その4-04
「柴岬藍羅」というあの女の子を探す目的もなかったのだ。
大曽根が龍之介に聞かせた話は、噂を知っているのか、その実態を知っているのか、塾と家の行き来をする龍之介を心配して、大曽根がそれをわざと聞かせたのだろうと簡単に推察ができる。
通りの端にたむろっているグループを無視するように先に進んでいく廉の傍らで、数人で固まっている若い女の子がそれらしい視線を頻繁に送ってくる。
こんなところで簡単に売春まがいの宣伝までもしているようで、廉はその様子をただ黙って眺めていた。
「ああ、そしてまた会うんだ」
まさか、龍之介が話した通りにあの噂の柴岬藍羅を目撃しようとは、廉も考えてはいなかった。
その後ろ姿からでもはっきりと分る、派手な短いスーツを着こんで、ピンヒールなみの高いハイヒールを履いていた。
背が高い上に、あんなピンヒールを履いていたら、そこらの男共よりもはるかに頭一つ分背が高くなっている。
だが、視界の向こうでは、そんなことを一向に気にした様子もなく、横道から出てきた本人は、他の奴らに目もくれずにスタスタ、スタスタ、とその場を歩き去って行く。
短いスカートをはいて、スーツを着ているとは言え、随分あからさまに煽情的な体に密着した洋服である。いかにも男を誘っているのがありありとして、おまけに、それで男が自分を眺めているのも知っている強い歩調である。
「まあ、随分と化けたこと」
そのチラッと見えた横顔からでも、化粧をして、全く普段の高校生からかけ離れたその表情が伺えた。
「怪しいな」
「怪しいよな」
揃って繰り返したあの二人の言葉が廉の頭によぎっていた。
全く歩調も変えず、スタスタ、スタスタ、と足早にその場を歩き去っていく背中を見やりながら、廉の歩調も軽く上がっていた。だが、すぐ後ろを尾け回すのではない。
あのヒールの割には前を進んでいく本人の足並みが崩れず、どこに行くのかと思ったら、真っ直ぐに地下鉄の入り口に入っていき、あのままの歩調で階段を駆け下りて行ったようだった。すぐ上の入り口の所に来ていた廉の耳にまでも、カンカン、カンカンとヒールが階段を蹴って行く音が届いてきていたのだ。
このまま移動するなら、そのまま放っておけばよいのだろうが――
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