その7-05
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『場所は分かった。俺は車の移動なんだ。パーキングまで行こうか』
『えーっと……』
『パーキング、だ。分かるか?』
『あっ、はい。わかります』
要は、駐車場のことだろう?
と言うことは、ケードは自分の車で移動するらしい。
ケードに促されて、観光用バスのバス停から、龍之介も移動していた。
ケードは背が高く、龍之介と並んでも、やはり、足の長さまで違うだけに、歩く速度が全く違う。
小走りになりかけた龍之介を見て、ケードは簡単に足の速さを遅めてくれる。
アイラの一族の人は、マレーシアでもそうだったが、英語の話せない龍之介の前でも、誰一人嫌な顔をした人はいなかったし、意思の疎通が難しいのに、それでも、いつも、龍之介二もゆっくりとした英語で話しかけてくれていた。
気を遣ってくれたり、余所者扱いをしなかったり、アイラの一族は、こう、全員が全員、会話ができなくても、そういった優しい気遣いが、いつも簡単にできる一族だったなあ、ということを、龍之介はちょっと思い出していた。
一族がそれぞれに個性的で、生まれも、育ちも違っていて、国際家族で、文化も違えば、言葉も違う。
そう言った、色々と混ざった文化を否定しないで、一族揃って、円満な付き合いができるほど、きっと、全員が、他人と違うことを特別視していないのだろう。
だから、あんなに簡単に、赤の他人の龍之介でも、優しく受け入れてくれたのだろう。
『ケードさん』
呼ばれて、ケードが龍之介を見下ろした。
『あの……、ありがとうございます』
お礼を言われた理由がさっぱり分からず、ケードも不思議そうな顔をする。
『あの……、足の――その、スピード……』
“Leg”のスピードとは言わないだろうが、それが、今できる龍之介の精一杯の英語だ。
ケードも少し考える素振りを見せて、それでも、すぐに納得したようだった。
『ああ、いいさ、別に、そのくらいはな。リュウチャンは、皆が言ってた通り、礼儀正しいんだな』
『そ、そんなこと、ないです……』
駐車場に到着すると、黒の大きな4WDの車が停まっていた。
ケードが車に乗り込んだので、龍之介も、ちょっと、助手席にお邪魔する。
車は軽快に動き出し、駐車場からメイン通りに走って行く。
『リュウチャン、アメリカに観光に来たのか?』
『あっ……、そうです。観光、です……』
『いいな。どこに、行ったんだ?』
『サンフランシスコです。〇ニーランドも!』
日本語発音の英語でも、一応、土地の名前と、かの有名な遊園地の名前は、ケードでも理解できた。
それに、〇ニーランドなんて、ケードが住んでいるロサンゼルスにあるではないか!
アイラのやつ、アメリカに来ていることを内緒にしているくらいだから、兄のカイリに邪魔されたくはなく、おまけに、ケードにも邪魔されたくない――なんて、考えていたのは、絶対に間違いないだろう。
まったく、ケードのことを、カイリ同様の邪魔者扱いして。
『これからも、ラスベガスにステイするのか?』
『いえ……』
これからも、色々な場所に回ってみたいので、ラスベガスには、アイラの仕事を終えてしまえば、用はないのだ。
『じゃあ、次はどこに行くんだ?』
『えーと……プランが、まだ……』
『へえ、そうか』
『アイラは、NYに行きたい、って……』
『まあ、NYもいいよな。有名だしな』
『はい……』
『他は?』
他? と言われても、龍之介の場合、どこに行っても、初めての旅行だけに、物珍しく、興味深く、楽しめることだろう。
今回は、一月もアメリカにいるので、NZを旅行した時のように、適当に観光地を回りながら、次の遊びを考えたり、ドライブを続けて行ったり――なんていう観光を考えていたから、計画をたくさんしてきたわけでもない。
『アリゾナには行ったことがあるか?』
『アリゾナ?』
名前は聞いたことがあるが、一体、それがどの場所なのか知らない龍之介だ。
『少し遠いんだが、俺の弟のセスがアリゾナにいるんだ』
『セスさん……?』
『俺の弟』
ああ、なるほどと、龍之介も頷いた。
“柴岬一族家系図”で、ケードの名前を確認した時、その隣に、『セス』と言う名前があったことを思い出していた。
弟のセス、だ。
『これからニューイヤーが近づいて来るから、お正月をセスの場所でのんびり過ごして、それから観光を続ければいいんじゃないのか? セスも、きっと、リュウチャンに会ったら、喜ぶと思うぜ』
さすがに、ゆっくりと英語を話してくれても、理解力には、限度があります……。
返答もできず、それで、ほとんど理解もできなかった龍之介は、ものすごい困った顔をしている。
チラッと、信号が変わる前に、その龍之介の表情を見たケードは、優しく龍之介に笑いかける。
「Let’s go to Arizona for New Year’s party at Seth’s place, shall we?」
これは、理解できた。
そうかぁ。お正月が来るから、マレーシアでアイラの一族に会えたように、お正月のパーティーで、ケードの弟であるセスにも会えるかもしれないのだ。
それは、かなり魅力的な話だ。
マレーシアで別れの挨拶をしてから、きっと、もう二度と会えない人達だろうと締めくくっていた龍之介の前で、偶然でも、ケードに会うことができた。
お正月にかけて、弟のセスにも会えたら、また、アイラの親族に会えることができる。
『どうだ?』
『あっ……、お願いします』
そして、礼儀正しく、助手席に座ったまま、龍之介がペコっと頭を下げていた。
『じゃあ、決まりだな。リュウチャンは、本当に、礼儀正しいんだな。日本人は、皆、そうなのか?』
『いえ、そんなわけでも……』
それは、人によりけりじゃないだろうか?
でも、龍之介は、特別、礼儀正しくしているとは、自分で思っていないのだったが。
ホテルに到着する前に、アイラの承諾なしに、次の旅行先はアリゾナに決まってしまっていた。
抜け目ないケードのせいで、先回りされたアイラがどんな反応をすることか。
当座は、まず、ラスベガスから姿を消すことが最優先。
それから、警察の邪魔が入らない場所で、アイラを尋問するのが次の目的。
その間、アイラの友達は、アリゾナでの観光。
今の所、ケードの計画では、左程、問題が見られない。
アイラの――猛反対と、猛抵抗がなければ、の話だが。
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