その12-02
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それを耳に当てると、『あんっ……! いいっ、すごくいいっ……!』などと、あまりに嘘くさい女の喘ぎ声が耳に入って来た。
そんな他人の腐った情事を耳にして、すでに、アイラの目は死んでいる。
逃亡中に、随分、いいご身分ではないか。
『邪魔するから、鍵開けてくれない?』
そして、犯罪もどきの強行突破を口にしても、ツラっと態度が変わらず、ヴィクター・スボルスキーに意味ありげな視線を向けているアイラだ。
ほんの微かにだけ、ヴィクター・スボルスキーの口端が上がったようにも見えたが、ヴィクター・スボルスキーは車の後ろに回り、トランクの中から小さなアタッシュケースを取り出した。
何も言わず、スタスタと、ヴィクター・スボルスキーがモーテルに向かって歩いて行くので、アイラと廉もヴィクター・スボルスキーの後をついていく。
国道沿いに、ただポツリと一件建っているモーテルは、二階建ての簡素なアパートのようなモーテルである。
一応、ネオンのついた看板が立っていて、レセプション(受付)は奥の一軒家が続いているような場所にあるらしい。
それで、真正面にある階段を登り、左手の通路を通り過ぎ、ある一つの部屋の前にやってきていた。
壁だって、ドアだって、防音されていないただの薄っぺらいものだ。
それで、ドアの前に立っている三人の前でも、中で行われている汚い情事の喧騒が届いてくる。
小さなアタッシュケースを開き、ヴィクター・スボルスキーは難もなくドアのカギを開け、中側のチェーンをプツリと切り落としていた。
音を立てないようにドアを開けると、すぐ目の前にベッドがあり、テーブルに椅子と、小さな部屋だった。
『……あん、あんっ。すごく、いい……!』
目の前でゴテゴテになったシーツやベッドカバーの下で、動き回っているのが視界に入って来る。
『なんなのよ、これ。触るだけで、私のブーツが腐るわよ』
『――あ?』
いきなり声が聞こえて来て、シーツの下で動いていたらしき男が、少しだけ頭を上げてみた――
ドカッ――!
アイラが容赦もなく、シーツの下にもぐっているような男のお尻を蹴り飛ばしていた。
『――おわぁっ……!!』
やってる真っ最中で、突然、うしろからド突かれたものだから、体勢を崩し、男の顔が真っすぐに枕に激突していった。
『……いたっ! なんなのよっ――!!』
いきなり、重たい男の体が自分の顔の上に激突して来て、下にいたであろう女が悲鳴を上げて、重たい男の前身ごろを必死で叩き返す。
『……おっ、いたっ、いたっ……!』
必死に男の下からくぐりぬけてきた女が、半ば起き上がって――そこにいる見知らぬ三人を目にし、その顔がサッと強張った。
『どうやら、女の方は、一応、状況を把握してるんじゃない』
その冷たい言葉を聞いて、女がバッとシーツを取り上げ、ベッドの上で後ずさりしていく。
『やめてっ! あたしは関係ないのよ。お願い、殺さないでっ!』
『うるさいから、黙らせてよ』
あまりにあっさりとした言いつけだったが、ヴィクター・スボルスキーは気を害した風もなく、ベッドのサイドに近寄って行く。
『いやっ! やめて、触らないで――! あたしは何も悪くないの――っ!』
わめき散らす女が腕を振り回し牽制するが、ヴィクター・スボルスキーは苦も無く、伸びて来た女の腕を取り上げ、そのまま、勢いで女を引っ張り上げたのだ。
『……ひゃ――!!』
そして、真っ裸の女をベッドから引っ張り上げ、そのまま床に投げ捨てるようにした。
シュッと、手刀が入り、女はその場で簡単に気絶していた。
『……ひぃ……!』
体勢を取り直した男が、ベッドのヘッドボードに背を押し当てて、今の光景で、真っ青になっている。
女でも、全く手加減しないところが、冷徹さを物語っている。
ひらり、とアイラがブーツを履いたまま、ベッドに乗り上げた。
『……ひぃ……! 見逃してくれっ。金ならいくらでもやるっ……! 殺さんで――』
『甘いのよ』
背筋が凍り付きそうなほどの綺麗な微笑を浮かべてアイラの長い足が、ドンッと、男の顔ごとヘッドボードを蹴り上げていた。
ゴンッと、鈍器が壊れたようなものすごい音と共に、あまりに痛さに、男が顔を両手で覆っていた。
『私の柔肌に傷をつけてくれた落とし前は、しーっかりとつけてもらうわよ。おまけに、女を盾に取って命乞いなんて、どこの腐れ外道よ』
『……なっ、なにを言ってるのか……』
まだ必死で顔を押さえ込んでいる男の手の隙間から、鼻が折れたのかその血が出ていて、手が汚れ出している。
それで、アイラが自分のブーツの底を、ベッドの上のシーツでこすり落としている。
あまりに汚いものに触れたとでも言うような動作で、ブーツの底をシーツでこすりつけていたのだ。
『こんな汚い奴に触りたくないから、縛り付けてよ』
ちらっと視線だけを廉に戻したアイラに、廉だって、こんな汚い男になど触りたくもない。
おまけに、中年男の真っ裸にだって興味がない。
廉には珍しく、少しだけ嫌そうに顔をしかめながら、廉が肩のリュックサックを下ろしていた。
目的場所にやってくる前に仕入れていたロープをバックの中から取り出し、その片方をピンと張り上げる。
『適当に縛るわけ?』
『それでいいんじゃない?』
あまりに適当な二人の横で、くすっと、ヴィクター・スボルスキーが微かに笑いを漏らしていた。
『後ろ手で、解けない程度に括りつけてくれればいいよ』
『そうですか』
廉はアイラ側のベッドサイドに近付いていき、顔を押さえつけている男の片手を取り上げた。
『……うわっ!……ひぃっ……殺さんでくれっ!』
あまりにうるさく暴れ出した男の前で、アイラのブーツの二撃目が丸いお腹に直撃した。
『……うごっ……!』
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