その11-01
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『よう。丁度いい時間だったな』
なぜかは知らないが、夕食の時間になると、必ずと言っていいほど、ジョーダンがセスの家にやって来ていた。
アイラ達がアリゾナに着いて以来、一緒に夕食をしなかった日はないというほど、ジョーダンは必ず夕食の席を共にしていた。
『お前、またタダ食いしに来たな。さっさと帰れ』
『なんで? 今、来たばっかりじゃねー』
『さっさと帰れ』
『いいじゃんかよ。キャサリンもたくさん作ってるから、全然、気にしてない、って言ってたぜ』
『ワイロを送ったな。なんとセコイ奴だ』
『なにを言うか。俺のこの魅力が、女性を引きつけて止まないだけじゃないか。僻むなよな』
『なにを。毎日、犬や猫の相手ばっかりしてるから、口説きのマナーも、錆ついてるくせに』
『うるせー』
友人というか親友なのだろう。
いつも軽口を叩き合っているセスとジョーダンだったが、ジョーダンはさっさと皿を取り上げて、テーブルの真ん中に乗せられている料理を勝手に取り始めている。
『アイラ、レン、リュウチャン、よう』
そして、そこにいる龍之介達に、気軽に挨拶することも忘れない。
龍之介は素直だから、すぐにテーブル越しから、ペコッと、頭を下げていた。
『君さ、よく食うなぁ。まあ、その体だったら、もっと食べても、まだまだいけそうだけどな』
『ジロジロ見ないでよ』
『見てない、見てない』
山盛りになっているアイラの皿を見て、ジョーダンは自分の料理を食べ始めているが、微妙に感心しているのか、少々引きつっているのか――そんな顔をしていた。
食事中は他愛無い会話が出され、通訳をそのまま受けている龍之介も会話に混じり、楽しい一家団欒がなされていた。
『なあ、サムライボーイなんだろ? 俺にも、サムライの技を教えてくれないかな?』
「ジョーダンさんに、ですか?」
ジョーダンは、セス同様に日本語を話せはしないし、理解もできなかったが、龍之介の“ジョーダンさん”という呼び方は、とても気に入っていた。
セスの簡潔な説明からでも、丁寧な日本の呼び方なのだと聞いて、ジョーダンはからかい半分で、セスにも、
『セスさん』
と呼んでやっている。
セスも龍之介の呼び方は気に入ってるらしく、ジョーダンがからかっても、本人も笑っていただけだった。
『そう。俺にも、サムライの技を教えてくれよ』
「はあ……。でも――あれは、別に、サムライの技でもなんでもないし」
『そうか? でも、日本からやってきたサムライボーイだろう? 一つでもいいから、俺にもその技を教えてくれよ。――あの、投げ飛ばしたやつがいいな。あれ、ジュードーって、言うやつか?』
「そうです」
『だったら、あれ、俺にも教えてくれいかなぁ。俺も、一度は、サムライの技をやってみたいんだ』
「はぁ……、でも、あれは、ただ単に柔道で、サムライでもなんでもないんですけど」
アリゾナにいる外人にサムライの定義を教えても、その違いが判らないだろうに、龍之介も変なところで、“サムライ”と“柔道”の定義にこだわりをもっている男だった。
「いいじゃない、龍ちゃん。龍ちゃんは腕が立つんだから、技の一つや二つ教えてやればいいのよ。アメリカに来て柔道を教えました、って広めたら、いいかもよ。いい経験じゃない」
確かに、それはおもしろいかもしれないと、龍之介も晩ご飯を食べながら、そんなことを考えてしまった。
それからキャサリンさん特製のデザートまで出てきて(なんだか、毎回、きちんとデザートが出される感じだったが)、もちろんのこと、アイラはデザートまでも山盛りで、大喜びで、今夜のデザートの、パイナップルアップサイドダウンケーキを食べていた。
しっかり分厚くスライスしたケーキに、クリームまで皿の横に並べているのである。
龍之介は甘いものが嫌いではなかったが、食後すぐのデザートは、やはり慣れていないらしく、ほんのちょびっともらっただけで、クリームも遠慮していた。
廉は、ほとんど、デザートに手をつけたことがない。
本人も、甘いものは食べれるが特別興味がない、ということなのである。
まあ、廉が食べない分、アイラが廉の分をきれいに片付けているので、残りものも少ないのだったが。
『なあ、お前のイトコ、すごい量、食べるんじゃないのか? それで、あの体なんて、現代の女性の恨みを買いまくってるよなぁ。神様も、ヒイキだらけじゃないか』
ジョーダンが、あまりにしつこく龍之介に柔道の技を伝授してくれ――と、うるさいので、食事を終えた一行は、投げ飛ばしても痛くないように、軽く牧草が積まれている馬小屋の後ろに向かうことになった。
『別に。アイラだって普通の女だし、食べた分は身につくし、食べ過ぎたら、それで、体重だって増えるだろ』
『それで、あの体なのか?』
『ジロジロ見るな』
『だって、目に入っちゃうんだもの』
『ジロジロ見るな』
『なんだよ、それくらいいいじゃんか。大した娯楽がない町に、美人で、おまけに、あんないい体の女がやってきたんだから』
『ジロジロ見るな』
セスが大真面目に、キッと、ジョーダンを睨み付け、その瞳を本気に強く輝かせていく。
『お前、アイラに手出すなよ』
『なんだよ。アイラの兄貴だけじゃなくて、お前もかよ』
『アイラは、俺達の妹同様で育ってるんだ。アイラに手出すよな』
『なんだよ……、マジでお前もかよ』
ゲロゲロ……と、ジョーダンはうんざり気味。
ジョーダンには妹はいなかったが、男兄弟の姉妹という存在がどんなものかは、特別、想像しなくても、あまりに理解し過ぎているものである。
周囲でもよく見慣れたものであるし、国柄の風習がそうさせているのか、兄弟の中にいる姉妹の立場は、どれも似たりよったりなのである。
『だったら、あの男はどうするんだよ』
『あいつは――アイラの友達だし』
『それ、本気で言ってるのか? 全然、友達になんか見えないじゃん。リュウチャンと、全然、違うじゃないか』
『まあ、あいつは――よく判らないから、アイラが友達って言ってるなら、そうなんだろ。それに、まだ生かされてるし』
『なんだそれ?』
『複雑な事情があるんだ。お前に説明しても、判らんだろう』
全くよく訳の判らない説明をするセスに、ジョーダンも顔をしかめたままだった。
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