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やっぱりやらねば  作者: Anastasia
Part3-アメリカ編
197/215

その10-02

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『そうです。学校です』

『日本の学校?』

『そうです。俺は――』


 獣医になるんです、と説明したかったのだが、“獣医”という単語を知らず、一瞬、龍之介はその場で真剣に考えてしまった。


 セスも龍之介を急かさず、龍之介が喋り出すのを待っている。


『えーっと――俺は、アニマルドクターです』


 動物のお医者さんです――と答えるのが、一番、無難だろうと考えた龍之介は、それを言っていた。


『アニマルドクター?』

『はい』


 素直に頷く龍之介に、セスの反応が、一瞬、止まっていた。


 それで、何かを言いかけて、それを口には出さずに、龍之介を、じぃっと、見やったまま、何かを考えているようなのだ。


 その反応を見て、もしかして間違った単語を使ったかなぁ……と、心配になってきた龍之介は、それでも次の言葉が簡単には出てこない。


『――アニマルドクター? 君が?』

『ああ……そうです』


『ドクターなのか?』

『あっ――そうじゃなくて、勉強しています』


『アニマルドクターの勉強?』

『そうです』


『カレッジに行ってるのか?』

「カレッジ?」


 龍之介が、また、不思議そうな顔をするので、セスはちょっと指を立ててみて、

『学校だろ? 中学校。それから、高校。そして、高校の後』

『ああ――大学……、ですか?』


『そう。University』

『そうです』


『君が?』

『そうです』


 またも素直に頷く龍之介に、セスは、なんだか感心めいた表情を見せて、はあ……と、溜め息をついていた。


 その反応の意味が判らず、龍之介は、ポカンと、セスを見やっている。


『アニマルドクターの勉強してるのか……』

『そうです』


『じゃあ、将来は、アニマルドクターになるのか?』

『そうです』


『そうか……。――そいつは、すごい』


 またもセスが、ふう……と、そんな意味の判らない息を吐き出していた。


『あの――レンも、アニマルドクターなのか?』

『違います。俺――だけ、です』

『そうか――』


 何に納得しているのかは、全く龍之介の理解の域を超えていた。


 それで、不思議そうにセスを見返している龍之介の顔を見て、セスがちょっと笑ってみせた。


『じゃあ、未来のアニマルドクターに、手を貸してもらおうかな』

『手を貸す?』


『そう。手伝ってくれるのか?』


 パッと、龍之介の顔が輝いて、

『はいっ』


 その素直な反応を見て、セスも笑いながら、

『そうか。まだまだ、たくさん馬がいるから』


『馬も――大好きです』

『それはいいことだ』


 さあ、とセスに促されて、龍之介は朝食前の軽い運動の場で、夢にも思ってみなかった馬の世話をする機会に恵まれて、朝から大喜びだったのだ。





 セスと龍之介が家に戻ってくる頃には、ダイニングテーブルで、ちゃっかり朝ご飯を食べ始めているアイラと廉が、テーブルに揃っていた。


『お前、働きもせずに、ちゃっかり、朝食食べ始めてるなんて、いい度胸だな、アイラ』

『あらぁ、だって、まだ傷が痛むし』


 アイラは澄ました顔で、全く悪気がない。


『お前の友人は、朝早くから、手伝いしてるだろ?』

『あら、そうなの? 龍ちゃんは力持ちだから、役に立つでしょう』


『ああ、そうだな。おまけに――そっちの友人も、ちゃっかり座ってるようだし』


 セスの視線が廉に向けられて、廉はコーヒーをすすりながら、

『俺は、アイラの世話をしなくてはいけないので』


 などと、飄々としてそんなことを抜かす。


 それで、セスの口元が皮肉げに上がり、セスは、ドカッと、椅子を引いてそこに腰をおろし出した。


『お早う、キャサリン』

『お早うございます。いつものかしら?』


『ああ、頼むよ。こっちのアイラの友達の分もね』

『わかりましたよ』


「龍ちゃん、ご飯すぐ用意してくれるって」

「そうなのか? そんな急がなくていいのにな」


 龍之介も、一応、椅子を引いて、その場に腰を下ろしていく。


「牧場の手伝いしてたの? 朝から、よくやるわねぇ」

「馬の世話をさせてもらったんだ。ブラシとかかけて、ご飯あげたり」


「ああ、そう。よくやることで」

「ええ? でも、俺は感激だぜぃ。あんなたくさんの馬に触ったことなんかないんだから」


『通訳しろよ』


 自分のコーヒーをついだセスが、カップを持ちながら、廉にそれを振ってみせた。


 それで、廉が、今までの龍之介の会話を通訳する。


 それを聞き終えて、セスが龍之介の方を向いた。


『朝食終えたら、牛の世話もあるけど、牛は嫌か?』

「嫌じゃありません」


『でも、重労働だぜ』

「ええ? そんなの関係ありませんよ。全然、問題じゃありません」


『そうか。だったら、俺と一緒にくるか?』

「えっ? ――行ってもいいんですか? 行きますっ。俺も行きます」


 龍之介は興奮して、その顔が嬉しさで溶けそうだった。


 その様子がおかしくて、セスもコーヒーを飲みながら笑っている。


『アイラの友達は、随分、働き者なんだな。素直だし。――そこの怠け者二人組みは、どうするんだ?』

『ええ? だって、傷が開いちゃうもの』


『俺は、アイラのお目付け役なんで』


 さらりと交わして、全く働く様子がない二人をちょっと睨め付けながら、セスは龍之介に向いて、

『この二人は、怠け者だな。あんたも大変だろう?』


「え? ――そんなことは――ないですけど。俺は動物が好きだから。体動かすのも平気だし。アイラは――食中毒だから。それに、廉はアイラの面倒をみてるし」


『アイラの食中毒は、もう、とっくの昔に治ってるようだがな。――こいつが、アイラの面倒みてるのか?』


 その最後の部分だけを通訳しない廉に、セスが、もう一回、どつくようにする。


『おい、通訳』


 それで、廉がそれを通訳する。


「――そうですけど。廉はアイラと一緒だから」


 へえと、セスはそんな相槌をいていた。


「龍ちゃん、朝ご飯よ。しっかり食べて、力つけなさいよ。――牧場の仕事なんて、しなくたっていいのにね」


「なんでだ? こんな機会なんて、滅多にないだろう? アメリカに来て、牧場の世話するんだぜ。なんだか、本場の仕事をする感じじゃないか?」


「アメリカまで来て、牧場の世話する方がおかしいじゃない」

「そんなことないぜ。俺は、アメリカの牧場に来るのは、初めてだから」


 龍之介とでは会話にならないので、アイラは、うんざり、といった顔をして、自分の朝食を片付けていた。





読んでいただきありがとうございました。

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