その13-03
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豪華な夕食をご馳走になって、それぞれに一度部屋に戻り、シャワーやお風呂を済ませると、大きな娯楽室のような部屋で皆が集まっていた。
そこには、夕食に出されたデザートの残りが並べられているだけではなく、他のスナックやら、更なるスイーツやらが溢れたように置かれているのだ。
ビールの缶がお店のようにピラミッド型に積み上げられ、ワインのボトルだって置かれている。
この人数で、一体、誰が、あれだけのお酒を飲むのだろうか、と龍之介もさすがに不思議がっていたが。
アイラはものすごい量の夕食を平らげたはずなのに、スイーツを見て、大喜び。
お皿一杯に盛り付けて、炭酸ドリンクと一緒に、一人、どーんと席を陣取っていた。
年末のカウントダウンが始まるまで、適当なテレビ番組がつけられていたが、その巨大なテレビのスクリーンを見ても理解できない龍之介は、ジョーダンに勧められて、かの有名な“人生ゲーム”のボードゲームをしている。
龍之介一人では人数が足りないので、廉も呼ばれ、セスも参加してきた。
アイラはスイーツの山を頬張りながら、呑気に見物だ。
セスの兄であるケードは、夕食後しばらく姿を見せず、11時過ぎてから、娯楽室の方にやって来た。
『リュウチャン、俺に10万ドル払ってくれよ』
「えっ……?! またですか?」
さっきだって、借金がどうので、ジョーダンにお金を支払ったばかりである。
「龍ちゃん、今年最後はついてないわねえ」
「ええ? 縁起でもないこと言わないでくれよ」
新年を幸先よく迎えたいので、今年の締めとして、変な風に負けたくないというのが、龍之介の本音だろう。
「ああ、そろそろカウントダウンね」
テレビでは、違う街並みが映っているようで、通りなどで大騒ぎをしている映像があるが、まだ、カウントダウンをし始める様子はない。
アイラがリモコンのボタンを押して、テレビの画面を変えていくが、どうやら、アリゾナ専用のローカルテレビは、今夜はないらしい。
仕方なく、ロサンゼルスが映っている画面を残し、アイラが携帯電話の時間を確認してみる。
『カウントダウンね。――5・4・3・2・1。Happy New Year to you all!』
その掛け声に、全員が明るく返す。
「龍ちゃん~、Happy New Year! 明けましておめでとん~」
両方同じ意味でも、すでに、新年。細かいことは気にしない。
「おお、明けましておめでとう」
アイラが寄って来て、あまりに気軽に、あまりにあっさりと、龍之介の顎を取り、ちゅっと、キスしてきたのだ。
「Happy New Year!」
「あぁっ……!!」
マレーシアでも――アイラにキスされて、いや、親戚中からキスされた記憶が一気に蘇り、龍之介の顔がゆでダコのように真っ赤に染まる。
「レンも、Happy New Year~」
『Happy New Year、アイラ』
今回は、文句は上がらなかったようで、アイラも廉に気軽にキスをする。
それで、アイラは浮かれた様子のまま、座っているセスの方に身を乗り出して、セスにも軽いキスをする。
『Happy New Year、セス~』
『Happy New Year、アイラ』
ジョーダンには、ただの投げキッス。
『なんで、俺だけ差別? 扱いが違い過ぎない?』
『なんで、赤の他人にキスしなきゃならないのよ』
『ええ? なに、その態度? 冷たすぎない?』
『過ぎないわよ』
ボードゲームをしていたテーブルの組は終わったので、スタスタと、ソファーに座っているケードの元に行き、そこでも、アイラは挨拶のキスを済ませる。
『Happy New Year、ケード~』
『Happy New Year、アイラ。お前も、今年は大人しくしてるんだぞ』
『一言、余計よ』
そこで、アイラの電話が鳴っていた。
『あっ、Mum だ』
土地が変われど、時差があれど、ピッタリと時間を合わせて来るアイラの母親もすごい。
そして、ケードの携帯電話も光っている。
チラッと、画面を確認すると、もちろんのこと、ケード達の母親からだ。
こちらも、国は変わらず、されど時差はあるが、全く時間を外さない。
