その13-01
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『わざわざ来なくても、いいじゃない』
夕食の席で、アイラは自分のパンをちぎりながら、前に座っているケードを、少し睨め付けるようにしていた。
『せっかく、見送ってやると言ってるのに、ひどい言われ様だな』
『見送る気があるわけ? むしろ、監視してる、の間違いじゃないの?』
『お前は、信用にならんからな。チケットだけ置いて、お前を帰すと思ったのか?』
『グチグチ根に持つなんて、暗いわね。いいじゃないの、そっちの件だって、全て、難なく解決したでしょう? 一体、誰のおかげだと思ってるのよ』
ケードは自分の食事を食べながら、それにはノーコメントである。
『私のおかげなのに、お礼がないわよねぇ。どうしたのかしらね』
『お前が首を突っ込まなきゃ、もっと早くに解決しただろうに』
『私の件は、別件じゃないの。私がいようがいまいが、犯人グループも捕まえられない警察の落ち度でしょ。それで、おこぼれ預かってるのはケードなんだから、しっかりお礼しなさいよ』
『するか。お前は、さっさと帰れ』
『私がいなくなったら、寂しがるくせにぃ、ねえ、ケード?』
『それは有り得ないな。だから、さっさと家に帰れ』
『まだ、あと2週間はあるもんねぇ。しっかり遊んで帰らないと』
『お前はさっさと帰れ』
「そっか……明日、帰るんだなぁ……」
廉に通訳されて、アイラの会話を聞いていた龍之介が、そんなことを、ぽしょっと、こぼしていた。
「龍ちゃん、せっかく遊びに来たのに、こんな辺鄙な所に押し込められて、つまらなかったわよねぇ。色々、周る予定だったのにさ」
「そうだけど、俺は――結構、楽しかったぜ。いやぁ、こんな牧場で仕事させてもらって、すごいいい経験だったなぁ……」
「龍ちゃんって、そんな程度で幸せ感じてるなんて、夢がないわね」
『おい、何を喋ってるんだ。日本語で話すな』
ケードが、わざとに、アイラの会話の邪魔をして、その不満げな顔をアイラに向けている。
『龍ちゃんが、こんな辺鄙な所で仕事できて、最高――なんだって』
『ああ、君は、よく働いてくれたからね』
「そんなこと……ないですよ。俺は、こんな大きな牧場にこれて、感動してます」
『君はアイラの友達なのに、いい子だな』
『なによ。私が悪者みたいな言い方じゃない』
ムッと、した顔をセスに向けるアイラは無視して、セスは龍之介の方を見返しながら、まだ微笑んでいく。
『また、いつでもおいで。獣医になったら、ここでも働き口を探してあげるから』
「ええ? 本当ですか? ――それって、すごいなぁ……。でも、俺は英語が全然ダメなんで、無理ですよね。でも、すごい為になりました。どうもお世話になりました」
『いいえ、こちらこそ。本当に、アイラの友達なのに、素直でいい子だね』
『うるさいわね』
『アイラともう一人の友達とやらは、ここにいる間も、全然、働かないしね。君は働き者だし、大助かりだったよ』
「ええ……そんな、ことないですよ……。――あの……日本にも、遊びに来てください。泊まらせてもらったので、俺の家に泊まっていけば、観光もたくさんできるだろうし」
『そうか。それはありがたいな。日本には、まだ、行ったことがないんでね』
アイラを無視して、やけに、龍之介と意気投合して会話をしているセスに冷たい目を向けて、アイラはそっぽを向いている。
くすっと、向かい側から笑い声がして、アイラが視線だけを戻すと、ジョーダンが肘をつきながら、アイラをおかしそうに眺めていた。
『明日、帰るんだ。それは残念だな。イトコ殿がいなくなると、毎日の張り合いがなくなるよ』
『そうね』
『そうそう。いい女は、滅多にやってこないからさ。セスのイトコじゃなかったら、すぐに口説き落として、俺のお嫁さんにしているのになぁ』
『牧場じゃなくて、お金もわんさかあるなら、考えてやってもいいわよ』
『うーん、それは残念だよなぁ。でも、セスのことを抜かしても、君さ、お兄さんがいるんだろう? だから、俺は手を出さない方がいいって、警告されてさ。それで、手出してないんだ』
『出してもいいのよ、別にぃ。ねぇ?』
『ホントかな。殺されない?』
『さあねぇ』
くつくつと、笑っているアイラの本音は、なかなか読み取れないものである。
それで、ジョーダンはちょっと首を倒してみせながら、そのフォークを行儀悪く廉の方に向けてみた。
『でも、こっちはキスしてたよね。友達なのに』
ガチャ――と、ケードの持っていたナイフが皿を削り、それと同時に、ケードとセスがアイラに向いた。
『なによ』
『――なんで、キスしてるんだ?』
『貪り合ってたし』
『下品な言い方ね』
嫌だわと、アイラが顔をしかめてみせるが、そんなことは関係なく、二人の視線が、同時に廉にも向けられていた。
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