その10-04
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『俺を、あいつらと一緒にするなよな。あいつらは、特別だぜ』
だが、ケードとセスの家に、アイラが遊びに来ている間に寄ってきた男達を、ケードとセスが蹴散らしていたのを、アイラは知らない。
どうも、一族揃って、女の従妹達を過保護にする傾向があるのである。
「じゃあ、他の女のイトコは? アイラだけ、いっつも会ってたんですか? 全員で――えーっと……美花さんもいれて、5人ですよね。他は、男ばっかりだから。でも、みんな離れてるから、会う機会も限られてるかな。この間、全員に会った時は、俺も驚いちゃったくらいだし――」
次から次へと、話すことと質問することが止まらずで、セスは運ばれてきたビールを片手に、龍之介をおもしろそうに見やっている。
『よう。皆で来るなら、俺も呼んでくれればいいのに』
その掛け声で、一斉に、その顔が後ろに向けられた。
軽く手を上げて、爽やかに近寄ってきたのはジョーダンだった。
隣の席から椅子を勝手に取り上げて、呼ばれもしないのに、これまた、勝手に、龍之介達のテーブルに座ってくるのである。
アイラとセスの間に入るようにして、ジョーダンが腰を下ろしていった。
『なんで、俺も呼んでくれないんだ? 俺も暇なのにな』
『確かに、暇人だな。偶然か?』
『いいや。マイクが電話寄越してきてな。セスが美人を連れ歩いてる――っていうんで、見に来たというわけだ』
『へえぇ、私も、随分、人気があること』
ドライにそれを呟いたアイラに、ジョーダンはにこっと笑う。
『そりゃあ、まあな。美人は滅多にこないしさ。見慣れない顔が揃うと、やっぱり、気になるものよ。おまけに、アイラ――だっけ? 君さ、すごい目立つもんな。セスにこんなイトコがいるって知ってたら、俺も、ずっと前からアタックしてたのにな』
出会った時から、アイラを口説いているようなジョーダンだったが、その外見のせいか、その人当たりの良い性格のせいか、どうも嫌いになれない男だった。
ジョーダンの所にも、すぐにさっきのウェートレスがやってきて、ジョーダンの注文を受け取っていく。
その間も、その前身ごろを意味深に振って、アイラの横で、その胸の谷間が覗いていた。
まったくよくやるわ――と、のアイラのぼやきも聞こえないで、鼻歌を歌って、ウェートレスが向こうに消えていく。
それからすぐにまた戻ってきて、今度は、お盆一杯にアイラ達の食事が運ばれてきた。
「うわぁっ……すごい、量だ。さすがアメリカ版は、並じゃない。すげぇ……。――俺なんか、これ全部食えないぜ、きっと。すげぇ、山盛りじゃん。さすがアメリカ……!」
「龍ちゃんなら、大丈夫よ。日本男児なんでしょう? しっかり食べきりなさいよ」
「ええ? 無理だよ、きっと。俺も、こんな山盛りを挑戦するのは、始めてだぜ」
フォークとナイフを取り出しながら、手前にある、こんもりと盛られたフライドポテトの山に、どでかいバーガーのパンに、これまた大きなステーキがはさまれていて、凝った盛り付けではない分、余計に、その迫力に負けてしまいそうになっている龍之介だった。
それから、「いただきますっ」 と、気合いを入れて、自分のサンドイッチを食べ始めていく。
柔らかいステーキというのでもないので、ナイフで切り込むのも一苦労である。
よいしょっと、一生懸命ステーキを切り込んでいる龍之介は、パンとステーキが一緒にならず、本当に一人で一苦労してたのだった。
* * *
一同がご飯も食べ終えた頃には、ポツポツと、入り始めていた客で、パブはかなり賑わい出していた。
カウボーイの格好をした、少し年のいったバンドが店の端で演奏していて、キッチンを挟んだ反対側には、ビリヤードの台が2台置かれていた。
食事を終えて、空いていたビリヤードの1台の方に移った全員は、数回、挑戦した経験のある龍之介がトライしてみるというので、セスと龍之介がゲームをしている。
アイラは丸椅子を引っ張ってきてそこに座り、その隣に、壁に寄りかかるように廉が立っていた。
向こうで、ジョーダンがウェートレスと冗談を言い合っている。
「さっき、連絡が来たよ」
「それで?」
「まだ、GPSが動いている気配があるらしい。ベガスを離れて、移動し出したんだろう、と言っていたが」
「なんで捕まえないのよ」
「あっちのギャングのことがあるから、ギャングがいない所で、捕獲するらしいけど」
「それで、ケードの方は?」
「それは、簡単に判ったらしい。ケードが引き受けた依頼人が、強盗・殺人罪で捕まっている。強盗は認めているらしいが、殺人罪は認めていないそうだ。その凶器に使用されたのが――」
「あの拳銃だ、ってこと」
「そう。それで、警察では、ケードの依頼人がギャングと繋がっているとみて、その人物を拘束したまま、仮釈放もまださせてもらえないらしい。ケードは仮釈放を要請して、さっさと裁判に持ち込みたいんだろうと、彼は言っていたけどね」
「なんで、ケードもそんな奴を弁護するのか、気が知れたものじゃないわ」
「さあ、それは俺にはなんとも。でも、ケードが言っていた殺人事件は、ベガスじゃなくて、ロスかららしい」
「へえ。どんな経由で、ベガスに流れてきたのかは知らないけど、あの男との繋がりが判らない限り、先にギャングに連れて行かれる可能性が大だわ」
「あの男も追われてる――って、言ってなかったか?」
「そうね。それで、私を盾に逃げ出そうなんてね。百年早いのよ」
「まだ、怪我が治ってないから、もう家に戻ったら?」
「家にいたって暇なだけじゃない。龍ちゃんは、馬に触れて、牛に触れて、大喜びだろうけど――」
『よう、セス。俺もゲームに混ぜろよ』
いきなり、アイラの横に男が立ってきて、その腕を馴れ馴れしく、アイラの肩に回してきた男がいる。
アイラは冷たい目でその男の腕を見下ろし、そして、横を見上げていくようにする。
『気安く触らないでよ』
『おい、セス。俺にもゲームさせろよ。1ゲームくらいいいだろうが』
まだアイラの肩に腕を回して、反対の手でビールを持ってる男が、ビールのビンを振り回している。
ビリヤードのキューを構えかけていたセスが体を起こし、アイラの横の男を静かに見返す。
『リック、気安く触るなよ』
『なんだ? セス、いいじゃんかよ。俺にだってシェアさせろよな。見たことない顔じゃないか。誰だ、これ?』
それを話しながら、男がその目をわざとアイラの体の方に向けて、嫌らしくアイラの胸を、じぃっと、観察していく。
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