その8-03
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それで椅子に起き上がったアイラは、視界の前に座っている廉を見つけ、キッと、廉をきつく睨み付けた。
「レン、やってくれるじゃない」
「仕方がないだろう? あの時が引き際だ。余計な邪魔も入っただけじゃなく、あっちの邪魔も、アイラを探してるかもしれない」
「だからって、気絶させるとは、最低ね」
「それも、仕方がなかった。君は、すぐ無理しがちだから。だから、誤らないよ」
アイラの剣呑な目が廉を嫌そうに睨み付けているが、廉はそこから動く様子はなかった。
「アイラ、あの時が引き際だ。君も判っているだろう? あのままだと、龍ちゃんとかにも被害がでるかもしれない」
「わかってるわよ。でも、なんでアリゾナなのよ。一体、何時間かかると思ってるの?」
「それは、アイラのあの従兄の人に文句を言うべきだ。龍ちゃんを連れてくる間に、龍ちゃんを丸め込んで、結局、ここに来ることになった。あの弁護士の人、事情を知っているのか知らないのか、どっちだろうな」
「さあね、でも――なんで、ケードもこんな所に連れ込んでくるのよ、あの男っ」
『ちょっと痛いからね』
アイラに無視され続けているジョーダンが、そこに割って入って、ビリッ――と、躊躇なく腰に張られているガーゼを剥し取った。
『いたっ――』
反動で、アイラがつい怯んでしまう。
『――ねえ、それ跡が残るの?』
『そうだねぇ。傷が治れば、少しは薄く引くかもしれないけど』
「最悪だわ。ひとの美肌に傷つけておいて、タダじゃ済まされないわね。最高にムカつくわ」
「でも、あっちには戻れないし、戻らない方が賢明だ」
ふんっと、アイラが軽く鼻で笑い飛ばし、
「それだけが方法だと、思わないことね」
「それは?」
「まず、あの知り合いの探偵に連絡をつけないことには。足取りが消えてないといいけどね―――。まったく」
『はい、終わったよ』
『それは、どうも』
『いいえ、どういたしまして』
アイラはTシャツを下げ、足元にかかっている毛布をさっさとよけて、スッと、その両足を床に下ろして行った。
『ちょっと、セスに報告に行くなら、セスに、お腹空いた、って言ってよ』
椅子から立ち上がったジョーダンは、まじまじと、アイラを見返して、ちょっと、その口元がへの字になっていた。
「アイラ、偉そうだ」
「うるさいわね。今、最高に気分が悪いのよ。ひとに気遣ってなんかいられないわよ」
「遣ったことなんかないだろ?」
「うるさいわね」
アイラはその勢いのまま、また、横のジョーダンを視線だけで見上げるようにする。
『いつまでいるのよ』
『――いや、今行きますけどね――。はあ、大したお嬢さんで――』
追い出される形なのか、ジョーダンはなんとなく顔をしかめながら、さっきセスが出て行った方のドアを開けて行く。
『ああ、そうそう。その傷、まだ乾いてないから、あまり無理をしないように』
それを一応は忠告して、ジョーダンが外に静かに出て行った。
「龍ちゃんは、どこなの?」
「牧場を散歩してるよ。馬に乗せてもらったから、大喜びだけど」
「――ケードめ。龍ちゃんを丸め込むとは、やってくれるわ」
「あの人、やり手?」
「さあね。でも、事務所は困ってないみたいだけど」
「自分の事務所」
「そうよ」
「どこの?」
「ロスよ」
「へえ。それで、弟さんがアリゾナで牧場?」
「あの二人は、好みが全く正反対なのよ。セスは、昔から馬の世話するのが好きだし、牧場の仕事も、全然、嫌じゃないのよね。ケードは都会派だから、馬と牛には程遠いのよ。ここだって、滅多なことがなきゃ寄り付かないわ。大抵は、セスを呼び出す方だから」
「へえ。寄り付かないのに、アイラを連れてここに来たんだ。――どうやら、状況が悪化してるのかも」
「さあね」
「あの人の口を割らせる気なんだ」
「さあね」
「まあ、アイラなら、そうするだろうけど」
「当然じゃない」
ガチャと、さっきとは違ったドアが開いて、そこに、セスがお盆に何かを乗せて居間に戻ってきた。
すぐ後ろをケードが入ってきて、なぜかは知らないが、さっきの獣医だとか言うジョーダンまでも、また一緒に入ってきたのだった。
『ほらよ。食中毒起こしてるくせに、本当に食べるのか?』
『誰に聞いたのよ』
『そこの友人。――本当に食べるのか? 腹壊すぞ』
『いいのよ。出すモンは出し切ったから、お腹空いてるのよ』
『お前……その下品な言葉遣いは、やめろよな』
『うるさいわね。――これ、なに?』
『コーヒーケーキ。キャサリンのお手製だ』
『あっ、そう』
かなり厚めにスライスされているケーキを取り上げて、アイラは、パクっと、一気にかぶりつく。
『おいしいぃ』
さっきまで機嫌の悪さがコロっと変わって、アイラのご満足げな顔が緩んでいく。
呆れたようにそのアイラを見やっているセスは、ドカッと、アイラの隣に腰を下ろすようにした。
『なんで、ここにいるわけ?』
ケーキにかぶりついているアイラの目線が、ジョーダンに向けられている。
『俺は、夕食をご馳走になっていくし。ちゃんと、招待を受けたから』
『お前、手当てしてもらって偉そうだ』
『うるさいわね』
部屋に入ってきたケードは、また棚に寄りかかるようにして、アイラがケーキを食べている間は、全く口を挟まなかった。
その静かな態度が、妙に、次に襲ってきそうな嵐を予兆しているのは言うまでもない。
『食べ終わったんなら、さっさと説明してもらおうか』
アイラのケーキがなくなるや否や、早速、ケードがそれを切り出してきた。
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