その8-01
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自分の家に向かって、軽快に、大きな4WDが走り込んでくる。
午後の買い物を済ませてきたセスは、ユートの背から、買い物した荷物を取り出しながら、トンっと、身軽に地面に下りていた。
砂利道をガタガタと走ってくるその車は、勢いも止めず、セスのユートの横に車を寄せてきた。
そして、車を止めると、ドアからすぐに一人の男が姿を現した。
『これは、これは。大都会から、わざわざ、こんな田舎までやって来るなんて、本当に珍しい。こんな田舎で暮らすと、脳ミソが腐るんじゃなかったのか?』
揶揄するような口調のセスに、車から下りてきた男――ケードは、セスを振り返り、かけていたサングラスを少し外すようにした。
『脳ミソが腐るだけじゃなくて、俺は、原始時代に戻った気分だ。お前のそのブーツについてるのは、牛のフンじゃないだろうな』
『ただの泥だよ』
『ああ、そうか。それを聞いて安心した』
心底、安心したように胸を撫で下ろすケードに笑いながら、セスは腕を伸ばして、ケードを抱き締める。
『久しぶりじゃん。なんの気まぐれだよ』
『まあ、ちょっとな』
ケードも久しぶりに会う弟の背中を抱いて、少し抱き締め返す。
そのセスの前で、バタン――と、もう一度、車のドアが閉まる音がし、中から出てきた小柄な少年が、そこらを感心したように見渡し出していた。
「うわぁ……、すごい広いんだなぁ……。すごいぃぃ……!」
見覚えのある顔に気がついて、セスがケードから腕を外してみた。
そして、また車のドアが開き、そこから出てきた背の高い青年――も、見覚えのある顔だった。
だが、最後に出てきた方は、また中に戻るようで、少し屈んで、中から何かを引っ張っている。
それを不思議そうに眺めているセスの前で、その青年が、中からアイラを抱き上げて出てきたのだった。
『へえぇ……』
セスが、スッと、横のケードにその鋭い視線を投げる。
『事情の説明は後だな。しばらく、お前んとこで世話になる』
『へえぇ。世話してやってもいいけど、いつまで?』
『さあな。まずは、アイラの口を割らせないことには、話にもならん』
『へえぇ』
意味深な相槌を返して、セスは、もう一度、車の横に立っている青年と、その腕の中のアイラに目を向けた。
『なんで寝てるんだ?』
『起きるとうるさいから、無理矢理、寝むらせている』
『へえぇ。誘拐してきたんだ。それは、それは』
セスは、スッと、動き出して、停まっている車の横に並ぶようにした。
『そのまま家に入っていけばいい。鍵はかかってない。手伝いにきてもらっている人がいるから、その人に、ゲストルームの南部屋を用意するようにと、言えばいい』
『それは、どうも』
廉はアイラを抱き上げたまま、指示通り、家の中に向かって足を進めていく。
「龍ちゃん、中に入るけど、どうする?」
「え? そうなのか? だったら、俺も行く。――すごいな。サッと、見渡しただけでも、向こうが見えないんだぜ。ここら辺一体が、この人の土地なのかなぁ」
「さあ。でも、後で聞いてみればいい」
「そうだな」
龍之介は、嬉しそうに、スキップ並みの駆け足で廉の後ろに駆け寄って行き、廉が中に入って行くのと同じように、龍之介も家の中に進んで行った。
『荷物は?』
『車の中。トランクに、スーツケース』
ふうんと、セスは運転席側からトランクを開け、それで、テキパキと、中に入っているスーツケースを二つ取り出した。
『あれ、アイラの友達じゃん。クリスマスに来てた』
『そう』
『それで、わざわざ、こんな田舎までやって来るんだ』
『そう』
『へえぇ。それは、大層な訳ありのようで』
『さあな』
『おまけに、ケードまでついてくるし』
『なんで、俺がついてくると、問題なんだ?』
『なんで? 仕事の鬼が仕事もしないで、こんな田舎までやって来るんだから、それはそれは、大事だろうぜ』
『別に、田舎って連呼して強調しなくても、いいんだぜ。言われなくても、田舎にいることくらい判ってる』
『ケードが言うほど、田舎じゃないぜ』
『牛やら馬が固まってる所は、俺には田舎だ』
変な理由でそれを断言するケードは、車の中にある荷物も取り出して、セスの後をついて家の中に入っていった。
* * *
アイラがゲストルームに通されて休んでいる間、龍之介と廉は、荷物だけ部屋に運ばれて、セスの家の大きな居間に通されていた。
ロッジ風の作りのその家は、正面から見た限りでも、かなり大きな家だった。
廊下を抜けると、たくさんのドアが並んでいるところを見ても、かなりの部屋数があるのだろう。
突然、やってきた龍之介達の前で、特別、困った様子もなく、その一人一人、全員にゲストルームがあてがわれたのだ。
龍之介達を迎えてくれた、少し年のいった女性は、キャサリンさんと言うらしい。
セスの兄であるケードも来ていると判り、キャサリンは、にこにこと、嬉しそうに、早速、夕食の準備に取りかかるそうだった。
久しぶりのゲストが来たので、キャサリンは、大張り切りでご馳走を作ってくれるそうだ。
ジュースをもらって一息ついていた龍之介達の前で、ケードの弟のセスが、龍之介に牧場の散歩に出ていいとのお許しが出たので、大喜びの龍之介に、更に喜ぶニュースをセスが出してきた。
『馬で移動するけど、馬に乗れるのかい?』
「馬ですか? ――乗ったことはありません。歩いていこうと考えてて……」
その通訳を聞いて、セスがなんだか笑いをこらえたような顔をしている。
『歩きだと、1日かけても終わらないぜ』
「え? そんなに大きいんですか? ――それは、すごいなぁ。そんな大きな牧場に来たのは初めてだ」
『だったら、手伝いの一人に案内させよう』
「え? ――それは、いいですよ。仕事中だったら、大変だろうし。俺は、そこら辺でも散歩しますから」
『別に。休憩する理由ができて、丁度いいだろうさ』
それで、セスが壁にかかっている電話の所に行って、受話器を取り上げ、ペラペラと、何かの指示を出していた。
その電話が終わり、セスが龍之介の方を向いて、
『初心者用の馬を用意させた。デリアは気の優しい馬だから、問題はないだろう』
「え? そうですか? ありがとうございます」
嬉しそうに、素直に、ペコッと、お辞儀をする龍之介は、そのままの笑顔を廉に向けた。
「俺、馬に乗れるんだって」
「それは、良かった」
「ああ、最高かも。アイラも具合悪くなかったら、馬に乗れるのにな」
「そうだね」
「やっぱさ、レストランで安全だと思ってたけど、どこでも食中毒ってあるんだな。アメリカに来て、初の食中毒かも」
「そうか」
変なことに感心している龍之介に、廉は笑いを噛み締めるような顔をして、それ以上は深く追求しないのだった。
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