その9-01
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アイラはそれを予測しているので、特別、驚いた様子もなく、指についたアイシングをゆっくりと舐め終えて、手前のジュースにも手を伸ばす。
『ケード、田舎嫌いのあんたが、なんでこんな所まで来たのかしらね。随分、大袈裟だこと』
『さあな。なんで、旅行中のお前が、ベガスでうろつきまわって、撃たれる羽目になるんだろうな』
『さあね。まあ、アンラッキーだったわね』
『おまけに、俺に捕まって』
『そうね。偶然とは言え、あのまま、あの赤毛の足長と、消えてれば良かったのに』
『足長? 赤毛の足長?』
セスが不思議そうに聞き返す。
『赤毛の足長の女よ』
ああそう、と納得するセスに、アイラはまだケードにその目を向けて、わざとらしく首を倒してみせるようにした。
『せっかくのデートだったのに、台無しよねぇ』
『まあ、次のを引っ掛ければいいだけだし。女には、不自由してないもので』
『大体、話にならないんだから、こんなことしたって、無駄でしょう?』
『そうかな? 俺も本気を出して、アイラ、お前とやり合ってもいいんだけどな』
『へえぇ。誘導訊問? ――じゃあ、やってみせてよ。お手並み拝見と行こうかしら』
あからさまに挑戦されて、ケードに不敵な笑みが浮かんでいく。
『あの僕ちゃんと旅行か?』
『そうね』
『それは優雅なことで。いつ来たんだ』
『ちょっと前かしら』
『ふうん。それで、ベガスに直行か? 嘘ついてもお前のパスポートくらい、すぐにチェックできるしな』
『そうね。ベガスに行ったのも、ちょっと前よ』
『どれくらいだ?』
『さあ。昨日だったかしらねぇ。それとも、二日前だったかしらねぇ』
『へえ、金曜からチャックインしてるっていう記録があるけど、違うやつなんだ。へえ』
アイラは、ただ薄っすらと、口元を上げているだけである。
『俺と会ったのは、土曜の夜だったな』
『そうね』
『あの僕ちゃんは、見かけなかったようだが?』
『そう? 一緒にいたわよ』
『ついでに、こっちの友人も、いなかったような』
『そう? 一緒にいたわよ』
『へえ。でも、お前は、男を引っ掛けるのに夢中だったようだがな』
『そうねぇ』
『あんなオヤジをねぇ』
『そうね。趣向変え――ってトコかしら』
『へえ、それは知らなかった。あのオヤジと消えて、その後はお楽しみか? 若い女だったら、まあ、さぞ、あのオヤジも満喫したことだろうに』
『ピチピチだから』
『まあ、お前のその体だったら、あのオヤジも昇天したことだろうぜ。お前は、しつこそうだからな。あのオヤジが死ぬまで、しゃぶりついてたとか、な』
『下品ね。そういうトコ、恥ずかしげもなく断言できるって、さすがよねぇ』
『それは、どうも。何回やったんだ?』
『さあ。知らないことなんだから、勝手に想像してれば? でも、赤毛とやりそこなったの? そりゃあ、若い私のSexライフも気になるでしょうね。それとも、仕事し過ぎで、欲求不満? ちゃんと勃つの?』
ケードに負けずに、淡々と、薄笑いを浮かべながら攻撃をしかけくるアイラは、全く恥ずかしさの欠片も見せない。
あからさまに不能扱いされて、セスとジョーダンの視線が、ちろりと、ケードの方に向けられていた。
ケードは腕を組んで、後ろの棚に寄りかかりながら、口元だけが薄く笑っていた。
だが、その瞳がアイラを捕らえたまま、アイラを外さない。
『ケード、私のこと知らないんだから、口出すのやめなさいよ』
あっさりと、気負いもなく言われた言葉だったが、その意味が、はっきりきっぱりと、ケードに向かって、口出すな、と警告していた。
アイラの薄笑いした口元だけが上がり、その瞳が、恍惚としたように強く輝き出していく。
『ケード、脅そうにも揃ってる駒がないうちは、ただのハッタリしかならないのよ。それで、私とやり合おうなんてね。情報交換して欲しいなら、それだけのものを見せなさいよ。――それとも、私の弱味を見つけてから、もう一度やり直すのね』
『そうかな? あのホテルの裏口で発砲事件が起きたらしいが、その時の目撃者の証言じゃ、金髪の赤いドレスを着た女が現場にいたらしいし。警察も、その女を、まず、第一の容疑者として探し回っているようだが?』
『へえ、そう。発砲事件って、危ないわよねぇ。さすが、アメリカ』
『現場に落ちていた血痕を比べれば、すぐに、誰だか判明するだろうに』
『そうね。DNA鑑定も簡単だし、今の時代は』
『そうそう。だから、サンプルを送りつけたら、話は聞きたいだろうなぁ。ベガス警察とて』
そう言いながら、スッと、ケードが何かの袋を掲げて見せるようにした。
ジッパー式のビニール袋で、その中に、血がついた綿花が何個か入っていた。
それを見ていたアイラが、おもしろそうに首を倒してみせる。
『ああ、証拠ね、証拠』
『そう。証拠な、証拠。それから――お前のために、一言、忠告しておいてやるが、発見された弾痕の検査結果から、どうやら、その銃弾は、以前にも使用された銃のものだ、というのが断定したらしい』
『へえ、事件ねぇ』
『そう、事件だな。それも、一人は海の下で魚の餌になって。一人はアパートで燃え尽きてたらしいし。なんだろうなぁ。俺には、素人の手口には思えないんだが、俺の気のせいか?』
その口調から、玄人の仕業だと言い切っているのが明らかだった。
だが、その残虐な仕打ちからしてみても、ギャングが関わってるのは間違いない――とも、示唆しているかのようだった。
『さあ。私は、犯罪に詳しい弁護士さんじゃないしぃ。怖いのねぇ』
『本当に。それで――お前の友達を巻き添えにするのか、アイラ? そいつは、随分、冷たいんだなぁ』
『そうかなぁ? 観光が終われば、そのまま帰るだけだしね』
『あのまま残ってたら、遅かれ早かれ、見つけられただろうしなぁ』
『うーん、そうよね。世間は広いって言うけど、結構、狭いし』
『そうだな。何を見つければいいのか判れば、探し出すことも難しいものじゃないしな。――俺も見つけたし』
『そうよね。でもまあ、ベガスのホテルを調べれば、すぐに分かることだし』
『そうだな。偽名を使用してなかったのが、落ち度だったよな。バレバレだ』
『そうね。でも、私の名前だけだし』
薄っすらと笑っているケードの表情も崩れない。
『カードの詳細も――ないわよねぇ。残念ね。勘でベガスを張らせたんでしょうけど、それも、まあ、まぐれ当たり――かしら? 良かったわねぇ、見失う前に、見つけれたみたいで』
『そうか、まあ、仕方がない。ベガス警察に突き出したくはないが、あっちも、調べたいことは山ほどあるだろうから。連続殺人事件――扱いなんで、な』
『うわぁ、それは大変。どうしましょう』
全く怖れていないその様子に、ケードは薄く笑って、
『取り引きするなら、今のうちだと思うが? 馬に乗って喜んでる少年を、残念がらすのも悪いだろう? 取調室で拘束されることを考えたら――なあ?』
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