その12-03
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吐き出しかけた男の隙を見て、廉が握っていた男の片手を引っ張り上げ、その反動を利用して、男の体を蹴飛ばし、ベッドの上でうつ伏せにしてみせた。
クルクルと、もう片方の手を一緒に縛り付けて、適当に括っておけばいいらしいから、一応、手と手の内側にもクルクルと巻き付けて、ロープで縛り終えていた。
『……殺さんでくれっ……!』
ロープで縛られても、ベッドの上で、ミミズのように這い廻る男の背に、ドンッと、アイラのブーツが乗せられる。
『……うぐっぁ……!』
『動き回るんなら、このままギャングの餌にしてやるけど』
『……ひぃっ……! やめてくれっ! やめてくれっ! 金ならやるっ! なんでも言うことを聞くから――』
『だったら、うるさく騒ぐんじゃないわよ。耳障りだわ』
それで、ブーツを乗せているアイラの足に体重がかかり、中年男の顔も腹もシーツの中に埋まって行く。
『自分の体重の重さで窒息死するんじゃないの?』
モガモガとシーツに混ざり、男の喚き声がかき消されている。
『騒ぐな、って言ったのが、聞こえなかったの? うるさいなら、この場で、速攻で始末するわよ』
騒ぎ立てるのでもない、大声を上げているのでもない、ただ、あっさりと、それでいて、この状況を楽しんでいるかのような軽やかな声音が、男の頭元に振って来る。
ピタリ、と男の動きが止まっていた。
『やればできるじゃない。何度も繰り返させるようなら。――ねえ、分かってるんでしょう?』
少し屈んで来たアイラの誘うような声色が、男の耳に簡単に届いて来る。
声を出さず、シーツに顔をこすりつけて、男が何度も頷いてみせた。
アイラの視界の端で動いていたヴィクター・スボルスキーが、部屋の端にあるボストンバッグを見つけていたようだった。
鍵もかかっていなく、チャックを開け、中を確認したヴィクター・スボルスキーが、その中身をアイラに見せつけるようにした。
『ちょっと、あれだけの?』
『そ、そうだっ……』
『なに言ってんのよ。有り余るほどの金があるって言ったその口は、どこに行ったわけ?』
『い、いや、そ、それは……』
『なんなのよ。それとも――仰向けにさせて、大事な、大事な場所を、痛めつけてやろうかしら』
『ひぃ……! ――やめてくれっ……』
『だったら、手間暇かけさず、洗いざらい全部吐きなさいよ』
『だったら、見逃してくれっ……! 命だけは……』
『いいわよ』
『いいのかっ?!』
『そう。でも、嘘や戯言を吐いていると分かった時点で?』
『わかってるっ! 嘘はつかんっ! 命だけは、見逃してくれっ……!』
その後は、なし崩しだ。
中年男はロスで何件か店を持っているオーナーだ。
そして、脱税をしているだけではなく、ギャングのマネーロンダリングも請け負っていたらしい。
ギャングの汚い金を自分の店や、知り合いの店で回し、それできれいなお金をギャングに回していた。
だが、ついつい、欲に目が眩んで、マネーロンダリングの金を横領し始めていたと言うのだ。
横領が見つかってしまい、片棒を担いでいた相棒がギャングに殺され、そのニュースを聞いてあまりに焦った男は、ロスをさっさと逃亡したという。
それも、横領した金を全部持ち歩いて。
なんて、バカで浅慮極まりない男だ。
今時、現金を持ち歩いている犯罪者などいない。
現金だろうと、お金が入ったのなら、すぐに、どこか秘密の銀行口座に振り込んで、いざと言う時の為に、きちんと残しておくものだ。
それで逃亡中でありながら、カジノで大金を使い遊び散らし、女を引っかけてご満悦~なんて、あまりに頭がバカ過ぎて、アイラの目は完全に侮蔑だけがあった。
カジノで大金をはたいて、一攫千金でも? ――なんて、考えていたらしい。
その場を、ギャングに嗅ぎつけられて、一緒にいたアイラを盾にして、自分だけはさっさとトンズラしたのだ。
その後、レンタカーですぐにベガスを去って南下し、この場所で、自分の最愛の愛人である若い女と落ち合う約束だったと言う。
愛人の方にも、横領した金は横流ししていたので、女からも金も受け取り、そのまま二人でメキシコに逃亡を企てていた。
ボストンバッグに入っていたお金の全額は、アメリカドルにして4万ドルくらいで、上下の差があるとしても換金したら、日本円では500万ちょっと、というところだろう。
中年男がくすみ取ったお金が2億程度で、数百万は片棒を担いでいた相棒が、残りはこの中年男が持ち歩いていた。
ラスベガスのカジノでギャングに見つかった時に、慌てて車に残してきてしまったのが、1億ほど。
変装したアイラに貢ごうと、自分の手元に残していたのが5百万ほど。
ギャングにしてみたら、大した額の金ではないが、それでも、自分達の縄張りから盗み取った男は死罪同然。
全ての全貌が明らかになり、その説明を聞いていた三人も、あまりにアホ臭くて、途中から完全に白けた様子がありありだった。
『こんな汚いモノを車に乗せるなど、嫌な仕事だ』
それも、中年の素っ裸の男を、だ。
『あらぁ、下手に逃げられることもなくて、いいんじゃない?』
『さすがに、車の中に監禁し続けているわけにもいかないだろう?』
『その点だって、問題ないわ』
なぜかは知らないが、アイラの不敵な微笑が浮かんでいき、紅い口元が弧を描いて上がって行く。
ゲロゲロ……と、廉だけがその場の状況を察しして、心底嫌そうに顔をしかめている。
『俺は嫌だからね』
『あら、ここまで手伝ったんだから、最後までしっかりやり遂げなきゃね?』
『嫌だね』
『いいじゃない。ちゃーんと、支払いは済ますわよ』
『嫌だね。あんな汚いモノなんて、触りたくもない』
今回だけは、どんなにアイラに丸め込まれようとも、廉だって絶対に嫌なものは嫌なのだ。
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