしれないし。今回、残りの科目の結果次第よね』
『まあ、勉強もガンバレよ』
『そうね。じゃあね、セス』
にこやかに手を振って、アイラが車の中に乗り込んで行った。
ケードも軽く挨拶を済ませて、運転席に乗り込んでいく。
車のエンジンがスタートして、2~3度鳴ったホーンの音が砂利道の音にかきけされて、車は真っ直ぐと旅路に向かって走り出していた。
『あぁあ、お前の従妹がいなくなると、寂しいなぁ。刺激がなくなるよなぁ』
セスの隣で、ジョーダンが本当に惜しげ深そうに、走り去って行った車の砂ほこりを眺めている。
『アイラの相手は、お前じゃ無理だ』
『まあ、それもそうだけどねぇ――』
貶されたのか、まあ、事実を言われたのだが――ジョーダンは、それには怒る様子もなく、簡単に認めている。
『でも、いい女だからさ。見てるだけでもいいじゃん。美人は滅多にやってこないしな。――お前、他にも従妹いるって、話じゃなかったか?』
『いるけど』
『やっぱり、皆、いい女?』
『悪くはないかな』
『結婚してない?』
『でも、3人は無理だろうな。あの一家は、一家揃って、アツアツだから』
『一家揃ってアツアツだと、なんで3人が無理なんだ?』
『一家揃って、幼馴染と結婚してるから。一番上は片付いて、残り二人の娘には幼馴染がいなくても、まあ、あの家族内で、簡単に見つかるだろうし』
ええ?――と、ジョーダンは本当に不満げである。
『だったら、他にはいないのか?』
『もう一人は――無理だな』
『なんで?』
『好みじゃないから』
『会ってもいないのに、好みかどうか、判るはずがないだろう?』
『ああ、無理無理。あっちはショッピング好きだし、そういう娯楽がないと住めないから。この町じゃぁ、ショッピング――ていうほどじゃないだろうしな』
『今なら、オンラインでできるだろうが』
『ああ、でも、無理無理』
簡単に否定して、セスはゆっくりと家の中に戻り出して行った。
ジョーダンはあまりに簡単に否定されて、まだ不服顔だったのだ。
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