その12-05
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ケイドは事務所のパソコンの前で、微かにだけ眉間を寄せる。
前の前のイーメールを見ながら、冴えた鋭い眼差しだけが画面を睨み付けている。
あまりに気に食わない、という表情も隠さず、ケイドはイーメールを開けていた。
まず初めに、眉間を寄せた理由は、二つ。
イーメールの送り主。
そして、ボディーにあるたった一行の言葉。
もちろん、送り主は、あのアイラで、アリゾナに落としてきた従妹だ。
セスの家にいるはずなのに、わざわざと、ケイドにイーメールまで寄越してくる理由が、あまりに胡散臭すぎる。
そして、たった一行だけの文章。
“大きな借りを作ったことを忘れないことね、ケード”
癪に障る文章だったが、その内容も、あからさまに胡散臭すぎる。
それで、添付されているファイルはメディア用ファイルで、益々、胡散臭さが高まってしまった。
メディア用のファイルを開くと、音声だけがすぐに流れて来た。
その半分も聞き終えないうちに、パっと、ケードの瞳が大きく見開いていた。
『アイラめっ――』
アイラに怒鳴りつけたい心境なのか、呆れてものが言えないという感想なのか、そのどちらも混ざったような苛立った呟きを漏らし、ケードが携帯電話を取り上げていた。
だが、かけた相手は繋がらず、「只今、圏外でコールが届きません」なんて、親切な機械音だけが流れて来る。
くそっ、と苛立たし気に吐き出したケードは、次に、弟のセスに連絡を取っていた。
セスはフィールドに出ている時は、携帯電話の電波が届かない時が多いので、無線電話を携帯している。
それで、一応、自分の携帯電話にかかってきたコールは無線電話の方に転送していることが常だ。
『おい、アイラはどこだ』
相手が電話を取るや否や、ケードがそれをまくしたてていた。
『出かけている』
『どこに』
『さあね』
役にも立たないセスの返事を聞いて、ケードが更に苛立ちを深くする。
セスの方だって、昼食に家に戻ってきたら、アイラと廉の姿が見えなくて、キャサリンに尋ねてみたら、
『あら、出かけて行ったみたいですよ。革ジャンのことを聞いていましたからね』
それで、すぐに思い当たる節があり、自分のガレージに行ってみると、もちろんのこと、そこにあるはずの、自分のお気に入りのバイクがないではないか。
それで、あの二人は、セスに無断で、おまけに、勝手に、セスのバイクを盗んで、出かけてしまった事実が判明したのだ。
龍之介に、二人の居場所を聞いても、龍之介の方も二人がいなかった事実に驚いていて、あまりに素直過ぎる反応を見て、龍之介は何も知らされてないことを、簡単に理解してしまったセスだった。
『おい、危ないことしてるんじゃないだろうな』
『そんなこと、俺が知るか』
セスに文句を言われようとも、ケードの方だって、事情も知らずに、結果だけ送り付けられたような状態である。
『まあ、そこまでひどい状況ではないだろうが』
ふうんと、セスの相槌は全く納得していない様子がありありである。
『あの二人が帰ってきたら、叱り飛ばしておいてくれ』
ふうんと、まだセスはそんな相槌だけを返していた。
疲れ切ったように、ケードは次に連絡する相手を呼び出していた。
『アル、証拠が出て来た。仮釈放をすぐに要求する』
『え? ――マジ?』
一体、どうやって、と聞き返したいのだろうが、それは、ケードだって知りたいくらいだ。
『今から落ち合おう』
それだけを言いつけたケードに、アルも文句はなかったらしい。
自分のコートを掴み、ケードはさっさと事務所を後にしていた。
それでも、歩きながら、アイラのヤツめっ、とぶーたれ文句を言うのは忘れずに。
数時間をかけて、またアリゾナに戻って来たアイラと廉は、家で待ち伏せをしていたセスに掴まり、その後、しっかりと、お説教を食らっていた。
それでも、アイラ相手だと、説明どころか、話にもならず、お説教をしている半分で、セスだってあまりの無駄と疲労と感じ、そこで切り上げてしまっていたのだった。
それから、「無謀な行動する気なら部屋に縛り付けるぞ」 と脅されて、渋々、今日は大人しく家に残っていると、約束させられたアイラを信用しているのかいないのか。
それでも、仕事は残っている。
盛大な溜息をこぼし、セスは(本当に)仕方なく仕事に戻って行った。
今夜は大晦日でご馳走というだけに、キャサリンは忙しくキッチンで動き回っている。
それで、することもない二人の元に、ヴィクター・スボルスキーから電話がかかってきていた。
もうすぐ夕食が始まる頃だった。
『逃亡者は、無事に引き渡してきた報告をね』
『あら、そう』
『さすがに、ギャングに命を狙われているから、警察に身柄の引き渡しを頼んだら、向こう側も快く引き受けてくれた』
もちろん、ケードから結果だけの録音を聞かされたアルが、すぐに状況を理解して、ギャングを逮捕するには、あの中年男の証言が必要だと判断していた。
それで、上層部に掛け合い、男の身柄保護で、州検察官からも同意を得ていたのだった。
身柄の受け渡しは、予想以上に簡単なものとなったのだ。
『楽しく仕事させてもらったな、ゴージャス』
『こっちもよ、ハンサムさん』
パチンっと、携帯の電話を切ったアイラの顔に、満足そうな笑みが浮かんでいた。
『終わったの?』
『そうね』
『そうか。じゃあ、きちんと支払ってもらおうかな』
アイラは、ちょっと隣にいる廉を睨め付けるようにしたが、仕方なく、少し背伸びをして、ちゅっと、廉の頬にキスをした。
「Thanks」
『なんだか、いつも、これで誤魔化されているような気がするな』
『いいじゃないの。こんないい女にキスされるんだから、少しは喜んだ顔しなさいよ』
『だったら、きちんと支払ってもわらないことには。君の要望通り、今回も、俺はたくさん君に手を貸しただろう? お礼する気なら、しっかりしてもらわないと、アイラ、女が廃るんじゃないのかな?』
『取り過ぎじゃないの?』
『そうかな』
『そうよ』
『もらい過ぎよ』
『そうかな』
淡々とそれを言って、じぃーと、アイラを見下ろしている廉の顔を見ながら、アイラはちょっと口を尖らせてみせるが、本当に仕方なさそうな溜め息をつく。
『仕方ないわね』
それで、アイラが廉に向き直り、両腕を上げて廉の肩に寄りかかって行く。
ゆっくりとアイラの顔が寄せられて、アイラの唇が届いた時、廉も両腕をアイラの背中に回し、そのまま、アイラの頭を引き寄せるようにして、キスを深めていた――
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