その13-02
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『キスしてたのか? アイラと?』
『それも――貪り合って?』
『さあ』
廉の返答は、淡々としてる。
『なによ。ただの支払いじゃない』
『支払い? だったら、友達でも、あんなキスしてくれるわけ? 俺にもしてくれる?』
『支払いされるようなこと、したっけ? 私のキスはね、高いのよ』
『ええ? ――手当てしてあげたのに』
『セスのご飯、食べてるじゃない』
『それは、そうだけどね。残念だ』
アイラはジョーダンのように肘をついてみせ、この上ないくらいの艶笑を、薄っすらと浮かべていく。
冗談めいて喋っていたジョーダンの、その持っていたフォークとナイフの腕が、一瞬だけ止まっていた。
『私が欲しいなら、いつでも相手してあげるけど、それ相応のものがないと、私は満足しないの。パワーもスタミナも欲しいけど、その熱いハートも食べつくさないと、満足できないからぁ』
斜めに顔を上げたその横顔に、微かに開いた口元が艶かしく輝いていて、それを見ているジョーダンの前で、アイラが、ちゅっと、投げキッスを送っていた。
『――……その誘いはすごく嬉しいんだけどね……。それと同時に、男の価値を試されているようでね……』
『別に、比べてないわよ』
『でも、試してる感じだ』
『それで?』
全く懲りないアイラに、ジョーダンも完全に降参である。
『――そっちの友達は、パワーあるんだ』
『さあねぇ』
『――お前ら、セックスまでしてるのか?』
『品のない言い方ね。どうして、こうも下品な男が、揃いまくってるのかしらね。食事の席に、品がないわよ。ちゃんと教育されなかったの?』
『教育はちゃんとされたがな――』
ケードは自分のナイフを握り直しながら、また食事を進め出した。
『あんたも――よくやるよな』
セスも複雑そうなその顔を、まだ廉に向けている。
『まあ、抱き心地は悪くないんで』
『当たり前じゃない。こんないい女に触れられるんだから、感謝しなさいよね』
『すぐ威張るし』
『うるさいわね』
途中で親切な通訳が切れてしまって、そこの会話を行ったり来たり見ていた龍之介は、ちょっと気まずそうにアイラに向いて、
「……なんの、話なんだ、アイラ?」
「ああ、ここの男達が下品だ、って言う話よ。欲求不満が溜まってるから、すぐ、下品な話に飛ぶのよねぇ。別に、龍ちゃんが気に欠けるほどのことじゃないわよ」
「そう……か?」
「そうよ」
『お前、今、俺達の悪口を言っただろう? 日本語が判らないと思って、余計なことを言うなよ、アイラ』
ぷいっと、ケードにはそっぽを向いて、全く相手にしないアイラだった。
『……大したお嬢さんだよな、セスのイトコ殿は……』
『何度も言わせないでよね。私のこと全く知らない男が、下手に口出す方が間違ってるのよ。ヤケド程度じゃ、済まなくなるわよ』
『いや――まあ……、それも否定はしないけどね……。いい女だけど――大変だから……』
それには、ケードもセスも、なんだか、ちょっと口をへの字に曲げて、顔をしかめていたのだった。
あの兄弟は、一族でも有名である。
可愛がり過ぎて、生意気に育て上げてしまった妹とて、その気の強さから言っても、一族の全員が、その性格を知っているものだ。
甘やかされて育ったお姫様――と、冗談を言うのは、大抵、ほとんどの従兄弟達である。
だが、その生意気な性格とて気にせず、偉そうだろうと、気が強かろうと、そんなものを全くモノとともせず、まさにその性格を地で行く本人が、口だけではなく、その偉そうな物言いのままに行動するのである。
有言実行する本人の行動が、逆らうこともできず、口出しすることもできず、それで、男達が舌を巻いているのである。
いつも見知っていた従妹の本性を初めて目にしたであろう――ケードとセスは、あの兄弟が育て上げたままの性格通りの妹が、まさか、これほどまでの器に育っていた――などとは、今回の事件に遭遇するまで、想像もしたことはなかっただろう。
あの兄弟とて、アイラの本性――と言うか、本当の力――を知っているのかどうか、怪しいものである。
口がうるさくて、少々、生意気な娘――だったら、まだまだ、ケードだって簡単に丸め込める相手だ。
だが、小娘ではなくて、一人前の女で、おまけに、その性格も強くて、その性格の強さ以上に行動力が並ではなくて、男一人を簡単に丸め込むことが容易にできる、その頭まで切れて、ここまできたら、到底、並の男程度じゃ、アイラの相手はできないことも、疑う余地はなし。
カイリ達の願適ってか、極一般の男など、早々、容易く近寄ることもできないのではないだろうか。
『――お前も――大層な女に、育ったよな……』
『私のこと何も知らないんだから、口を挟むんじゃないわよ』
認めたくはないが、ケードもセスも、
『いや――それは、そうなんだが……』
と、諦めたように独白を漏らしていたのだった。
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