その10-03
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『私と一緒にいる所を見られたら、セスの評判が下がるかしらねん』
仲良さそうに腕を組んで、セスと歩いているアイラがそれを言った。
『アイラのおかげで、俺の評判が上がったかな』
『そう?』
アリゾナなどと、かなりの僻地に追いやられてしまったアイラは、暇人なだけに、一生懸命、働いている龍之介とは違って、セスに、毎回、文句を言っていた。
『セスぅ、退屈なの。どっか連れてって。ねえ、どっか行こうよ。ここで一日中篭ってたら、退屈で死にそうぅ』
広大な敷地の牧場を経営しているセスは、アイラと違って、いつでもどこでも忙しいのである。
セスは馬の飼育もしているので、そのトレーニングにも精を出していて、夕方近くになるまで、セスはほとんど外に出っ放しなのである。
普段から外に出ているセスはその年齢に反して、目尻に薄っすらとシワが上がっている。
日に染まり色落ちした、本来なら栗毛の髪の毛は、そよ風になびいて、きらきらとオレンジ色がかって光を反射していた。
ケードは父親のダークっぽい容姿を受け継いで、黒髪に琥珀の瞳を持っていた。
セスはアイラの祖母方の血を受け継いでいるせいか、薄い赤毛にも見えないでは明るい栗毛に、薄茶色の瞳を持っていた。
アイラがあまりにうるさいので、セスは仕方なく、アイラと龍之介と廉を、地元のパブに連れて来たのだった。
ただビールを飲んで、時間を潰す程度の場所だが、仕事を終えて帰って来たセスは、映画に行く気分でもなかったので、パブで軽い食事も取る予定だった。
「やっぱり、カウボーイが多いんだなぁ……」
『テキサスじゃないけど、牧場就業者とかも多いから。それで、格好もカウボーイに近いだろうな。でも、あそこにいるのとかは、帽子程度で、本物のカウボーイの格好でもない。皮のブーツでもないし』
「へえぇ、そうなんだ……。でも、見てるだけで、カウボーイに会ってる気分になってくるな」
パブの中で、空いているテーブルを見つけて、4人が椅子を引いて席についた。
すぐに向こうから、そそと、ウェートレスがやってくる。
短いショートカットをして、ピッタリとしたTシャツに、ピッタリのジーンズをはいて、お盆を片手にやってくる。
そして、かなり前開きしたその前身ごろをセスの方に寄せて、テーブルで少し屈みこんだ。
『セス~、いらっしゃい。今夜は、食事もなの?』
『そう。俺は、ステーキサンドイッチとラガー』
『了解』
それで、そのウェートレスが、スッと、アイラの方にも視線を送る。
『何あるの?』
『クラブサンドイッチ、チキンサンドイッチ、ステーキにフライズ(フライドポテトの略)、朝食メニューの目玉焼きもできるわよ。ダブルバーガー。まあ、色々ね』
へえと、アイラはそれをペラペラと龍之介に通訳していって、
「龍ちゃん、何食べたい?」
「そうだなぁ……、アイラは何にするんだ」
「私は、ステーキとフライズよ」
「フライズって――フライドポテトのことだろ?」
「そうね」
「だったら、俺は――うーん……どうしようかな。どれがいいと思う?」
「だったら、セスと同じで、ステーキサンドイッチにしなさいよ」
「じゃあ、それな」
『ステーキとフライズに、ステーキサンドイッチ。飲み物はレモネードと、バドワイザー』
サラサラと、伝票にアイラの注文を書き込んでいって、そのウェートレスが廉にも首を振ってみせた。
『俺も、ステーキサンドイッチ。飲み物は、バドワイザーで』
『了解~。それじゃあん』
ウェートレスが、クルリと、向きを変えて、キッチンの方に戻っていった。
『どこにいても、お盛んじゃないの』
『なにが?』
『あのウェートレス、胸まで見せびらかして、セスに媚売ってるじゃない。おまけに、やる気満々だし』
セスはちょっと笑ってみせ、
『ジョーは悪くはないけどね』
『やる気満々――って言うのが、気に食わないわね』
『アイラは、すぐにケチをつけたがるからな。ここはローカルのパブだから、町の人間じゃないのが来るのは、珍しいだけだ。アイラは目立つし』
『それ、褒めてんの? それとも、貶してるの』
『なんで貶すんだ? 褒めてるのに、決まってるだろ』
『セスは、相変わらず口だけは、上手いわよねぇ』
『俺の口だけが、スムーズじゃないんだぜ』
『そうかしら』
アイラのからかうような瞳を見返しながら、セスはちょっと笑って、グイッと、その顔をテーブル越しでアイラに近づけた。
そして、アイラの髪をチョンと引っ張っていく。
『アイラ、一体、何に首突っ込んでるんだ?』
『そんなのは、ケードに調べさせておけばいいのよ。どうせ、ケードがいない間、私のお守りをさせられてるんでしょうが』
『まっ、アイラの体に銃で撃たれた跡がある――っていうのは、俺も黙って見過ごしてられないし』
『セスは、お守りだけしてればいいのよ』
アイラは、つんと、セスの鼻をちょっと突くようにした。
セスは、まだ、アイラの髪の毛を掴んだまま、困ったように顔をしかめている。
「――アイラもセスさんも、仲いいんだな……」
廉の通訳を聞きながら(廉が、部分、部分を省いているのではあったが)、ポソッと、龍之介が廉に耳打ちするようにした。
『何て言ったんだ?』
『セスと私が仲いい、ってね』
『ああ。まあ、アイラは、昔から、よく家に泊まっていったしな。他の女の従妹達よりは、妹――みたいなもんかな』
『セスは、いっつも、私に優しいもんねぇ』
「へえ、そうなんだ。だったら、セスさんも、カイリさんみたいに、アイラに過保護なんですか? マレーシアにいる時は、全然、喋る機会もなかったような。あんまり、一緒になりませんでしたよね。パーティーで会った程度で、後はあんまり見かけなかったし。どこか、出かけてたんですか?」
龍之介のお得意の弾丸攻撃が始まって、親切なことに、廉が一つ一つを全部通訳するので、それを聞き終わったセスは、目をクルクルとさせて、龍之介を見返している。
『俺を、あいつらと一緒にするなよな。あいつらは、特別だぜ』
だが、ケードとセスの家に、アイラが遊びに来ている間に寄ってきた男達を、ケードとセスが蹴散らしていたのを、アイラは知らない。
どうも、一族揃って、女の従妹達を過保護にする傾向があるのである。
「じゃあ、他の女のイトコは? アイラだけ、いっつも会ってたんですか? 全員で――えーっと……美花さんもいれて、5人ですよね。他は、男ばっかりだから。でも、みんな離れてるから、会う機会も限られてるかな。この間、全員に会った時は、俺も驚いちゃったくらいだし――」
次から次へと、話すことと質問することが止まらずで、セスは運ばれてきたビールを片手に、龍之介をおもしろそうに見やっている。
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