その8-02
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それから、すぐに家の所に、カウボーイの格好をした中年の男性が姿を出して、セスの説明を受けて、龍之介の案内をしてくれることになった。
小柄な龍之介に、手取り足取り教えてくれながら、馬の乗り方や構え方を説明して(残念なことながら、英語なのだが)、龍之介も、真剣にその動作を真似しながら、なんとか無事に馬に乗ることができたのだった。
その人懐っこそうなカウボーイに連れられて、龍之介は、生まれて初めて乗馬に挑戦したのである。
龍之介がいなくなった居間で、廉はセスとケードの二人に囲まれて、訊問されるだろうな――との予測どおり、ただでは廉を帰す様子はないのだった。
『さっき、あの僕は、何て言ったんだ?』
『アイラが食中毒で』
『食中毒? アイラが? 冗談なのか?』
『冗談じゃないですよ。それで、ここ2~3日、体調を崩していて』
まさか、食中毒がでてくるとは考えにも入れていなかったせいか、真実味に欠けるのか、信用に欠けるのか、いまいち、その話を信用できないケードだった。
『食中毒? 何を食べてだ?』
『シーフードに当たったようで』
『どこでだ?』
『レストランです』
その淡々とした返答に、ケードが目を細めていく。
『もう片ッぽの連れは、随分、素直そうだったがな』
『そうですね』
『それで、こっちの方は?』
『なんでしょう』
全く廉を丸め込めないでいるケードは、無駄な時間を費やすつもりもなく、うんざり――と言った様子で溜め息をつき、セスを振り返った。
『医者はいないのか?』
『呼びたいの?』
『口うるさくない奴』
『へえぇ。まあ、知り合いだから、そこら辺は、頼めば大丈夫だろうけど』
『それから、アイラをここにつれて来い』
その言いつけに、セスが冷たく首を倒してみせた。
ケードは、さっさと開けていた自分のビールに口につけて飲み干しながら、
『俺の鼻が、どうも、むずがってるんだな。そういう時は、必ず俺の勘も間違ってない。だから、アイラから目を離さない方がいいだろう。――そうだろ?』
『さあ』
ケードに振られても、廉の態度は、淡々と、その返答も変わらないものだった。
その廉を無視して、ケードはビールの缶を振りながら、ほれほれと、弟を追い出すようにする。
シーンと、冷たい顔を向けて、セスはケードを見返していたが、仕方なく椅子から立ち上がっていた。
* * *
ピリピリ――と、何かを剥すような音がする。
ついでに、自分の肌も引っ張られるような感じがして、アイラは、咄嗟に、叫んでいた。
『いたっ――!』
パッ――と、目を開けたアイラの前で、知らない男がアイラの腰に触れているようで、アイラは、パチンっ――と、その男の手を払いのけた。
『いてっ――!』
思いっきり払われて――蹴散らされたような感じにも見受けはしないではないが――男が痛そうにその手をさする。
『アイラ、動くな』
ガバッと、起き上がったアイラの前で――その視界に入ってきた見慣れた姿を見て、アイラは天井を仰いでいたのだった。
『――なんで、アリゾナまでやって来なくちゃいけないのよ。ここに来るまで、一体、何時間かかると思ってるの? 信じられない、なんなのよっ』
『文句は後回しにして、さっさと手当てを済ませるんだな』
壁に並んでいる棚に、少し寄りかかるようにして立っているケードが、端的に言いつける。
アイラは半分起き上がった状態で、サッと、部屋を見渡して、すでにその状況を、全部、把握していた。
セスの家に連れて来られたアイラは、なぜか知らないが、居間の長椅子に寝ていたようで、その横で、丸椅子に腰を下ろしている若い男が。まだアイラを黙って眺めている。
アイラは自分の腰に当てられていた包帯を見下ろして、また、その顔を上げる。
『さっさと手当てを済ませろ』
『大した傷じゃないわ』
『それは、手当てをし終わったら、聞いてやる』
『ということなので、ちょっと大人しくしていてね。俺の専門は。牛とか馬とかが多いんだけど、こんな美人を治療するのは、すごく久しぶりだ』
『私は珍獣だとでも、言いたいわけ』
冷たい口調のアイラに、男は気にした様子もなく、にこっと。笑顔をみせる。
その片方の頬に。えくぼが出ていた。
『出て行ってよ』
『ああ?』
『女の着替えを見たいわけ? 手当てが終わったら。戻ってくればいいでしょう。ひとの裸、見ないでよ』
冷たく言いつけられて、ケードが腕を組みながら、その目をアイラ同様に冷たく輝かせていく。
『お姫様は、相変わらず、注文が多いようだな』
『だったら何だって言うのよ。こんな彼方まで連れ込んでくるとは、やってくれるじゃない、ケード』
『そうか? 旅行――なんだろ? 良かったじゃないか』
『ふざけないでよ。――まあ、ケードの文句は後回しにしても、さっさと出て行ってよ。ジロジロ見ないでよ』
あまりに冷たい、命令口調のアイラに、ケードの顔つきも変わってきて、険悪な雰囲気になりそうなその場で、セスが溜め息をついていた。
それで、仕方なく、ケードの腕を引いて、その場を去っていくようにする。
『触るなよ』
『ケンカは後ですれよ。手当てが終わったら、入ってきてもいいらしいから。ここは俺の家なのに―――』
ぶつぶつと文句を言って、セスがケードの腕を引いて、すぐ近くのドアから外に出て行った。
その二人の背を見送っていた男が、またアイラに向いて、にこっと、笑う。
『じゃあ、始めようか』
『あなた、誰?』
『俺はセスの友人。ジョーダン・マクィーン。よろしく』
『それで、牛と馬の医者?』
『獣医だよ。でも、傷の手当ては、どれも同じだと思うし』
『ああ、そう』
『そうそう。だから、そのシャツを、ちょっとまくってもらおうかな』
アイラは諦めたように、着ているTシャツをめくりながら、きちんと起き上がっていった。
『寝ててもいいんだよ』
『いいのよ』
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