アイラはケードから離れ、娯楽室を出て行ってしまった。
ケードはアイラがいなくなると、自分の携帯電話を取り上げる。
すぐに向こうから、明るい挨拶が投げられた。
『ああ、Happy New Year、Mum 。それから、Dad にも』
それは、電話を代わったら自分から言いなさいよ、と叱られてしまう。
それからしばらく、近況報告や、ケードの仕事の文句が上がり、話は弾み(母親だけ喋っている)、頃合いを見図り、ケードは次の言葉を口にしていた。
『じゃあ、セスに代わる』
『えっ? セスが一緒にいるの?! どっち? ロスなの――』
母親の驚きは無視して、ケードが弟の方に向かって携帯電話を上げてみせた。
次の長いお喋りを勝手にセスに押し付けて来て、ケードもやってくれる。
溜息がちに立ち上がったセスが、ケードから電話を取っていた。
『Happy New Year、Mum 』
まずは、新年の挨拶を済ませるセスと母親だ。
『どうして、ケードまで一緒にいるのよ?』
『暇そうだから、適当に誘った』
『なによ。暇なら実家に顔出すのが普通でしょう?』
『それは、ケードに文句言って』
セスはそこまで暇人ではないのだ。
それから、ケードに喋った同じ内容で近況報告が続き、母親楽しいお喋りが続いている。
『セスんとこの母親は、毎年、ブレないなぁ』
「今、なんて言ったんですか……?」
感心しているジョーダンを不思議そうに眺めている龍之介の横で、親切に廉が通訳をしてくれた。
「それって、毎年、こうやって電話をかけてくるんですか?」
『そう。でも、毎回だけど』
「毎回?」
毎回――が差しているのは、数日に一度は、セスの母親から電話がかかってくるという事実を、龍之介は知らない。
ジョーダンは、毎回、セスの家で夕食を食べているから(勝手に家に上がり込んで)、セスの母親が電話をかけてくることは知っている。
まめな母親だなぁ、とは感心しているが、ジョーダン本人は、自分の実家にそれほど連絡を入れているのでもない。
ついつい、面倒くさくて。
『龍ちゃんは、家に電話しないのか? アメリカで新年迎えただろう?』
「そうですけど、俺は、LIMEでチャットに入れる程度なんで。ジョーダンさんは、実家の方に電話しないんですか?」
『俺は、うーん、まあ、朝目が覚めたら、おめでとう~、くらいの電話かな?』
どちらも、独身貴族を満喫している、独身男のセリフだな。
アイラは30分近くの長電話を終えて、娯楽室に戻って来た。
それから、先程のスイーツにまた手を伸ばしていく。
年末年始くらい、問題もなく、事件もなく、気楽な時間を過ごしてもいいじゃない。
それから、なんやかんやと会話が進み、全員が寝室に戻りだしたのは2時頃だった。
実は、それまでの間、アイラの携帯電話は、次から次へと、チャットが届いた呼び鈴が鳴ったり、電話がまたかかってきたり、スイーツと電話の狭間で、アイラは大忙しだ。
『ああ、気にするな。あれは、一族の恒例行事だから』
だから、男性陣は、一切、女性の会話に口を挟まないのが基本で、暗黙のルールとなっている。
「昔も思いましたけど、一族揃って、皆さん、仲がいいですよね」
『まあね。でも、女性陣の団結力には負ける……。だから、近寄らない方が身のためだよ、リュウチャン』
気のせいかもしれないが、確か、マレーシアに旅行に行っていた時も、セスがくれた助言を耳にした覚えがあるような?
「確か……以前にも、同じことを言われたような、気がするんですが……」
『うん、そうだろうな。アイラの友達なら、きっと、これからもどこかで同じ状況になるから、忘れないように、な』
親切な助言だったのだろうが、これから――は、きっと、アイラと廉と一緒に、こうやって年末年始を迎えることはできないだろうと、龍之介も分かっている。
きっと、今夜が、学生時代最後の、自由な時間だ。
最後の……3人一緒の時間だ。
「あぁあ……、最後かぁ。寂しくなるなぁ」
そんな独り言も、次の年にも、もう、敵わない夢になるだろう。
読んでいただきありがとうございました。
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