その11-02
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だが、セスは前を歩くアイラの後ろ姿を、チラッと、もう一度見やっていた。
赤ちゃんの時から幼児時代、それから学校に入って、思春期――と、その成長の過程を見知っているセスだったが、高校を卒業した辺りからのアイラを見知っていない。
今では、すっかり体つきが変わり、どこをとっても、大人の女としか見えないあの体付きに変わっただけではなく、あの若さで、男を手玉に取る色気まで身につけて、そして、男達が自分の体を見ていることを全て承知でいるあの瞳も、随分、変わったものだった――大人になった――と言うべきなのだろうが。
昔から、抱き締めても、セス達の腕にスッポリ収まってしまうあのウエストの細さは、ラッキーなことに、アイラの母親譲りなのだろう。
あの叔母さんも、年を取っても、未だに迫力の美人である。
典型的なIrish の容姿を受け継いで、闇を含んだ黒髪に、海色の瞳を持っている。
若い時は、アイラの父親が、一発で一目ぼれしたほどの魅力があったそうだが――まあ、それも頷けるものだろう。
アイラは母親の容姿をあまり受け継がなかったようだが、アイラが成長するにつれて、セス達の祖父や叔父や叔母が、
『アイラは、Nana にそっくりになってきたわねぇ』
と誰しもが繰り返すので、Nana の若かりし頃の容姿は、アイラのようだったのだろうか。
一応、孫達も皆、Nana の若い時の写真を見たことがあるが、あまり、アイラとの相似点を感じない孫達は、どこがNana に似ているのか、よく判らないのであった。
それとは別に、前を歩いていくアイラの後ろ姿を見ているセスの視線が、その腰だけではなく、腕や首、足にもずっと向けられていた。
「――あの、じゃあ、立ってください」
本人はあまりやる気がなさそうだったが、それでも、律儀に、ジョーダンの前に立って、まずそれを言った龍之介だった。
馬小屋の後ろに積まれている牧草を軽く当たりに撒き散らし、なんとなくクッションのできる場を作り終えると、ジョーダンはやる気満々で、龍之介の前に立っていた。
「あの――柔道の基本は――結構あるんですけど……」
『じゃあ、あの投げ飛ばすのは?』
「背負い投げは――まあ、それだけでも教えますけど……。まずは、基本の形が、足を肩幅ほどに開いて、それで、動く時は、三角形を作るような形で……」
龍之介は丁寧に説明しながら、つま先を動かして、足の動く場所や間隔も親切に教えていた。
ボスがやってきて、見知らぬゲストも連れてきて、それで、何か始まりそうな様子に、馬小屋近くにいたセスに雇われている他の就業者も、なんだなんだ――と、興味をそそられて、策越しに少し集まり出していた。
『あの僕、ジュードー習ったのか?』
スッと、アイラの後ろからアイラの腰に腕を回してきたセスが、少しアイラを抱き締めながら、その肩に自分の顔を乗せるようにした。
『他にもたくさんよ』
『たくさん?』
『そう。龍ちゃんはね、サムライボーイだから、なんでもやってるのよねぇ』
丁寧に龍之介が教えているいる様子を、アイラは、随分、おもしろそうに眺めている。
『そう言えば――あの僕、アニマルドクターだって、言ってたが』
あの場の状況を思い出して、セスはまだ信じがたい、と言った表情をみせて、少しだけ顔をしかめていた。
『そうよ』
『マジで?』
『そうよ』
『本当に、獣医なのか?』
『そうよ。まだ勉強中だけど』
『じゃあ、学生――大学生って言うのも、本当だったんだな』
『そうよ』
『日本人は――若く見えるって言うがな……』
『なんでよ』
『いや――子供だと思ってたから』
それを聞いて、アイラが軽く吹き出していた。
『まあ、龍ちゃんは幼く見えるかもしれないけど、子供なんて、ひど過ぎるじゃない。ちゃんと、大学行ってるのよ』
『いや――そうだとは言ってたがな……』
ふーむと、セスはいまだに、信じられないものでもみるような様子だった。
『いくつなんだ?』
『私より一つ下よ。今年で21ね。だから、やっと、バプにも行けるようになったじゃない』
旅行中でいつも年を聞かれ、確認させられるのは龍之介ばかりである。
少々、可哀想にもなってくるが、あの光景を思い出して、アイラもつい、くつくつと、声を押し殺して笑ってしまう。
『あいつは?』
『あいつ?』
『もう一人の友達』
『龍ちゃんと同い年よ』
『あれで?』
『そう、あれで。あの男はね、龍ちゃんと違って、老けて見られるのよ、いっつもね』
まあ、セスも、それは否定はしないが。
丁寧に教え終わった龍之介の前で、お手本を見せますが――と、聞かれたジョーダンは、もちろんのこと、全く問題なしにOKを出す。
「では、行きます」
たかがジョーダンに教えるだけなのに、龍之介は真面目な顔をして、きちんとその場に並び直していた。
スッ――と、瞬時に、龍之介の体が素早く動いて、襟口を掴んだ龍之介が、重さも感じさせず、一気にジョーダンを投げ飛ばした。
ドンッ――と、牧草がちゃんと散らばっている真ん中に、ジョーダンが投げ飛ばされる。
龍之介がかかってくる――と、本人も構えていたのだったが、予想以上に素早く、おまけに、アッと言う間に投げ飛ばされて、ジョーダンは高い空を見上げたまま、まだ呆けている。
「あの――大丈夫ですか……?」
龍之介が、おずおずと、ジョーダンの頭元から覗き込んできた。
野次馬に集まってきていた就業者も、一瞬、何が起こったか理解できず、全員がポカンとしている。
「あの……すみません。大丈夫ですか?」
龍之介が腕を出してきて、ジョーダンはそれを目線だけで追っていたが、自分の腕を伸ばしそれを掴んで、ゆっくりと起き上がるようにした。
『――やるなぁ……。すごいな、サムライボーイ。あんな早くに攻撃できるんだ。すごいぜ。さすがだなぁ……!』
投げ飛ばされた反動も全く気にした様子はなく、ジョーダンは更に興味をかきたてられたようで、その瞳が、おもちゃを見つけた子供のように爛々と輝いていた。
『すごいぜ。俺は今日から君の事を、師匠、と呼ぼう』
「俺は――それほど、すごくないんですけど……」
あからさまに褒められて、大喜びされたような様子に、龍之介はちょっと照れたように、頬を赤らめていた。
『ヘイ、ジョーダン。お前だったら、1日中習っても、絶対に、あんな技は無理だよ』
今の余興を見て、かなりエンジョイしているセスが、ジョーダンに向かってその言葉を投げる。
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