その9-02
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『そうねぇ。動物、大好きなのよねぇ。馬に乗れて、大喜びしてるようだし。でもねぇ――取り引きするには、まだ足りないわよねぇ、ケード』
昨日一杯で嗅ぎ回ったんだろうが、出所はどうしたと言うのだ。
その情報源よ、情報源。わかる?
知り合いがいようが、アイラを尾け回していたのは、PI(私立探偵)だ。
わざわざ、そんなのにお金まで払ってやるんだから、ケードの掴んでいる情報が、この程度のモノじゃないのは明らかだ。
「――そう言えば、ベガスには、仕事のついでに遊びに来てる――とか、言ってなかった? 赤毛はついでで、ちょっとした暇つぶしよねぇ。セスも言ってるけど、仕事の鬼のオニイサマ、でしょう? 私を捕まえる前にも、仕事してたくらいだし』
『俺が?』
『そう。仕事着は、脱いでこなくちゃねぇ、ケード』
『ああ、なるほど』
『だったら、その手持ちのカードを見せる気になったら、私も話す気になるかしらねぇ。――まあ、でも身内のサービスで、ある程度の情報はもらえたから、私も一つくらいは返さないとダメかしらね。一つ言っておくけど、私のは別件よ。身内だから、大サービスしたこと、忘れるんじゃないわよ、ケード』
それを念押すことも忘れず、そこで、簡単にすっぱりと、話を締めくくってしまったアイラとの会話は、プッツリと切れてしまった。
だが、アイラの事情の話が明かされた――ということも全くない。
『やるなぁ、お嬢さん。セスの兄貴は口から生まれた、って話なのに』
アイラはその視線だけを動かして、斜めにジョーダンを見上げるようにした。
だが、その暗黙の瞳だけで、「余計な口を出すな」と、はっきりとジョーダンに言いつけているのである。
言葉も出さずに、その目だけで、ジョーダンを威圧しているのである。
一瞬、ジョーダンが唖然としたような顔をして、アイラを見返す。
『アイラを知らないんだから、口出しするのはやめた方がいい』
その場で静かな声が入ってきて、ジョーダンが横を向くと、廉が静かに立ち上がる所だった。
そのままアイラが座っている椅子の前に行き、廉がその腕を差し出した。
『アイラ』
アイラはその腕を取り、ゆっくりと起こされて、立ち上がっていく。
『さすが、アイラだ』
『まだ、足りないわよ』
『でも、ある程度でも、十分だ』
アイラは満足している様子ではなかったが、廉はそのアイラの肩をそっと押して、歩き出した。
『ここを出て、どこに行くんだ? 行く場所も、あるとは思えないがな』
『そうねぇ。こんな辺鄙な場所に連れてきて、ホント、やってくれるわ、全く。でも、外の空気が吸いたいのよねぇ。だって、空気がすがすがしいでしょう、ここは』
そう言って、アイラと廉はゆっくりと居間を横切っていき、横のドアから外に姿を消して行った。
『――あのお嬢さん、一体、何者だ? 大したお嬢さんを連れて来たことで』
『俺らの従妹』
『イトコ? ――へえぇ、そいつはすごい』
アイラ達が出て行った方向を見やりながら、ジョーダンは、かなり感心している様子だった。
『その発砲事件の話は、嘘じゃないのか?』
椅子に座っているセスが、ケードに聞き返してきた。
『現に、アイラの体に撃たれ傷だ』
『へえ。だったら、その魚の餌がどうのも、嘘じゃないんだ』
『魚もよく肥えたことで』
『へえ。あの程度の情報はやっても良かったんだろうが、見返りが全然ないじゃん。ホント、残念だったねぇ、オニイサマ』
ケードは少しだけ口を歪めるようにして、
『あの程度の情報は、大したモノじゃない。あれを聞いて、少しは自分の立場を自覚すればいい。アリゾナにいることも、少しの牽制になるだろうさ』
『それ、負け惜しみ?』
『お前な』
嫌そうにケードがセスを睨め付けていた。
『アイラが、“金髪の赤いドレスを着た女”だっていう確証は、どれだけあるんだ?』
『さあな。俺はアイラを見知ってるから、すぐに気付いたが』
ふうんと、そんな適当な相槌を返すセスは、椅子の前の長いテーブルに足を乗っけるようにして、後ろに寄りかかって行った。
『それで? カイリに通告するわけ?』
『さあな』
『やっぱり、仕事絡み、か。アイラに用があるのか? それとも、拳銃撃った方? ――まあ、拳銃撃った方が、仕事っぽいけど』
『さあな』
『だったら、当分は、カイリには内緒ってことだな。へえ』
『その、カイリ、って誰だ?』
『アイラの兄貴』
『そう。だから、アイラに手を出すなよ』
アイラの個人的なことさえ聞き出していないのに、先に忠告されて、ジョーダンはちょっと不服げな顔をしてみせた。
『なんで?』
『お前の為を思って、言ってやってるんだ。アイラはな、カイリの大事な妹なんだ。手を出したら、すぐに殺されてるぜ』
『それ、マジ?』
『マジもなにも、あの兄弟は、一族でも有名だからな』
『そうそう』
『だったら、あの澄ました男は?』
それで、ケードとセスが互いに顔を見合わせる。
『なに?』
ジョーダンが不思議そうに二人を見やっている。
『あいつは――』
『――ただの友達』
『ただの友達になんか、全然、見えないだろうが』
それは判っているのだが、ケードとセスは、また、互いに顔を見合っている。
『なに?』
『いや――』
『――ただの友達、って言う話だし』
『あの3人は、以前も一緒だったからな』
『そう』
『だったら、毎回、ああやって行動してるのか? ――それで、意味不明な、危険なこともしてるって?』
『さあな』
『アイラの行動は、時々、不可解だから』
『なんだよ、それは』
文句を言うジョーダンだったが、アイラと廉との関係は、どうも、あやふやなまま、一族内に残されている話題なのであった。
真っ向から、カイリ達の嫌がらせを受けて、生き延びてきた男はいないだろうから、生き延びているあの廉がいる事実を考慮すると、いじめられていないことになる。
だから、ただの友達扱い――で済まされているのだろうが――
まあ、ただの友達には見えないが、だからと言って、熱々のカップル――とも、見えない二人の間柄は、身内のケードやセスにも、良く事情が判らないものだったのだ。
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