その12-01
ブックマーク・評価★・感想・レビューなどなど応援いただければ励みになります! どうぞよろしくお願いいたします。
『Ducati ねえ。悪くはないけど、いかにも、男のバイクって感じよねえ』
セスのガレージに勝手にやって来ているアイラは、数台ある車の奥に停めてあったバイクの一台を見つけていた。
誇り一つなく、泥だってついていない。
よく磨かれた黒の光沢が光り、迫力のある大きさに、太く大きなタイヤ、大きなエンジン回りは、男らしさを感じさせるようなバイクである。
『勝手に乗り回したら、怒られるんじゃないの?』
『あら、ちょっと借りるだけよ』
そして、貸してください、などとは一言もお願いしていないアイラは、ガレージの中を探して、バイクのヘルメットを見つけていた。
『少し移動の距離があるから、今のコートじゃ寒いわね』
さすがに、バイクを運転し続けている状態では、普段着ている冬用のコートやジャケットでは、スースーして、すぐに体温が下がってしまう。
仕方なく、一度、家の中に戻って、家政婦として手伝いに来てくれているキャサリンに、革のジャケットがないか尋ねてみた。
ジャケットやコート類は、廊下側のクローゼットにかかっているらしく、クローゼットを開けてみると、革ジャンはきちんと揃っていた。
バスケットが入った棚には、ちゃーんとバイク用の手袋だってある。
『セスの体型なら、レンでも問題ないわね。私は――仕方がない。バイクジャケットで済ますか』
革ジャンは少々形が大きすぎて、アイラの細身の身体にはダボダボして邪魔になってしまう。
バイク用のバイクジャケットは革でも、冬の寒風には少々向いてないものだ。
ついでに、旅行用のバッグも置いてあるクローゼットがあって、そこから、レンに背負わせるリュックサックも見つけていた。
勝手に使用しまくりだ。
『龍ちゃんにはなんて?』
『ちょっと出かけて来るわ、ってメールしておいてよ』
説明をしても長くなるし、下手に説明すると、きっと、セスの邪魔が入るだろう強い、色々、面倒になってくる。
龍之介は、今日もセスについて行って、牧場の世話をしている。
休暇中の旅行でやって来ているのに、仕事なんかして、毎日、ご機嫌の龍之介だった。
『もう、今日で年越しじゃない。まったく、せっかくの旅行なのに、いい傍迷惑だわ』
今夜は、大晦日とあり、夜はご馳走を作ってくれるらしい。それで、新年を迎えるまで、飲み会ではあると聞いている。
いつもは、近所の知り合いなどを呼んで飲み会や軽いパーティーのようなものを開いたりするらしいが、今回は、アイラ達がやって来ているので、身内だけのパーティーらしい。
別に、セスが招待したいなら、近隣の知り合いだって呼べばいいのに、なぜか、今回は、アイラ達だけで小さなパーティーだそうな。
バイクの鍵を回すと、軽快なエンジン音がガレージの中で鳴り響く。
『これ、かなり前倒れなんだな』
前に座るアイラの腰に掴まるような体勢にはしてみたが、以前のように、腰を掴んでいるだけで少し後ろ側に背を伸ばせるような体勢ではないことだけは確かだった。
バイクのハンドルを握るアイラもかなり前屈みになっていることから、スピード用のレースならこの体勢でも全く問題ないのだろうが、少々、遠距離の移動は、体勢がきついかもしれないな、とは廉の頭には浮かんだことだ。
快適にスピードを上げ、整頓されただけの砂利道をアイラ達がバイクで走り去っていく。
『それで、動きはあったわけ?』
『いや、今の所はないかな』
バイクで数時間ほど飛ばしてやって来たのは、アリゾナからまた下に向かう南方で、廃れた国道沿いの店がポツポツとだけ並ぶような、ほとんど何もない町の近くだった。
連絡を受けて落ち合うことになった場所では、ヴィクター・スボルスキーがたった一人きりで待っていたのだ。
アイラ達が寄って来ると車の中から姿を出したヴィクター・スボルスキーは、きちんとした背広を着ていて、そのあまりにビジネスマンらしき格好からでは、これから逃亡者の大捕物を計画しているような探偵には全く見えなかった。
『こんな南にまで下って来て、まさか、メキシコまで逃亡する気なんじゃないでしょうね』
『その可能性は高いね』
ギャングなのか、マフィアに追われて逃亡を図ったはいいが、どこかに逃げ隠れるのではなく、未だに移動を続けて、更に南に下っているという。
それで、アイラだって、それなら、アイラの柔肌に傷をつけてくれた落とし前は付けさせてもらおうじゃない、と目的地までやって来たのだ。
だが、逃亡したあの中年男を見張っているらしいヴィクター・スボルスキーの報告では、ここ二日ほど、あの中年男はなぜか同じモーテルに籠ったまま、外に出てこないというのだ。
『こんな場所で何してるのよ』
『愛人と落ち合う予定だったようだ』
『愛人?』
あまりに軽蔑した目に、声色で、アイラが遠い目をしてモーテル側を見ている。
ギャングに追われ、命からがら逃げ切って来たくせに、わざわざ愛人を呼び寄せて、一緒に逃亡を図りたいらしい。
そんなもの、さっさと切り捨てるか、無事に、メキシコ辺りまで逃亡して姿をくらました後にでも、呼びつければいいものを、こんな切羽詰まった逃亡中に愛人を待っているなど、アホ臭くて相手にもしていられない。
『ギャング? マフィア?』
『ギャングだろうね』
アイラが質問したことには、ある程度の答えは返って来るが、それだけである。
自分から説明してこないし、その気配もない。
まあ、この手の男は、靖樹だけでなくて、一族内でも似たようなのがゴロゴロいるから、アイラもその手の相手ならお手の物だ。
『なんで、捕獲しなかったのよ』
『今はお楽しみ中のようだから、その邪魔をするのもなんでね』
顔をしかめかけたアイラの前で、ヴィクター・スボルスキーが耳から丸いイヤホンを外し、アイラに方に差し出してきた。
読んでいただきありがとうございました。
一番下に、『小説家になろう勝手にランキング』のランキングタグをいれてみました。クリックしていただけたら、嬉しいです。
Twitter: @pratvurst (aka Anastasia)